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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

亜細亜大学・青山美夏人 プロ入りの夢実現のため、今季は「人生をかける」

亜細亜大学の絶対的エースに成長した青山美夏人(試合の写真はすべて撮影・井上翔太)

「美しい夏の人」と書いて「みなと」。
まるでトレンディードラマの主人公のようなその名前は、夏生まれ(7月)で、母親の久美さんから1文字をもらって付けられた。「素敵な名前だね」と言うと、「ありがとうございます」と会釈し、「一発で読める人はほとんどいません」といたずらっぽく笑った。そんな穏やかな表情が、ひとたびマウンドに上がると一変する。青山美夏人(4年、横浜隼人)は亜細亜大学のエースとして、この春の東都大学野球リーグ戦ではまさに獅子奮迅の投げっぷりだった。

頼もしき「大学野球のエース」

全5カードで初戦に先発。開幕から3カード連続で1勝1敗となり、中1日の第3戦も託された。「週が空けばまだいいのですが、2週続いたときは正直きつかったです」と苦笑する。2戦目のベンチでは「勝ってくれ」と願いつつも、負けたら「よし、明日行くぞ」と気持ちを切り替えた。

球数制限が議論される「投げない時代」に、昔ながらの頼もしき「大学野球のエース」たる姿だ。「そういう先輩たちを見てきているので、それが当たり前だと思っています」と言う。

厳しさで知られる生田勉監督も「青山は自信を持って投げている。任せているので、何も言うことはありません」と全幅の信頼を寄せる。とはいえ、コンディションには細心の注意を払い、疲労が見えた3カード目の中央大学との第1戦では、まだ球数が少なかった序盤に降板させ、第3戦の8回2安打無失点という好投につなげた。

最終学年の今季は、すべて第1戦を任されてきた

中学時代に「スプリット」を習得

登板した8試合、チームはすべて勝った。四つの完投勝利を含むリーグ最多の6勝を挙げ、防御率も1.40で1位。チームを2013年秋以来の完全優勝、通算27度目のリーグ制覇に導いた。記者投票による最優秀投手、ベストナイン、最高殊勲選手(MVP)のタイトル独占に、誰も異論は唱えなかった。

伝家の宝刀となっているのが、鋭く落ちるスプリットだ。横須賀シニアに所属していた中学時代に習得し、磨きをかけてきた。覚えたての頃は、ボールを人さし指と中指で深めに挟むフォークに近い球だったが、高校で握りを浅くし、落差は小さくても球速のあるスプリットに改良して、今に至る。

高校時代から、そのスプリットと140キロを超えるストレートという縦の配球で勝負していた。大学入学後、走り込みと投げ込みで球速が150km近くまで上がり、スプリットもより効果的となった。1年秋にリリーフで神宮デビューを果たすと、シーズン後半には先発も経験。2年秋のリーグ戦では防御率1位。順調にステップを踏んでいた。

マウンド上とは変わり、インタビューでは笑顔を向けてくれた(撮影・矢崎良一)

鍛えながら体重を上げる肉体改造

だが3年の春につまずいた。デビュー直後は勢いで押し切れても、シーズンを重ねるうちに他校に研究され、対応された。東都の厳しさとも言える。

そこへ、けがが追い打ちをかけた。右肩の腱板(けんばん)が軽い炎症を起こし、腕が思い切り振れなかった。ショートリリーフで起用され、ごまかしのピッチングでしのぐしかなかった。決定打になったのが、3年秋の最終戦。國學院大學を相手に先発を任されたが、ゲームを作れず、六回途中3失点で降板した。

「どれもこれも中途半端で、自信になる部分が何もない。何かを変えていかなくては通用しないと実感しました」

オフの間は、ひたすら走り込んだ。これまでは練習で追い込むと体重が落ちていたが、筋力トレーニングを並行して行い、食事の量も増やすことで、鍛えながら体重をアップさせる肉体改造に成功した。シーズンが始まると、それが球威の向上だけでなく、厳しい試合が続くリーグ戦を乗り切るスタミナの土台になっていた。

徹底的な走り込みと筋力トレーニングで、体を作り上げた

緩急の幅を広げた「亜大ツーシーム」

また寝食を共にし、一緒に練習してきた先輩投手たちからも学んだものがあった。

2学年上の平内龍太(読売ジャイアンツ)の圧倒的なスピードボールを見て、「スピードで勝負しても勝てない」と自覚した。逆に1学年上のエース、松本健吾(トヨタ自動車)が得意としていた制球力とコンビネーションで抑えるピッチングを、なんとか自分のものにしたかった。

「松本さんは、いつも打者を見て投げていました。僕ももう少しピッチングの幅がないと、勝てるピッチャーになれない」

ストレートも変化球も、コーナーにきちんと投げ分けることを意識した。そうすることで、これまでの縦だけでなく、横の幅も使えるようになった。

緩急も手に入れた。東浜巨(福岡ソフトバンクホークス)や山﨑康晃(横浜DeNAベイスターズ)ら、亜大の投手が武器にする「亜大ツーシーム」を青山もマスターしている。青山の場合、他の投手が投げるような鋭く落ちるものとは違い、緩く、フワッとした軌道で落ちる。このボールをピンチの場面でも思い切って投げ切れるようになった。

大学で習得した「亜大ツーシーム」が緩急の幅を広げた

「漠然とした夢」が「近い目標」に

大分で開催された開幕戦のPRビデオで「人生をかけるつもりで投げる」と決意を口にした。チームを背負うエースとしての覚悟を表す言葉だが、そこには「ここで結果を出して人生を切り開く」という思いもある。「高校時代に実績を残せていないので、アピールしなくては先に進めませんから」

高校3年の夏、優勝候補に挙げられながら南神奈川大会の初戦で姿を消した。アピールする間もなく高校野球が終わり、進路の選択を迫られた。青山の思いを知る水谷哲也監督から「厳しい環境の中で4年間頑張ってみろ。それがプロへの一番の近道になる」と勧められ、亜大進学を決意した。

「自分なりにここまで頑張ってきたつもりです。当時は漠然とした夢でしかなかったけど、今はかなり近い目標になってきた気がしています」

6月6日に開幕する全日本大学選手権は「野球をやってきて、初めての全国大会なんです」と目を輝かせる。「美しい夏の人」は、初夏の神宮球場でどんな輝きを見せてくれるのだろうか。

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