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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

専修大・ 菊地吏玖 対戦相手は先にプロへ、自信を胸にめざす東都2部からのドラフト

走者を背負ったときに投球のギアを一つ上げて抑え込むのが持ち味だ(撮影・小川誠志)

上位校と下位校、1部校と2部校の実力差が小さく、「戦国」と呼ばれる東都大学野球リーグには、2部にも能力の高い選手が多い。今春のリーグ戦にもプロ野球チームのスカウトが多数、視察に訪れた。最速152キロを誇る専修大学の本格派右腕・菊地吏玖(りく、4年、札幌大谷)も、スカウトの熱視線を浴びるドラフト候補の一人だ。

投手としての安定感、野手に与える安心感

今春の東都2部リーグ戦で菊地は先発6試合、リリーフ3試合の計9試合に登板。52回3分の2(2部最多)を投げ、防御率1.20をマークした。目標にしていた2部優勝、1部昇格には手が届かなかったが、2部の最優秀防御率とベストナインのタイトルを獲得した。専修大を率いる齋藤正直監督は「投手としての安定感、野手に与える安心感、それが菊地にはある」とエースに全幅の信頼を寄せている。

捕手として菊地とバッテリーを組み、主将としてチームをまとめる新出篤史(4年、函館大有斗)も「菊地はハートが強くてピンチでも物おじしない。マウンドでもベンチでも、気持ちを前面に出して雰囲気を盛り上げてくれる。チームにパワーを与えてくれる存在です」と菊地の存在の大きさを認める。

捕手で主将の新出(右)ら、チームからの信頼も厚い(撮影・井上翔太)

国際大会でも実力を発揮

身長183cm、体重93kgの恵まれた体格、ワインドアップから放つ速球は、最速152キロ。この速球にツーシーム、スライダー、フォーク、カーブを織り交ぜ、打者を打ち取る。走者を背負うとピッチングのギアを一つ上げ、力強い速球で三振を狙う。投手としての自分のアピールポイントについて、菊地はこう語る。

「チーム事情的に、自分は初戦に先発、2戦目にリリーフとか、1戦目と3戦目に先発という感じで投げなければいけない。体力をどう使っていくか、力の入れどころ、抜きどころみたいなものを大学で投げるうちに身につけてきました。ピンチを背負ってからは、ギアを一つ上げてなんとか相手に点を与えないピッチングができる。そこが投手としての自分の長所だと思います」

東都2部の所属ながら大学日本代表に選ばれ、秋のドラフト候補でもある(撮影・井上翔太)

今夏には2部リーグの所属ながら、侍ジャパン大学日本代表入りを果たし、7月、オランダで行われた第30回ハーレムベースボールウィークに出場した。オープニングラウンド第3戦・キューバ戦では、2番手で登板し3イニングを無失点に抑えて勝利投手に。先発した第5戦・オランダ戦では、4イニングを投げ無失点と試合を作り、勝利を呼び込んだ。計3試合に登板し、8イニングを無失点の好投。国際大会でも存分に力を発揮した。

自信をつけた高校2年夏の北海戦

飛躍のきっかけは高校2年の夏、南北海道大会の準決勝、北海戦での好投だという。先発と2番手が早々に打ち込まれ、菊地は3番手として一回2死からマウンドに上がった。5回3分の1を投げ、3安打1失点。北海には大型右腕の阪口皓亮(現・横浜DeNAベイスターズ)、日立製作所でプレーする左腕の多間隼介、前年夏の甲子園では2本塁打を放った川村友斗(現・福岡ソフトバンクホークス)らを擁し、投打にレベルの高いチームだった。

序盤の失点が響き、札幌大谷は7回コールドで敗れたが、「北海はその年、優勝して甲子園に出てますから、そういうチームを抑えられたということが自信になりました」と菊地は言う。

高校時代から最速144キロをマークし、プロ入りも考えていたが、翌年の夏は南北海道大会の初戦で札幌光星高に打ち込まれ、敗れた。高校野球を終えて、プロか進学かで悩んだが、大学のレベルの高い環境で自分を磨き、4年後のプロ入りを目指そうと考え、大学進学を選択した。

高校時代は投げた際に帽子が飛ぶほど迫力のある投球していた(撮影・朝日新聞社)

昨春は現在巨人の赤星と互角の投げ合い

専修大に進学後は、2年秋からリーグ戦のマウンドに上がり、エース格として投手陣を引っ張ってきた。専修大は東都で最多となる通算32度の1部優勝を誇る名門だが、2017年春の2部降格以降、なかなか昇格できずにいる。菊地がリーグ戦にデビューした20年秋以降の4シーズン、終盤まで優勝を争いながら3位、2位、2位、2位と勝ち切れていない。

昨春の最終週、優勝をかけた日本大学の1回戦で、菊地は赤星優志(現・読売ジャイアンツ)と投げ合い、3安打に抑えて1失点で完投したが、打線が得点できずに0-1で敗れた。菊地は翌日の2回戦も先発完投したが、4-4の引き分けに終わり、勝率の差で日大に優勝を譲った。日大は入れ替え戦も勝ち抜き、1部昇格を果たした。

昨春に日本大学の赤星と互角に投げ合ったことは、スカウトの高評価につながっている(撮影・井上翔太)

「日大はその後、1部で戦っている。去年、自分たちがあの試合に勝てていれば、1部に上がっていたかもしれないし、そうなれば日大と同じような、あるいはそれ以上の成績を残せたという自信はあります」。菊地は悔しそうに、昨春のリーグ戦最終戦を振り返る。それでも、プロ入りした赤星と互角に投げ合ったことは、菊地の評価を上げ、本人にとっても大きな自信になっている。

 打席に入ったときは、左打ちの長距離砲に変身

投手としての高いポテンシャルに加え、菊地にはもう一つの大きな武器がある。バッティングも得意で、飛距離に関してはチームでも上位に入るという。「ロングティーでバックスクリーンに当てられますよ」。前述した高校2年夏の北海高戦では、阪口から本塁打を放った。DH制を採用している東都では打席に入る機会はなかなかないが、齋藤監督も「菊地はバッティングもいいですから、秋はDHに入れるかもしれない」とニヤリと笑う。左打ちの長距離砲・菊地吏玖が打席に立つときは、その長打に注目してほしい。

高校時代は打者としても活躍。秋のリーグ戦、DHで打席に立つことはあるか(撮影・朝日新聞社)

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