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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

グラブに「就活中」の文字 大阪経済大・才木海翔、自慢の速球で切り開く道

大阪経済大の才木海翔は、ストレートが魅力の本格派だ(撮影・小中翔太)

近代野球では、プロ野球のオールスター戦を除けば、まず見られないような配球だった。

昨秋の関西六大学リーグ最終節、大阪商業大学との1回戦。大阪経済大学の才木海翔(かいと、4年、北海道栄)は1点を追う九回に、リリーフとしてマウンドに上がった。ストレートのみで三者凡退。翌日の2回戦も、4番の福元悠真(現・中日ドラゴンズ)の初球にフォークを投げた以外は、すべてストレートで勝負した。2日間で投じた22球中、21球がストレートで、いずれの試合も無失点。安打を許さず、3奪三振と文句なしの内容だった。

慌ただしい準備を余儀なくされた今季初戦

リーグ戦の前半は、先発投手として完封勝ちを収めたこともあり、終盤は最優秀防御率賞のタイトルをわずかな差で争っていた。最終盤に差し掛かり、1イニングを抑えればタイトルに半歩前進、1点でも失えば致命的という状況で、春まで4連覇中だった強打の大商大打線を圧倒した。この2イニングが決め手となり、防御率0.74でタイトルを獲得。今年3月9日に行われたオリックス・バファローズ2軍とのオープン戦では、4イニングを無失点に抑え、三回まで変化球を使わなかった。自慢のストレートはプロの打者にも通用した。

ピンチを招き、才木(右)は平川投手コーチ(中央)から助言を受けた(撮影・小中翔太)

最終学年で迎えた春の初戦は、下級生の投手がオープン戦で好調だったこともあり、リリーフで待機した。出番がやってきたのは、味方が2点差を土壇場で追いついた九回だった。敗れた場合は、翌日に先発する予定だったため、才木は試合の終盤に差し掛かると、ブルペンからベンチに戻っていた。試合が振り出しに戻り、慌ててブルペンに走ったものの準備が不十分な状態でマウンドに上がった。

それでも九回裏は、140キロ台中盤から後半のストレートを連発し、三者凡退に抑えた。2イニング目となった十回、自らの失策も絡み、1死満塁のピンチに。ここでスライダーが引っかかり、本塁の手前でワンバウンドさせてしまった。

痛恨の暴投となり、サヨナラ負け。大学ラストイヤーは、黒星スタートとなってしまった。「ストレートの質は悪くなかったんですけど、その分、変化球がかかり気味になったのが、負けの原因かと思います。自分的には後ろ(リリーフ)が好きなんですけど、難しいんやなと思いました。いきなりだと心の準備もできていない。でも、それができないと、上のレベルではしんどいんじゃないかなと思います」と反省した。

ブルペンで肩を作る才木(撮影・小中翔太)

「圧倒してほしい」と揺るがぬ信頼

初戦独特の硬さと、九回2死からの同点劇。どんな投手でも100%の力を出すことが難しい状況で登板し、自己採点は「ストレートが60点で変化球は0点」と辛かった。

ただ、首脳陣からの信頼は揺らがない。山本和作監督は「悪くはなかったと思うんですけど、もうちょっと良い形で投げさせてあげたかった」。リリーフでも先発でも、十分に通用すると言い、「リリーフの方が、気持ちも乗っていけるんちゃうかな。でも先発したときに、圧倒したピッチングができるのも事実やと思います」。今後の起用は、状況に応じて決める。「ケガすることなく、リーグ戦を完走させることが一番だと思います。彼なしで優勝がないのは間違いないので。この春は圧倒したピッチングを見せてほしい」

高校時代から速球派右腕として活躍していたこともあり、下級生の頃はスピードガンと勝負しがちだった。さらに上の世界で勝負するため、球質の改善を求めて練習に取り組んできた。ようやくポテンシャルを発揮したのが、2試合連続完封を果たし、最優秀防御率賞を獲得した3年生秋だった。

才木は高校時代から、本格派右腕として名をはせた(撮影・朝日新聞社)

縦回転が強いストレートの回転数は、1分間あたりで2400や2500をマーク。大きなホップ成分を生み出すことができ、打者は伸びを感じる。大学入学時に66kgだった体重はいま、80kgを超えた。平川隆亮投手コーチは、「1、2回生の頃は自分のことしか頭になかった。けど今はブルペンで待機しているとき、後輩に声をかけていたので、そこの成長はあると思います」と目を細める。

野球人生を決める上で、最も大きな山場

最上級生、エース、秋にはプロ野球ドラフト会議。様々な思いを持ってマウンドに上がる才木は「春が一番大事な中で、初戦を落としてしまった。これからは、自分が投げたら勝つ試合にしたい。個人の目標も大事ですけど、チームを勝たせられるのがエース。自分の中で頑張ったと思える春にしたいです」と意気込む。野球人生を決める上では、高校生にとって夏の大会が大きなクライマックスなら、大学生は春季リーグ戦が大きな山場となる。

平川投手コーチによると、才木はグラブに「就活中」と刺繍(ししゅう)している。本格派右腕にとっては、スーツを着てハキハキと受け答えするより、マウンドから投げ下ろす自慢のストレートが何よりのアピール材料だ。心と体の状態が合致したときは、プロの打者でさえストレートだけでねじ伏せる関西ナンバーワン投手。見ているだけで、スケールの大きさにワクワクする。

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