陸上・駅伝

特集:第36回出雲駅伝

駒澤大ルーキー谷中晴が“もうひとつの出雲駅伝”トップ「負けてもただでは起きない」

「強い駒澤を見せる」出雲駅伝後の記録会でしっかりと勝ち切った谷中(撮影・藤井みさ)

第4回出雲市陸協記録会

10月14日@島根・出雲市浜山公園陸上競技場

1着 谷中晴(駒澤大1年)13分49秒71
2着 白石光星(青山学院大4年)13分53秒55
3着 嘉数純平(國學院大3年)13分54秒13
4着 大谷章紘(大東文化大4年)13分54秒97
5着 金谷紘大(駒澤大4年)13分57秒12
6着 西代雄豪(大東文化大4年)14分02秒38
7着 原悠太(帝京大2年)14分03秒70
8着 宮倉騎士(大東文化大2年)14分04秒83

10月14日の出雲駅伝後に行われた出雲市陸協記録会で、駒澤大学の谷中晴(1年、帝京安積)が13分49秒71のタイムで全体のトップになった。藤田敦史監督から「勝ってこい」と言われた中での好結果。ルーキーがチームの新戦力に名乗りを上げた。

ラスト1000mでスパートし、後続を引き離しゴール

この記録会は、出場校でエントリーメンバーには入ったものの、出走がかなわなかった選手たちが出場することから、「もうひとつの出雲駅伝」と呼ばれるようになった。タイム別に2組に分かれ、2組目が始まる頃には日が暮れ、ライトに照らされながらのレースとなった。

駒澤大からは2組目に谷中と金谷紘大(4年、駒澤大高)が出場。例年とは異なり風が弱い中、ハイペースでレースが進んだ。はじめは大きな集団になり、谷中は積極的に集団の前に位置取り周回を重ねる。残り1000mとなったところで青山学院大学の白石光星(4年、東北)、大東文化大学の大谷章紘(4年、水城)、谷中の3人が抜け出した。

ラスト1周、後続を引き離し大きなストライドでスパート(撮影・藤井みさ)

谷中はラスト1周手前でさらにスパートし、後続との差を引き離していく。最後は独走となり、13分49秒71の好タイムでゴールした。従来の自己ベストである14分00秒33を10秒以上縮める快走だった。

満を持しての大学初レースで結果を残す

これが大学初レースとなった谷中。レース前には藤田監督から「全日本大学駅伝の選考レースにもつながっているから、しっかり意識して勝ち切るように」と言われていた。はじめは強い先輩たちの後につき、残り2周でスパートをかけろ、という指示を受けており、「その指示通りにきれいにレースができたかなと思います」という。

出雲駅伝ではアンカーの篠原倖太朗(4年、富里)が國學院大學の平林清澄(4年、美方)に大きく離され、駒澤大は3連覇を逃した。レース後に篠原が涙する姿を見て、谷中と金谷は「絶対にワンツーを取って、強い駒澤のイメージを崩しちゃいけない」という気持ちでスタートした。結果的に1着と5着だったが、2人とも13分台。「自分がトップも取れたので、そこは合格点をあげられるなと思います」

谷中(17番)は序盤、冷静にレースを進めた(撮影・藤井みさ)

谷中は帝京安積高校2年時に都道府県対抗男子駅伝の福島県代表に選ばれて出走。3年時は5000mでインターハイにも出場した。しかし秋にひざをけがしてしまい、そのけがが長引いてしまった。駒澤大に入学してからも、ひざの痛みが再発。その後も別の部位を痛めるなどして、本格的に走り始めたのは夏合宿前の7月下旬からだった。その夏合宿でしっかりと練習を積めたことが自信につながり、今回の結果に表れた。

ただ9月の選抜合宿で股関節を痛めてしまい、駅伝のための練習を積めていなかったことが理由で出雲駅伝のメンバーからは外れた。そのレースでは1区で同級生の桑田駿介(1年、倉敷)が区間6位。「桑田の活躍が刺激にもなりますけど、やっぱり焦りにもつながるので、そういった点ではやっぱり走りたい、という思いが強くありました」。与えられたチャンスをしっかりとものにし、全日本大学駅伝のメンバー入りへと前進した。

レース直後。並木主務(左)にねぎらわれる谷中(奥)と金谷(撮影・高野みや)

藤田監督からはレース後、「これが大事。チームで負けて、この記録会では絶対トップを取るよって言ったよな。それが実行できたってことは(本当に大事)。あとはこのあと全日本に向けてけがしないこと。今日良くても全日本を走れなかったら悔しい思いをするから、けがに気をつけてしっかりやっていこう」と言葉をもらった。

下級生が躍進「これから駒澤は面白いと思います」

藤田監督は取材陣に対しても「やっぱりこれが大事なんですよ」と強い言葉で話し始めた。「負けてもただじゃ起きないってのが駒澤なんで。本人たちにも、チームが負けた中で補欠の2人(谷中、金谷)含めてどういうレースをするかが大事だよ、という話をして送り出しました」

谷中の13分49秒71のタイムにも触れ、「49秒と50秒では全然違う、これも大事ですよ。次の全日本に向けて、駒澤は絶対負けないんだっていう、それがアピールできただけでも全然違うので。これはもう間違いなく全日本で使えますよ」とはっきり言い切った。

谷中の良さは気持ちの強さ。高校時代も3000m中学記録保持者の学法石川高校の増子陽太(2年)に「絶対負けない」と勝負を挑み、勝ち切ってきた。そして1人で走れること、ロードに強いことも彼の強みだ。「ゆくゆくは桑田とダブルエースになる可能性はかなりあります」。1年生には桑田、谷中に加えて他にも面白い選手が2人おり、2年生も島子公佑(伊賀白鳳)が今回5区区間2位と好走。島子に刺激を受け他の2年生もこれから出てくるだろうと言い、「これから駒澤は面白いと思います」と藤田監督は笑顔で話す。

「気持ちが本当に強い選手」。藤田監督からの期待も大きい(撮影・藤井みさ)

レース前に谷中と金谷に対しては「とにかく勝て」と伝えた。「とにかく勝てと。それが次の全日本に向けての駒澤の意思表示につながるんだと」。谷中の走りが出雲駅伝の負けでくじけそうなチームの雰囲気を払拭(ふっしょく)してくれた、と藤田監督。思わずこれからすごく楽しみですね、と重ねると「すごく楽しみになってきましたね」と上機嫌だった。

谷中はまだ華奢(きゃしゃ)で、体重も軽い。出力が高すぎるがゆえに体が追いつかずけがをしてしまうことが今一番の心配ではある。体ができてきたらその力をさらに発揮できるのでは、とも藤田監督は言う。

駒澤の選手の中で誰に近いですか?と聞かれると藤田監督は少し考え、「私に近いかも」。その言葉に谷中への大きな期待を感じ、驚かされた。「勝ち切る」を体現できた谷中が、伊勢路で快走する姿が楽しみだ。

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