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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

京都大学史上最速投手・水口創太 身長194cm、大化けの可能性を秘めたビッグマン

3年の春にきっかけをつかんだ水口。秋は京大7年半ぶりのリーグ戦開幕勝利投手になった(写真提供・京都大学野球部)

京都大学が近畿大学と対戦した9月4日の開幕戦で、「大男」が大仕事をやってのけた。水口創太(3年、膳所)は3-3の七回からマウンドに上がり2回を無失点。194cmの長身から投げ下ろす角度のある最速149km/hのストレートと、同じような軌道から曲がる変化球を武器に相手打線を封じ込めた。直後に味方打線が勝ち越しに成功し、チームは2014年春以来となる開幕戦勝利を挙げる。水口は京大7年半ぶりの開幕戦勝ち投手となった。

浪人して入学、3年目の飛躍

創部から120年以上の歴史を持つ京都大学の中で、最高球速は田中英祐(元ロッテ)が記録した149km/h。水口は大学ラストイヤーを残してこの記録に並んだ。しかも水口のストレートには速い以上の特徴がある。青木孝守監督によると「上背と指にかかった時の球は打ちにくいと思うんですよね。あの高さから来る球は見たことないと思うので、練習できないのでそこが1番の長所ですかね。前は困ったらストレートだったんですけど少しずつスライダーも投げられるようになってきてます」

投手としての成長期を迎えた水口にとっては、春の経験が大きなきっかけとなっていた。京都大学にとって春季リーグ最終戦となった関西学院大戦で先発投手に抜擢される。その時点での首脳陣の評価は「投げてみないとわからない」というもので、一か八かの投手を後ろでは使えない。ならば先発に賭けてみようとの思惑があった。この機会に水口は「初めての先発だったので自分ができることをやろうと思ってました」と気合いを入れてマウンドに上がり、4回を1安打1失点の結果を残した。

チューブトレーニングで登板に備える。リーチも長い(撮影・小中翔太)

野球を始めた時から投手を務めていたが、浪人中は勉強に集中していたため全く練習していない。リーグ戦で結果を残すまで少々時間はかかったものの、この試合で通用するとの手応えをつかんだ。夏場のフォーム変更も良い方に作用した。長身を生かすため上から投げようとし過ぎていたが、これだけの身長があれば角度のアドバンテージは目一杯上からでなくとも十分享受できる。少し下げた腕の位置がハマり、150km/hに迫る球速が出るようになった。

26日の立命館大学戦では2点ビハインドの六回にマウンドに上がり3奪三振。残りのリーグ戦へ向けては「注目されるの初めてだったんで、その分しっかり結果残してやらないといけないなと思いました。まだ1勝なんでこれからどんどん勝っていきたいです。チーム自体も調子良いんで、普通にやったら結構勝っていけるんじゃないかと思ってます。歴史を変えるというか、(2019年秋の)4位になった時以上の成績を狙えると思います」と気を引き締めていた。

近田助監督も「後ろで投げてもらって結果出ているので、なくてはならない存在になってきてます」と期待を寄せる(写真提供・京都大学野球部)

恵まれた体格、おおらかな性格

小学校の時点で身長は169cmあり、これまでにアメリカンフットボール、ラグビー、バスケットボール部から勧誘されたことがある。足のサイズは30cm。靴はネット通販を利用することが多いという。体のサイズはアスリートにとって生まれ持った才能の1つだ。

報徳学園高のエースとして活躍しプロの道に進んだ近田怜王助監督(元ソフトバンク)も「身長、体つき、ポテンシャルが長所ですね。勝負するならまっすぐですよね、それがやっと試合で投げてスピードも出て抑えられたので良かったですね」と素材の良さを評価している。大きな体とおおらかな性格の持ち主で、マネージャーからの印象は「怒っているところを見たことがない。ゾウさんみたい」。人柄の良さはそれとして、大学卒業後に上の舞台でも活躍するために、グラウンドの上では違った一面も見せてほしいところだ。

背番号20の水口は整列している中でも頭一つ抜けて背が高い(撮影・小中翔太)

「積極的に前に出て、『俺が俺が』みたいな意識を持ち出してくれたら、身体能力的には大化けする可能性のある子なんで、それを楽しみにしてます」と青木監督。水口は医学部人間健康科学科に所属するため、4年生となる来年は実習に時間を取られることも多くなる。

「オフシーズンは体力トレーニングを中心にウエイトとか、あとは体の連動性とかをしっかりやりたいです。来年は勉強の面でも色々忙しい1年になると思うんで、いろんな分野でしっかり努力していけたらなと思います。150km/hはしっかりトレーニングしていけば、いずれ出ると思うんでそんなに『150km/h出そう』とは思わずやっていきます」

9月末の段階ではそう話していたが、「その時」は1週間後に訪れた。10月3日の同志社大学戦では両チーム無得点の七回のマウンドへ。いきなり無死2、3塁のピンチを招くがまず最初のアウトを三振で奪う。外野フライも許されない場面で力を込めた決め球は152km/hを計測した。

「スピードは意識していません。しっかりと腕を振ることだけを考えています。球の角度には自信があります」

後続も断ちこのピンチを切り抜けると、八回も2人の走者を背負ったがホームを踏ませなかった。良い意味で体つきに似合わない器用さもあり、変化球とのバランスも良い。理学療法士を目指すのんびり屋さんのビッグマンにプロも注目し始めている。京大野球部の最速記録を塗り替えた水口に本気スイッチが入った時、「京都大学の」という枕詞を抜きにした正真正銘のドラフト候補として名乗りを上げる。

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