野球

特集:東京六大学 2020真夏の春リーグ

慶應大がタイブレーク制し連覇かけ法政大戦へ 74年ぶり一戦勝負の早慶戦

延長10回表慶大無死二、三塁、代打・橋本典は勝ち越しの三塁打を放つ(撮影・すべて朝日新聞社)

東京六大学野球春季リーグ戦第6日

8月15日@神宮球場
慶大 002 000 100 2|5
早大 001 001 001 0|3
(延長10回、10回からタイブレーク)
【慶】増居、関谷、長谷部、木澤、生井-福井【早】早川、柴田、山下-岩本【本塁打】新美(早川)=2ラン、熊田(増居)、藤元(早川)【三塁打】橋本典(慶)

通常の2戦先勝の勝ち点制ではなく、1試合総当たり制で行われている春季リーグ戦。伝統の早慶戦も一戦勝負で行われ、慶應義塾大が延長10回タイブレークの末、早稲田大を破って開幕4連勝、16日の法政大戦に勝てば、秋春連覇が決まる。

先発外れてもしっかり準備した代打の代打

代打の代打が決めた――タイブレークとなった延長10回。慶大の堀井哲也監督は一、二塁の走者を進めるため先頭打者に代打の田口巧(4年、慶應義塾)を送った。2球目に捕逸で無死二、三塁となると、堀井監督はすかさず動いた。さらに代打に起用されたのは橋本典之(3年、出雲)。カウント1-1からの代打の代打である。

橋本典はもともと初戦の東京大戦、続く立教大戦と5番・左翼でスタメン起用されたレギュラー。本調子でなかったことから、次の明治大戦はベンチスタートだったが、代打で2点適時打を放っている。堀井監督はこれを見て「スタメンを外れてもしっかり準備をしている」と評価。この場面で勝負に出よう、ならばこの男、と橋本典を打席に送った。

既に1ストライクを取られてからの打席だったが、橋本典は「強気でいこう。しっかり振っていこうと考えていた」。追い込まれても迷いはなかった。チェンジアップに食らいつくと打球はセンターの頭を越え、2点三塁打になった。9回2死から同点に追いつかれ、相手に傾きかけていた流れをこの殊勲打が再び引き戻した。

いつもの早慶戦ならこの瞬間、満員の応援席は割れんばかりの歓声に包まれただろう。だが新型コロナウイルスの感染予防のため、観客の上限が3000人までに制限されていた。伝統の早慶戦とあってチケットは前売りだけで販売数に達したが、応援団もいない。橋本典が三塁に到達した瞬間、称賛の拍手が巻き起こったものの、「少し寂しいです」。ヒーローは本音を漏らした。

背番号40番台の選手が早稲田のエースを攻略

3回表慶大2死三塁、2点本塁打を放った新美は生還後、笑顔をみせる

この試合、ヒーローが代打の代打なら、早大の絶対的なエース・早川隆久(4年、木更津総合)を攻略したのは、背番号が40番台の選手だった。1人は3回に2点本塁打を放った新美貫太(3年、慶應義塾)。背番号「46」の新美は、この試合で最速154kmを計測した早川が「失投」と悔やむストレートをとらえ、左翼席に叩き込んだ。そしてもう1人が背番号「43」の藤元雄太(4年、慶應義塾)だ。7回に代打で登場の藤元は、早川が様子見で投げてきたカットボールをレフトスタンドまで運んだ。慶大の選手時代は背番号「27」だった堀井監督は「この2人もいい準備、いい働きをしてくれている」と目を細めた。

7回表慶大2死、代打本塁打を放った藤元は一塁を回りガッツポース

終戦の日と重なった早慶戦の試合前には前田祐吉氏(元慶大監督、故人)と石井連藏氏(元早大監督、故人)の野球殿堂入りの表彰式が行われた。堀井監督は師である前田氏の墓前にいい報告をするためにも全勝で優勝を飾るつもりだ。

課題明確、小宮山監督「鬼になる」

敗れた早大はこれで優勝の可能性が消滅した。小宮山悟監督は「9回に追いついたのは収穫だが、はっきりと課題が見えた」と厳しい表情で語ると「傍目には好ゲームに映ったかもしれないが、ふだんの練習も指揮している身からすると指導力不足を感じた。春のリーグ戦が終わったらすぐに厳しい練習をする。鬼になる」と続けた。

主将でもある早川は責任を一身に背負い込んでいた。メンバー外の選手への思いも口にした。「勝たなければ、ベンチに入れなかった選手に僕らが出て良かったと納得してもらえない」

終戦の日の早慶戦。試合前に黙とうがささげられ、野球殿堂入りした慶大と早大の元監督2人の表彰式があった

明と暗にくっきりと分かれた試合後。慶應大は優勝がかかる翌日の法政大戦を見据え、早稲田大は巻き返しを期す秋のシーズンを見据えていた。

 

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