法政大学・松下歩叶 三つの「周年」に主将就任、インタビュー後に自ら切り出した一言

法政大学の2025年度チームを引っ張る松下歩叶(あゆと、4年、桐蔭学園)の実績は折り紙付きだ。レギュラーに定着した2年秋から3季連続でベストナイン。昨年は大学日本代表でも活躍した。秋にはドラフトが控えているが、まずは「名門復活」に導く。主将として、勝つためなら何でもする覚悟を持っている。
小学生以来の大役に「行動で示したい」
今年、法政大学野球部では三つの「周年」が重なる。まず、加盟している東京六大学野球連盟が今秋、発足100周年を迎える。そして1915年創部の法大野球部は110周年。さらに、いつも熱い応援でスタンドを盛り上げる法大応援団も創設100周年だ。
松下はこのメモリアルイヤーに主将の背番号「10」を背負う。昨秋はリーグ最多の5本塁打を飛ばし、満票で3度目のベストナインに輝いた。「法政の10番は歴代のそうそうたる方が付けてきた背番号。とても重みを感じますが、節目が重なった年に主将としてプレーできるのはありがたいことだと思ってます」と話す。

主将になるのは、所属していた少年野球チームと横浜DeNAベイスターズジュニアチームで務めた小学生以来。法大では「行動で示していきたい」と考えている。
「言葉で鼓舞するよりも、自ら体現すること、背中で示すことにこだわっていきたいです。練習に取り組む姿勢や、野球以外の日常生活の姿で、僕が伝えたいことを見せていくつもりです」
一方、言葉で伝えたいものもある。今年のチームスローガンは「執念」。これは松下が発案した。「いまの法大に一番欠けているのが『執念』だと感じていたからです。ただ、僕が決めたわけではなく、選手間で案を出し合ったところ、『執念』に賛同が集まりました」

高校時代のチームメート・木本圭一も明大の主将に
法大は過去にリーグ4連覇を3度果たすなど、言わずと知れた名門だ。プロの世界で一時代を築いたOBも数多くいる。だが昨年、通算のリーグ優勝回数を早稲田大学に抜かれた。ここ10年間でのリーグ制覇は2度。名門としては寂しい成績だ。
昨秋も、下級生の時からエースを務めた篠木健太郎(現・DeNA)と松下という投打の柱を擁しながら、勝率5割で3位と優勝には届かなかった。勝ち切るには何が必要か……。松下は勝負に対する「執念」が明暗を分けると、痛感したのだろう。
同じ東京六大学の主将で意識しているのが、明治大学主将の木本圭一(4年、桐蔭学園)だ。高校時代は木本が主将で、松下が副主将だった。松下は「木本がいなければ、今の自分はなかったです」と口にする。
2人は当時から仲が良く、今もよく連絡を取り合う。ともに「東京六大学の主将」になってからは、主将に関する会話が多くなったという。「リーダーの在り方について、よく談義を交わすようになりました」
昨春は2人ともベストナインに選出された。このときだけは喜びを分かち合ったが、いざグラウンドに立てば、お互いをライバル視している。「プレーヤーとしても負けたくないですし、木本が主将の明大にも絶対に負けたくないです」

プロに行きたい気持ちが強くなった篠木健太郎の存在
松下にとって今年はドラフトイヤーでもある。走攻守のすべてでレベルが高く、長打力もある。しかも、少なくなっている右打ちの内野手。NPBのスカウトから熱い視線を浴び、昨秋のドラフト直後には、DeNAから2位指名を受けた篠木から、「来年はお前の番だぞ」と声をかけられた。
「プロは野球を始めた時から目指している場所ではあるんですが、篠木さんからそう言われて、『あと1年しかないんだな』と。ワクワク感と不安が入り交じったような心境になりました」
篠木がDeNAに進んだことは、松下にとって大きな刺激になっている。
「DeNAは神奈川出身の僕にとって、子どもの頃から球場でもよく見ていたプロ野球チームです。それに高校の2年先輩で、いまも憧れている森敬斗さんがいます。ずっと手が届かない別世界だと思ってましたが、一緒にやってきた篠木さんが入ったことで、より一層プロに行きたい気持ちが強くなりました」

昨秋は松下にとって飛躍のシーズンになった。5本のアーチをかけただけでなく、3割5分2厘の高打率をマークし、リーグ2位の13打点を挙げた。好成績につながった要因が、大学日本代表での経験だ。「レベルが高い選手と一緒にできて、そこで結果を残せたのは自信になりました」。昨年は初めて大学日本代表に選出され、プラハ(チェコ)、ハーレム(オランダ)と続いた国際大会に出場。ハーレム大会では、アメリカとの決勝で逆転2ランを飛ばし、優勝に貢献した。
打席では意識を変えた。
「それまではヒットが打ちたいと、結果を求めていたのですが、そうではなく、自分のバッティングをすればいいと思えるようになったんです」
秋に量産したホームラン数もその賜物(たまもの)だ。「狙っていたわけではなく、自分のスイングをすることを心掛けていただけです」と松下。しかし「たまたま」で5本は放てない。ベースとして長打力があるから、狙わなくても長打が出た。
打撃には「これが正解」というゴールがない。「そこが打撃の奥深いところであり、追求しがいのあるところです」。現在はさらなる進化を求め、センターから右方向に強い打球を打つ技術を磨いている。東京六大学リーグで放った8本の通算本塁打は、すべてレフト方向。今年は広角に長打が打てる打者になるつもりだ。

「優勝のためなら何でもしたい」
バットはメープル素材のモデルを使っている。重さは操作性を重視し、870kgと少し軽めだ。
「原型は大学ジャパンで一緒だった、近畿大学の勝田成(4年、関大北陽)のバットです。国際大会では前半、不調が続いたんですが、勝田のバットを借りたところ、しっくりきまして。そこから調子が上がったんです。帰国後、勝田のバットをもとに、重さと長さを自分の好みにしたバットをオーダーしました」
松下には今年、どうしても攻略したい投手がいる。早大のエースで、ドラフト候補でもある伊藤樹(4年、仙台育英)だ。3年春の初対戦以来、伊藤からまだヒットを打っていない。「頭を使って投げてくる投手なので、こちらもこれまでの対戦を踏まえながら、打席に立つつもりです」。早大は松下が唯一本塁打を記録していないチームでもある。伊藤を攻略し、早大戦でホームランを飛ばす。来たるリーグ戦で自分に課しているテーマの一つである。
インタビューの終わり、理路整然と受け答えをしていた松下が、自らこう切り出した。「勝ちたいです。今年は本当に……優勝のためなら何でもしたいと思ってます」。名門復活へ。HOSEIが誇る右のスラッガーは、三つの「周年」が重なる年に必ず、優勝という花を添える。

