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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

立教大学・荘司康誠 高校時代は無名、ドラフト上位候補の計り知れないポテンシャル

東京六大学を代表する投手に成長した立教大の荘司(撮影・井上翔太)

高校時代は無名で、頭角を現したのは3年春。立教大学の荘司康誠(こうせい、4年、新潟明訓)は遅咲きのエースだ。リーグ戦初登板からわずか1年半で、大きな進化を遂げた。今秋のドラフト上位候補でもある荘司に、これまでの道のりと、最後の秋にかける思いを聞いた。

特集「2022年 大学球界のドラフト候補たち」

これという強みがなかった高校時代

荘司は今春、6試合に先発し、防御率はリーグ3位の1.72。東京六大学を代表する右腕は侍ジャパン大学代表にも選出され、7月に行われた「ハーレムベースボールウィーク2022」にも出場した。現在、溝口智成監督のもとには、NPB7球団が挨拶(あいさつ)に訪れているという。188cmの身長から投げ下ろすストレートは、8月の東京六大学オールスターゲームで自己最速の157キロをマークした。

「プロ」を漠然とした目標ではなく、現実のものとして見据えている今、テレビ中継の見方も変わった。

「ヤクルトの村上宗隆選手の打席を見ていても、自分ならどうやって抑えるか、考えるようになりました。どんな強打者であれ、打ち取れないとプロの世界ではやっていけないので」

それにしても……と荘司は振り返る。「大学入学時は今の自分が想像できませんでした。野球部内のレベルも高く、リーグ戦で投げることも難しいのでは、と感じていたので」

高校時代は新潟大会の1回戦で敗れた(撮影・朝日新聞社)

立大には指定校推薦で入った。高校では春1回、夏6回の甲子園出場がある強豪校のエースだったが、学業もおろそかにせず、評定平均は4.9だった。野球の実績としては、2年春に北信越大会のマウンドを経験したが、3年夏は1回戦敗退。ストレートの最速も130キロ台後半と、これという強みがなかった。

肩のけがで、裏方に回ることも考えた

そこで、大学ではフォームの改造に取り組んだ。「体を大きく使って、球速を上げようと、テイクバックも背中に入るくらい大きくしました」。しかし、これが肩のけがにつながってしまう。1年生の終わり頃から2年秋までの半年余りの間、全くボールが投げられなかった。

「思い返すのも嫌なくらい、つらい時期でした。選手は諦めて、裏方に回ろうか。そんなことも考えました」

それでも荘司は諦めなかった。この間、もともと硬かった体の柔軟性を高めるなど、自分で勉強しながらフィジカル面を見直した。大きかったのはプロ野球選手からの信頼も厚い、北川雄介トレーナーとの出会いだ。北川氏の指導を受けながら、フォームもけがをしにくいものへと修正。テイクバックもコンパクトにした。

肩の痛みに悩まされる時期もあったが、諦めなかった(撮影・上原伸一)

ようやく肩の痛みが治まると、11月の「オータムフレッシュリーグ」では、東海大海洋学部との試合で149キロを計測。そのポテンシャルが、いよいよ萌芽(ほうが)する。

恵まれた体とアスリートとしての資質は、両親からの授かりものだ。元高校球児だった父・聡さんも184cmの長身。高校時代にバレーボールの実業団から声がかかった母・裕子さんは174cmあるという。「親にもらったものを大切にしたいです」と話す荘司は打撃も良く、今春は2本のホームランを放っている。

リーグ戦初登板初先発となった、昨春の東京大学2回戦では、二回途中3失点とほろ苦い結果となった。ただ、抑えを任された慶應義塾大学1回戦では151キロをマークした。

荘司?誰?

突如現れた無名投手のイキのいいストレートに、スタンドからはどよめきが起こった。

続く秋のリーグ戦では準エース格に。全ての2回戦で先発を任された。最長で六回途中までと、5試合とも中盤でリリーフに託したが、いずれも2失点以下と試合を作った。負ければ優勝の可能性がなくなる4カード目の慶大戦は、5イニングを無失点に。勝負強さも発揮した。「昨秋のピッチングは自信になりました。プロでやっていけるのでは、と思うようにもなりました」

8月末に行われた高校ジャパンとの壮行試合で先発を務めた(撮影・井上翔太)

「周りの音が聞こえず、バッターと捕手のミットだけ」

昨秋の成績は、進化の序章に過ぎなかった。さらなる姿を見せたのが、「勝ち点制」が復活した今春だ。2戦先勝の制度では、各校ともエースの真価が問われる。荘司は3カードで1回戦に先発して2勝を挙げると、慶大戦では3連投(2回戦は救援)し、明大戦では1、3回戦で先発。まさにフル回転だった。

中でも特筆すべきは明大戦だ。このカード、勝ち点を奪ったほうが優勝の大一番だった。荘司は1回戦で「八回の壁」を乗り越え、初めて九回まで投げ切った(試合は延長十二回引き分け)。マウンドを降りるまでスピードは落ちず、九回に150キロ台を連発した。

「九回に1点を取られて同点にされたのは反省点ですが、完投できる投手になろうと、昨秋のリーグ戦後から、細かいところまで意識しながら練習に取り組んできました」

この試合は、これまで感じたことがない研ぎ澄まされた感覚があったという。

「周りの音が聞こえず、バッターと捕手のミットだけに集中できました。何か、目に見えない力が働いていたような……ゾーンに入っていた? そうかもしれませんね。とにかく明大のバッターの気迫がものすごく、その気迫がこれまでにない集中力を引き出してくれたのかもしれません」

捕手・黒岩(右)との息もぴったり(撮影・井上翔太)

3回戦の先発は不安もあったという。果たして1回戦と同じような投球ができるか、と。だが、負けるわけにはいかない。立大は2回戦で敗れており、後がなかった。荘司は落ち着いて、丁寧に投げた。八回で降板したものの、2安打9奪三振無失点。内容は1回戦を上回った。「あんなピッチングができるとは思いませんでした」。本人も納得できる、まさに「エース」の姿だった。しかし、試合には勝てず、目の前で明大の優勝が決まった。試合後の会見、荘司はまぶたを赤くはらしていた。

「自分の内容は良くても勝てなかった。ただただ悔しかったですね。どうすればこういうところで勝てるのかと、自問自答していました」

それでも明大戦2試合での好投が自信になったのは、間違いない。春のリーグ戦後、荘司は進路を「プロ1本」に絞った。

伊藤大海の足の上げ方を参考に

侍ジャパン大学代表でも、エース格として起用された。「ハーレムベースボールウィーク2022」予選ラウンドではアメリカ戦に先発し、4回を3安打無失点。積極的に振ってくるアメリカの打者から4三振を奪った。2度目の先発となったアメリカとの3位決定戦では、練習中のチェンジアップに手応えを感じたという。

伸びしろは計りしれない(撮影・井上翔太)

荘司の変化球はカーブ、スライダー、スプリットの3球種。スライダーはカットボールに近い軌道で変化する。「変化球の種類を増やしたい、という気持ちもありますが、まずはそれぞれのクオリティーを高めたいです」

代表チームでは出会いもあった。「特によく話したのが、(同じドラフト上位候補の)専修大学の菊地吏玖(りく、4年、札幌大谷)です。普段どんなトレーニングやストレッチをしているか、教えてもらいました」

ライバル視している投手も、目標としている投手もいない。投球フォームは北海道日本ハムファイターズの伊藤大海(ひろみ)の足の上げ方などを参考にしながら、自分を高めることに邁進(まいしん)し、階段を駆け上って来た。

大学での実働3シーズンで、投げるたびに進化し、投げるたびに評価を高めてきた。その伸びしろと、計り知れないポテンシャルは、プロのスカウトも注目している。大学最後の秋。「勝てる投手」になるという課題を、17年春以来となる優勝に導くことでクリアし、ドラフト上位指名を勝ち取るつもりだ。

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