東京大学が連敗を「64」でストップ! トンネルの先にあった価値ある1勝
東京六大学野球での東大の連敗
2017年秋 ●●○●●●●○○●●
2018年春 ●●●●●●●●●●
2018年秋 ●●●●●●●△●●●
2019年春 ●●●●●●●●●●
2019年秋 ●●●●●●●●●●
2020年春 ●●●●●
2020年秋 ●●●●●●△●●●
2021年春 ●△●●●●●●●○
ポイント制で行われている春の東京六大学野球リーグ戦。東京大学は法政大学との2回戦に2-0で勝って、2017年秋から3つの引き分けを挟んで続いていた連敗を「64」で止めた。長いトンネルを抜けた春の東大の戦いを振り返る。
負け続けても諦めていなかった
東大が勝った。ついに連敗を止めた。法大の最後の打者がショートゴロに打ち取られた瞬間、鳴り響く観客の拍手が5月の青い空に吸い込まれていった。白星は実に7季ぶり。相手は奇しくも4年前の秋に、連勝で勝ち点を挙げた法大だった。
「夢のようです。うれしいですね」。これが最大限の喜びの表現なのだろう。井手峻監督(77)は勝利の感想を求められるとこう返した。ただ、孫のような選手が躍動するたびに細めていたその目は、一段と細くなっていた。
勝利の予感は開幕カードからあった。東大は早稲田大学との1回戦で5-6の接戦を演じると、2回戦では0-0の引き分けに持ち込む。だが、0.5ポイントの獲得にも東大ナインの表情は淡々としていた。勝ったわけじゃない――。昨秋の立教大学1回戦で引き分けた時は喜びを爆発させていた東大ナイン。今季のベクトルは、勝つことだけに向けられていた。
それでも勝利は遠かった。次の明治大学とのカードはいずれも大差をつけられての連敗。慶應義塾大学戦も2試合とも5点差以上をつけられ白星を献上した。
「選手たちは一生懸命にやっているんですが……」この頃、井手監督のコメントにも悲壮感が漂っていた。それでも、選手たちは決して諦めてはいなかった。主将の大音周平(4年、湘南)は「負け続けていても全員が前を向いていましたし、試合が終われば次は勝とうと、すぐに気持ちを切り替えていました」と話す。
連敗トンネルの先に明かりが見えてきたのが4カード目、立教大学との1回戦だ。この試合、エースの井澤駿介(3年、札幌南)が7回まで1失点と好投し、2-1でリードする展開に。結局、逆転負けとなったが、井手監督が常々言っている「先発投手が試合を作り、僅差の展開に持ち込めば勝機が生まれる」を実践した形になった。
迎えた今季最終カードの法大戦。1回戦ではまたも先発の井澤が初回に1点を失った後、持ちこたえた。七回に2点を失って逆転され敗れたが、この試合で勝利の図式が明確になる。それは“投手が最少失点で抑え、少ない好機でものにした得点を最後まで守り切る”であった。
そして春最後の法大2回戦で、東大はこの図式をその通りにグラウンドで描いてみせた。二回の先制点は2死無走者から山﨑康寛(4年、岡山朝日)が死球で出塁すると、代走の阿久津怜生(3年、宇都宮)がすかさず二盗、松岡泰希(3年、東京都市大付)が右前へ適時打を放った。四回も宮﨑湧(3年、開成)が1死から出塁、代走の隈部敢(4年、浅野)が安田拓光(4年、三鷹中等教育)の左前打で好走して三塁へ。次打者の投ゴロで貴重な2点目の本塁を踏んだ。
先発投手の奥野雄介(3年、開成)が5回を2安打無失点に抑えると、救援した西山慧(3年、土浦一)も2回を0点に。後を継いだ井澤も八、九回と得点を与えず、長かった連敗トンネルからついに脱出した。
走る意欲がチームに勢いをもたらす
今季の東大で特筆すべきは、積極的、いやアグレッシブな走塁だ。リーグ戦10試合での盗塁数は実に24。東大が全日程を終えた時点では断トツのリーグ1位である。井手監督は「ウチは打てないので……」と控えめだが、選手はみな、一塁に出ればアンツーカーと人工芝の切れ目に左足があるくらい大きくリードを取った。代走が初球から果敢に盗塁を企てる場面も多く目についた。
大音主将は「どうすれば勝てるか考え、たどり着いた答えが盗塁であり、走塁でした」と話す。リーグの中でも強肩捕手の一人に数えられる捕手の松岡泰を相手に、毎日のように盗塁練習に励んだという。
スペシャリスト隈部とアメフト転向の阿久津
“走る東大”の象徴的な選手が隈部だ。1塁コーチスボックスが定位置の背番号「44」は「代走のスペシャリスト」。勝負どころでは必ず代走に起用され、そのほとんどで、50m6秒1の快足で盗塁を決めるとともに、ホームを踏んだ。隈部は出場5試合、打席数は2ながら、3盗塁で4得点。この数字がその存在価値を物語る。
レギュラーの選手では、アメリカンフットボール部から転向してきた阿久津怜生(3年、宇都宮)が6盗塁を記録。隈部とそん色ないその足も他校には脅威だったに違いない。
走る上で大切なのは、何よりも走る意欲だと言われる。隈部と阿久津の姿はこれを示しているかのようだった。
打線はチーム打率こそ2割に満たなかったが、三番の大音は計11安打をマーク。打席では“どんなボールも打つ”とばかりに気迫にあふれていた。「母の日」に行われた立大2回戦では、ピンクのリストバンドで2安打1打点と気を吐いた4番・井上慶秀(4年、長野)も、随所で勝負強さを発揮した。井上は二浪して一橋大に入学したが、神宮でのプレーを目指し、もう1年勉強して東大に入学した。
もちろん、東大はこの1勝で満足していない。しかし、この1勝がいかに価値ある1勝か、なかなか鳴りやまないスタンドの拍手が物語っていた。
東京六大学野球春季リーグ第第7週最終日
▽2回戦(1勝1敗)
法政大 000 000 000|0
東京大 010 100 00x|2
【法】山下輝、平元、古屋敷―大柿【東】奥野、西山、井澤―松岡泰
【二塁打】小池、中原(法)