法政大・篠木健太郎 右肩の張りから復帰、ドラフトイヤーは個人もチームも「1番」を
木更津総合高校(千葉)時代から注目されていた法政大学の篠木健太郎(3年)。2年春から名門のエースとなった右腕が、いよいよドラフトイヤーを迎える。昨秋は肩の張りで無念の途中離脱になったが、順調に回復。万全な状態でマウンドを守り抜く。
科学的データで裏付けられた、理想的な縦回転
篠木の魅力は何と言ってもストレートだろう。コンスタントに150キロ前後をマークし、現在の最速は157キロ。スピードもさることながら、特筆すべきは、ボールが浮き上がるように見えるその軌道だ。アマチュア野球でも150キロ超の速球を投げる投手は少なくないが、篠木のようなバックスピンがかかったストレートにはなかなかお目にかかれない。
それは科学的なデータでも裏付けされている。もともと篠木は自分の感覚を大事にするタイプ。弾道測定分析機器にはあまり関心がなかったが、1度だけ計測したところ、プロも含む多くの投手を測定してきた担当者を驚かせた。
1分間におけるストレートの回転数は、2200から2300。これもNPB投手の平均(2300)くらいと、ドラフト上位候補らしい数字を残したが、際立っていたのが、回転効率だ。弾道測定分析機器では、回転軸が地面に対して垂直になっている状態を、アナログ時計における短針の「0時」のラインと定義している。篠木が測定したボールの回転軸は0時30分か40分で、理想的な縦回転であることを示していた。
「今永昇太さん(現・カブス)のストレートのデータに近い、と測定した方から言われました」
篠木が質の高いストレートを追求するようになったのは法大に入ってから。最速147キロだった木更津総合高時代は、そこまで考えが及ばなかったという。
「根底には、打者がストレートに張っていても打たれないボールを投げたい、というのがあります。それにはもちろんスピードも大事ですが、ベース板での強さ、伸びが必要。直線的に上に伸びていくボールというよりも、1度沈んでから浮き上がるストレートを目指してます」
無駄のない出力のため大事にしているステップ
中学時代にピンポン球で野球遊びをしていたときのイメージを参考にしている。「縦に切るように投げると、沈んでから大きくホップしたんです」
そういうボールを投げるため、篠木は試行錯誤を続けている。「いまは自分が投げる方向であるラインに向かって、ボールを(親指、人さし指、中指)3本で潰す感覚で投げてます」。本人にしかわからない感覚である。たまに後輩の投手から「どうすれば、(篠木のような)スピンがよくかかったボールを投げられるのか」と聞かれるようだが、伝えるのも、理解してもらうのも難しいという。
目指しているストレートを投げるには、高い出力も求められる。篠木は光電管センサーで計測した50m走のタイムが5秒9。瞬発力の目安となると言われている走力は備わっているが、身長177cmと投手としては決して大きくない。篠木は「この上背でいかに無駄なく出力するかもテーマにしてます」と話す。
そこで大事にしているのがステップだ。
「ステップする左足で出ていくのではなく、軸足で押し込むように出ていきます。軸足にためた体重をかけながら、パワーを伝えているんです。ステップに『いこう』とすると、左足を着地させる場所を探ってしまい、その動きでパワーをロスしてしまうので」
持っているパワーが大きくなれば、その分、軸足で押し込むスピードも加速することから、昨年の11月からは体重増にも励んだ。毎日の食事の回数を4、5回に増やして、トレーニングに取り組んだ結果、昨秋の体重73kgから7kg増えた。「体のキレはそのままに、ボールにより体重が乗るようになりました」
篠木はスライダー、カーブ、カットボール、フォークと変化球も多彩だ。この4種類に、昨秋から新たに加わったのが、「タテのカットボール」である。「3本の指で潰しにいくストレートの握りをほんの少しずらしてみたら、わずかに沈みまして」。偶然の産物として、あまり投げられる投手がいない変化球を手に入れたという。
ノースロー期間中に見直した投球フォーム
「昭和の怪物」とうたわれた江川卓氏(元・読売ジャイアンツ)も背負った法大のエース番号「18」を託されたのは2年の春。このシーズンから先発投手の軸になった。エースとしてマウンド経験を積んでいった篠木は昨春、リーグ1位の防御率0.68と圧巻の数字を残した。
しかし、昨秋は3カード目の東京大学との1回戦で1イニングを投げたのを最後に、右肩の張りで離脱した。疲労が出てしまったのだろう。篠木は2カード目の慶應義塾大学戦で4試合中3試合に登板。延長12回引き分けに終わった3回戦では10回無失点と好投し、翌日の4回戦もリリーフで2回を投げていた。
リーグ戦に登板できなかった期間、2年春からフル回転してきた篠木は、自分と向き合った。
「あれほど長く試合で投げられなかったのは、野球人生で初めてです。どこかで、自分はいくら投げても大丈夫、という過信めいたものがあったのかもしれません。もっと体をいたわらなくては、と思いました」
昨年12月上旬の「侍ジャパン」大学代表候補強化合宿で実戦復帰したが、年内はノースローとし、肩を休めた。ボールを投げなかった分、考える時間ができたので、そこでフォームを見直したという。
「修正したのは足の上げ方です。高く上げていたのを少し低くしました。そうしても出力は変わらないと気づいたからです。足を高く上げていたのは、大きくない体をめいっぱい使うためでしたが、筋力がアップするなど、年々、体が成長していくなか、余分な動きになっていたのです。余分な動きはエネルギーの消耗にもなります。長くマウンドに立つためにも、フォームは出来るだけシンプルにしていくつもりです」
肩書で責任を負うのではなく……
ドラフトイヤーという特別な1年に臨む篠木には、心強い理解者がいる。法大OBで元プロの大島公一監督だ。今年から法大を率いている大島監督は、NPB通算1088安打をマークするなど、プロの世界でも活躍。オリックス・バファローズのコーチを10年間務めた経験もある。
篠木は最上級生になるのを前に、主将か副主将の役職に就くことが検討されていた。リーグ戦経験が豊富であり、2021年にはエースの三浦銀二(現・横浜DeNAベイスターズ)が主将だった例もあった。大島監督からも「幹部として引っ張ってほしい」と要望されていたが、個人的にも大切な1年だからと、最終的な判断は篠木に委ねてくれたという。
考えに考えた末、篠木が選んだのは、肩書で責任を負うのではなく、投手に専念する道だった。ただし、自分がすべきことは変わらない。これまでの経験をチームに還元しながら、エースとして先頭に立つ。
「優勝したい思いは強いです。1番でなければ、2位以下はすべて一緒。それくらいに考えてます」
本人いわく「とにかく負けず嫌い」。両親からは「やると決めたものは何でも1番になりなさい」と言われていたという。
「自分も大事にしてほしい」と配慮をしてくれた大島監督に応えるためにも、チームと個人の両方で「1番」を、「大学日本一」と「ドラフト1位」をつかみ取るつもりだ。