野球

京大が初のリーグ4位、細かすぎるデータ分析も“躍進”支えた 関西学生野球

開幕戦の試合前、京大のベンチ内に貼り出されたデータを見つめる選手(すべて撮影・安本夏望)

京都大学硬式野球部にとって、2019年は新たな歴史を刻む1年になった。1022日に全日程を終了した秋のシーズンは、1982年に現在の6チームで関西学生野球連盟が発足して以来初めての4位に。「定位置」の最下位を19年ぶりに脱出しただけでなく、もう一つ階段を上った。1シーズン5勝、年間7勝はともに京大の新記録。チームとして8年ぶりの首位打者も誕生した。ほかの5大学には甲子園球児を含む高校野球の強豪校出身の選手がゴロゴロいるが、京大にはスポーツ推薦もない。それでも試行錯誤して強敵に挑んできた。その一つが、ほかの大学の選手も「何やあれは?」と言っている秘密兵器だ。4years.編集部は今シーズン開幕直後、その秘密に迫っていた。

ベンチ内にびっしり貼られた謎の紙

8月31日、立命館大との開幕戦。京大の一塁側ベンチに、びっしりと紙が貼られていた。三塁側から見ると、何が書いてあるのか分からない。青木孝守監督に聞いてみた。「あれは対戦相手のデータです」と、笑いながら簡単に教えてくれた。相手投手の球種や球速をはじめとして、あらゆる特徴が事細かに記されている。エースだけでなく、控え投手まで。これが京大の秘密兵器だ。

いまやたいていのチームに分析スタッフが存在するが、京大のデータ班は実は後発組だ。4年前、当時3回生だった田島宏樹さんを中心に結成された。プロ野球の楽天でアナリストを務める神原謙悟さんを訪ね、プロのノウハウを教わった。それまでは動画撮影だけだったが、配球表をもとに分析ソフトを活用。球種の割合が詳細に出せるようになった。京大の分析の特徴について尋ねると、データ班の班長である西村基(もとい、4年、膳所=ぜぜ)は言った。「細かすぎるところです」

データ班の班長である西村が作業内容を教えてくれた

まず、各校2人以上いる先発投手の10試合以上のデータを集める。バックネット裏に陣取り、配球表と呼ばれる紙に球種や打者の打球方向などを記入。京大の場合、打者ごとではなく、1球ごとに記録していくのが特徴だ。けん制球まで書いていく。データが取れると分析ソフトに入力。1球ずつ打ち込んでいくので、この作業に一番労力がかかる。それが終わると球種の割合が算出されてくるので、球の散らばりが分かるように56分割の図やグラフを作成していく。こうしてできた資料が前述の秘密兵器だ。班長の西村は「大変だけど、母数が大きければ大きいほど信頼できる数値だと言える。資料はみんながいつでも見られるようにと思って貼り出してます」と語る。

関学から10シーズンぶりの勝ち点を奪い、喜ぶ京大の選手たち

分析が的中したときの喜びはひとしおだ。この日も、しょっぱなからはまった。先日のプロ野球ドラフト会議で横浜DeNAベイスターズの2位指名を受けた立命のエース坂本裕哉(4年、福岡大大濠)は、球種によってグラブの位置が変化するのではないかと分析。1回、主将の西拓樹(たくな、4年、西京)が先制点につながるヒットを放ったが、その西は「データを信頼して、練習通りに打てました」と語った。「完全に当たってたというわけじゃないんですけど、分析が西のヒットにつながったのでうれしいです」。西村から笑みがこぼれた。

超進学校からやってきた初のデータ班専任部員

この春、京大データ班で初の専任部員が誕生した。期待の1回生、三原大知(灘)だ。三原は野球経験がまったくないが、父の影響で根っからの阪神ファン。よく試合観戦に行っていたという。ピッチャーが好きで、イチ押しは高橋遥人と藤浪晋太郎。いまはプロ野球からメジャーまで幅広く、毎日テレビで試合をチェックする。分析に興味を持ち始めたのは中学生のころだ。アメリカのデータサイト「FANGRAPHS」を利用するようになり、野球に関する分析という同じ趣味を持つ人たちと交流するようになった。

初のデータ班専属部員として入ってきた1回生の三原

日本を代表する進学校の灘高校では生物部だったが、大学では「好きな野球に関わりたい」と、京大硬式野球部にやってきた。初のデータ班専任部員となり、「よくぞ入ってくれた」と歓迎された。いまは「ラプソード」と呼ばれる機器を使い、京大のピッチャーの分析に携わる。「機械を使って分析して、実際に戦う選手に携われるのはとても楽しいです。まだ1回生で配球の部分には関われてないので、そこもやっていけたらと思います」と三原。青木監督も「野球経験がないからこそ、先入観なく分析に関われる。面白い存在になっていくと思いますよ」と期待を寄せる。三原の4years.は始まったばかりだ。

8年ぶりの首位打者・北野「打席で考えなくなった」

データ班班長の西村は言う。「どうしても野球の実力は私立の5大学の方が上です。京大はがっぷり四つに組んで戦うだけでは勝てない。データや頭脳で補って、いかにチームの勝利に結びつけるかが大事になります。4位になって自分たちの代で歴史を変えられたのはうれしいです。分析はまだまだ精度を高められる。精度を上げて、得点力アップにつなげてほしいです」。後輩に夢を託す。

京大の選手として8年ぶりに首位打者となった北野

今シーズン、京大としては2011年春の新実彰平以来となる首位打者(打率45厘)に輝いた北野嘉一(3年、北野)は、データ班への感謝を口にした。「資料はとても役に立ってます。いままでは流し読みする程度だったんですけど、今シーズンはしっかり活用しました。配球やカウントごとの球種の割合を自分の中で整理してから打席に立てました。いままでは打席の中で考えてたんですけど、打席では考えなくなりました」。細かすぎるデータを頭と体に染みこませた結果の4割超えだった。

最下位から4位まで来た。京大ならではの戦い方で、これからも強敵たちを食っていく。

来年の春、京大がどんな戦いを見せるか。いまから楽しみだ

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