野球

慶應義塾大学の廣瀬隆太 幼稚舎からKEIOボーイのルーキーは目下“3冠王”

リーグ戦初先発の第1打席で本塁打を放つ慶應義塾大学の廣瀬隆太(撮影・すべて朝日新聞社)

例年とは異なり、ポイント制で行われている東京六大学野球の秋季リーグ戦。第2週でもっともインパクトを残したのは慶應義塾大学の廣瀬隆太(1年)だった。東京大学戦で2試合連続本塁打を記録し、連勝の立役者になった。

2本の2ランはともに価値ある一発

その瞬間、東大の学生やファンが陣取る一塁側スタンドは、どよめきとため息に包まれた。スライダーにうまく反応した廣瀬の打球は、弧を描いて左翼スタンドへ。東大が追い上げ1点差という展開の中、七回に飛び出した一発。詰め寄られていた慶大にとっては値千金の、東大には痛恨の2ランとなった。

2試合連続本塁打を放つ廣瀬

これで2戦連発だ。ルーキーの廣瀬は8月に行われた春季リーグ戦、立教大学との試合に途中出場して神宮デビュー。以降は代打で出場したが、初安打は生まれなかった。しかし夏のオープン戦では好調を維持し、秋のチーム開幕戦となる東大1回戦で、三番に先発起用される。「実力が同じなら上級生を使う」と明言する堀井哲也監督の眼鏡にかなっての抜擢だった。すると背番号「39」は最初の打席で期待に応える。「緊張していた」と振り返ったが、レフトへリーグ戦初本塁打の2ランを放った。思い切りのいい打撃で、硬くなりがちな開幕試合の雰囲気を溶かすと、廣瀬は2打席目もヒットをマーク。盗塁も決め、初スタメンを「初安打、初本塁打、初打点、初盗塁」と、記録ずくめで飾った。

慶大は春の開幕戦、東大にからくも逆転サヨナラ勝ちだった。東大の井手峻監督は東大3年生の春(1965年)、リーグ戦初勝利を慶大からマークしている。延長10回に自らサヨナラ打を放っての完封勝利だった。その後も慶大とは相性が良かった。「ゲンの良さも力に変えたい」。春のシーズン前、井手監督はそう話していた。

慶大の秋の初戦は、ドラフト上位候補のエース木澤尚文(4年、慶應義塾)が好投。3-0で勝利したが、打線は計5安打とあまり快音が響かず、ヒットの数では東大を1本下回った。それだけに初回の廣瀬のホームランは大きな意味を持った。

元プロの敵将もうなった理想的な打撃

廣瀬は2回戦、冒頭のホームランを含む3安打2打点。両校無失点で迎えた四回には先頭打者で登場し、打線に火をつける右中間への二塁打を放った。「廣瀬君が慶應の打線を引っ張っている」。五回に1点差に迫る2点適時打を放った東大の三番・石元悠一(4年、桐朋)も感心していた。元プロで、中日の二軍監督や一、二軍のコーチを計14年間務めた井手監督も「ストレートは右中間に打ち返し、変化球は長打にできる。まさに私が理想とする打撃」とうなった。フォロースルーが大きいパワーヒッターであるのは間違いないが、「対応力」が高いのも廣瀬の1つの武器だ。

明治大学の上田希由翔(左)と西川黎の1年生コンビ

従来の勝ち点制ではなく、ポイント制(1勝すると1ポイント、引き分けは0.5ポイント)で行われている秋のリーグ戦。第2週は1年生の活躍が目立った。立大と対戦した明治大学では、高校通算46本塁打の上田希由翔(きゅうと、愛産大三河)と、高校3年夏に甲子園優勝を経験した西川黎(履正社)が躍動。開幕2戦目から4番に座った上田が1回戦でリーグ戦初アーチを飛ばせば、春からレギュラーの西川は巧みなミート力を示した。ただ廣瀬のバットはこの2人を上回るインパクトを残した。

まだ第2週を終えたばかりだが、廣瀬は打撃3部門でいずれもトップ(打点はトップタイ)。本人の分析によると、打撃好調の要因は下半身が安定したことにあるという。大学入学後、ウエートで下半身を強化した結果、体重が78kgから5kg増加。近くで見るとはちきれんばかりの太ももが、ボールを呼び込むフォームを進化させたようだ。「打撃で重視していることは?」と聞かれると、「タイミングを合わせて自分のスイングをすることです」と答えた。

打撃の怖さを知るから好調にも浮かれない

「いまウチで一番頼りになるバッターですね」。東大戦での2ポイント獲得に貢献したことで、堀井監督の信頼も得た。だが、2日連続でヒーローとして現れた会見場でも、表情は厳しいまま。「バッティングは1日で変わってしまうものなので」と、浮かれたところはなかった。意志の強さを感じさせる太い眉の19歳は、打撃の怖さをすでに知っているようだ。

本塁打を放つ前に堀井監督からアドバイスを受けた

実はホームランを打った2回戦の七回、堀井監督は廣瀬が打席に入る前に「右方向に打て」とアドバイスを送ったという。「ところが左に引っ張ってね(笑)」。堀井監督は冗談めかしていたが、右方向に意識があったから、体が早く開くことなく、スライダーに対応できたのだろう。

バットマンとして尊敬しているのは、高校の2学年先輩でもある正木智也(3年、慶應義塾)。廣瀬と同じ右のスラッガーは、来年のドラフト候補でもある。「正確性、飛距離、どちらもまだまだ足元にも及びません」。まずは正木に追いつくのが目標だ。

第100回全国高校選手権の高知商戦で左前適時打を放つ廣瀬

幼稚舎から慶應育ちの廣瀬は高校通算41発。慶應義塾高時代から注目されていたスラッガーだった。東大2回戦で好リリーフを見せた渡部淳一(2年、慶應義塾)は「1年後輩ですが、高校の時から頼りになるバッターでした」と振り返る。全国デビューは2年春。背番号「15」で選抜に出場し、代打で1打席経験した。四番に座ったその夏の第100回全国選手権は、北神奈川大会優勝の立役者となってチームを10年ぶりの夏の甲子園にけん引、全国選手権では1勝を挙げた。高校同期には善波達也・明大前監督を父に持つ善波力(慶大1年)らが。激戦区・神奈川の同級生には、桐蔭学園の森敬斗(横浜DeNA)や東海大相模の遠藤成(阪神)らがいた。

慶大の廣瀬といえば、最近はOBでラグビー日本代表の主将を務めた廣瀬俊朗さんが有名だ。こちらは野球の廣瀬。神宮で実績を積み重ね、将来的にはプロへ――。偉大な先輩のように、廣瀬の名を知らしめる。

 

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