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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

東京大学の井澤駿介、昨秋初勝利のエースが見据える「赤門旋風」と最下位脱出

東京大学のエース井澤駿介。昨秋は7試合に登板、救援で初勝利のほか4試合に先発した(撮影・朝日新聞社)

高校3年の夏を終え、神宮球場のマウンドを目指し猛勉強。井澤駿介(4年、札幌南)は1年間の浪人を経て東京大学へ進学した。2年春から東京六大学のマウンドに上がり、東大投手陣の軸として先発に、リリーフにとフル回転してきた。昨春はチームの長い連敗を止め、秋にはついにリーグ戦初白星。チームの最下位脱出のために、そして自身の将来のために、赤門エースはこの春もハードな戦いに挑む。

20度目の登板でリーグ戦初勝利

昨年9月26日の立教大学2回戦、リーグ戦20試合目の登板にしてついに井澤は初勝利を手にした。1点ビハインドの六回1死一、二塁から4番手で登板。タイムリーを打たれ2点差とされたが、七回に味方打線が逆転に成功。七~九回を井澤が無安打無失点に抑え、ウイニングボールを手にした。

井澤は前日の1回戦でも先発していたが、6回3分の1を投げ7失点と打ち込まれていた。「前日は変化球のコントロールがちょっと悪くて、ストレートが甘く入ったところを打たれてしまいました。2日目はその変化球のコントロールを修正でき、変化球でもストライクを取れたというのが大きかったと思います」と井澤は勝因を振り返る。1回戦の登板で見つかった課題の修正に成功したことが、2回戦での好投につながった。

東大は昨春の法大戦で連敗を「64」で止めた。井澤(左から4人目)は最後の2回を無失点に抑えた(撮影・朝日新聞社)

2021年春の法政大学2回戦もリリーフでの好投でチームに勝利をもたらした。東大は、井澤が札幌で入学を目指して猛勉強をしていた2017年秋から3つの引き分けを挟んで64連敗を喫していた。この試合は井澤が2点リードの八回から3番手でマウンドに上がり、2イニングを無失点に抑え連敗ストップに貢献した。「そのときも前日の1回戦では自分が先発して終盤に打ち込まれて逆転されたという展開でした」。前日に得た課題の修正に成功しての好投だった。

東京大学が連敗を「64」でストップ! トンネルの先にあった価値ある1勝

「レベルの高いところで野球をやりたい」

北海道屈指の進学校に現れた本格派右腕として高校時代から地元で注目される存在だった。高3の夏は南北海道大会地区代表決定戦(17年)で北海高に5-11で敗れる。北海高はのちに横浜DeNAへ進む大型右腕・阪口皓亮、桜美林大のエースとして活躍し昨年の全日本大学選手権にも出場した好左腕・多間隼介(現・日立製作所)らを擁し、投打にレベルの高いチームだった。七回まで5-5と粘った井澤は終盤打ち込まれ、完投して被安打15、11失点と力の差を見せつけられたが、この試合をきっかけに「レベルの高いところで野球をやりたい」と強く思うようになった。

第99回全国高校野球選手権南北海道大会地区大会で力投する(撮影・宋潤敏)

「全国からいい選手が集まってくる東京六大学で野球をやりたいと思うようになりました。六大学の中で、自分にチャンスがあるとしたらどこだろうかと考えたときに、東大かなと思いまして。夏に東大野球部の練習会に参加し雰囲気を味わって、それからは猛勉強です」

野球に注いでいた情熱、時間を夏からは勉強に向けた。理系の井澤は理二を志望し、1日12時間の猛勉強。現役で桜は咲かなかったが、河合塾札幌校での1年の浪人期間を経て、見事合格を手にした。

カットボール習得が飛躍のきっかけに

身長180cm、体重80kg、均整の取れた体から放つ速球は最速143km。目を見張るようなスピードはないが、この速球とカットボール、ツーシームなどの変化球を内外角に投げ分け打者を打ち取る。「大学1年から2年に上がるタイミングでカットボールを習得したことが大きかったです」と井澤は飛躍のきっかけを話す。

東京六大学での豊富なマウンド経験と変化球で勝負する(東大野球部提供)

2年の春から東大投手陣の軸としてマウンドに上がり続けてきた(2年春はコロナ禍のため春のリーグ戦が8月に1回戦総当たりで開催された)。3年秋までの4シーズンを終えて通算投球回数は98回3分の1イニング。これは東京六大学の現役投手の中で最多の数字だ。登板を重ねるごとに、見つかった課題の修正に取り組む。それをここまで積み重ね投手として成長してきた。「もっと球も速くしていかなければいけなし、変化球もコントロールも、それぞれに課題がある。そこを潰していかないといけないと思います」と井澤は現在の課題を挙げる。今年の1月からはスポーツトレーナーの北川雄介氏から体の使い方やピッチングのメカニズム、トレーニング方法などについて指導を受け、課題克服に努めている。

目標はチームの最下位脱出

昨年は春にチームの長い連敗を止め、秋には自身も初勝利を手にしたが、それでも東大は春秋連続で最下位。大学ラストイヤーとなる今年は最下位脱出が目標だ。「そのためにはチームとして3~5勝は必要です。個人としては2~3勝はしないといけない」と井澤はこの春の目標を話す。

コロナ禍の影響で2年春は1回戦総当たり制、2年秋、3年春秋は2回戦総当たり制でリーグ戦が行われたが、今春のリーグ戦は本来の勝ち点制で行われる予定だ。エースとしては1回戦に先発し、2回戦でリリーフ、1勝1敗となれば3回戦にも先発する可能性が出てくる。これまで以上にハードな戦いになるだろう。

この春は複数勝利を挙げ、チームを最下位脱出に導けるか(東大野球部提供)

東大野球部からNPB(日本野球機構)、社会人などで野球を続ける選手はまれだが、井澤の1学年上の右腕投手・奥野雄介は社会人の三菱自動車倉敷オーシャンズで、内野手の高橋佑太郎は独立リーグの高知ファイティングドッグスでそれぞれ今春からプレーしている。また、昨年までアナリストとしてチームの戦略部門を担当した齋藤周氏は、福岡ソフトバンクホークスからスカウトされ、今春からデータ分析を担当している。井澤も「自分も実力や結果が伴えば、上の世界で野球をやりたいという目標はあります」と進路について話す。春のリーグ戦で結果を出し、評価を上げたいところだ。

東大野球部のアナリスト・齋藤周の挑戦「文武両道を日本中の憧れにしたい」

東京六大学野球春季リーグ戦は4月9日に開幕。東大は開幕戦で、昨年リーグ戦春秋連覇した慶應義塾大学と対戦する。チームの最下位脱出を目指し、そして自身の将来をかけた勝負の春に井澤は挑む。



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