大学アメフト

連載:OL魂

京大・山口ジョエル陽介「しつこくて激しいOLは、京大ギャングの象徴や」

OLとして京大オフェンスを支える山口(78番、撮影・松尾誠悟)

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。今回は、私と中学、高校の同級生だった京大ギャングスターズの山口ジョエル陽介(4年、啓明学院)です。

高1で陸上をやめて勉強、啓明学院史上4人目の京大生に

彼はオランダ人の父と日本人の母を持ち、父の働いていたドイツで生まれた。高校までは「山口陽介」だったが、大学入学と同時に念願だったミドルネームの「ジョエル」を加えた。京大ではジョエル、ジョエルと親しまれている。

私と高3のクラスが一緒だった山口君が京大でアメフトを始めたというのは聞いていた。関西学院大に進んで「関学スポーツ」の学生記者になった私は、2回生ときの甲子園ボウルで彼と再会した。シュッとしたイケメンだったのが、デカくなっていて驚いた。「なぜアメフトを始めたのか?」「なぜポジションがOLなのか?」。ずっと気になっていた。京大が第2節の近大戦に勝ったあと、ジョエルに取材するチャンスがやってきた。

身長185cm、体重115kgの現状からは想像しにくいが、啓明学院時代の山口君は陸上部だった。しかも長距離が専門だった。陸上の強い学校ではなかったが「個人で上位を目指す」と燃えていた。ところが、度重なるけがに悩まされ、高1の途中で退部した。「俺のスポーツ人生は終わった」。運動神経もよく、大好きだったスポーツを封印した。

誰よりもヘルメットを深くかぶっている(撮影・松尾誠悟)

啓明学院はキリスト教主義の学校で、毎日の礼拝がある。そこで「ノーブレス・オブリージュ(高貴なる者の使命)」という言葉を知った。境遇に恵まれた者はその能力を社会に還元する義務があるという意味だ。陸上をやめた山口君はこの言葉に心を打たれ「官僚になる」という夢を持った。夢をかなえるためには、東大か京大へ進むのが一番の近道だと思った。だが、高1のときの成績ではかなり厳しかった。高2のときの模試で志望校に京大と書いてみると、まさかのB判定。これで一気に「いけるかも」と思い、京大進学のために黙々と勉強に励んだ。「進学校ではないし、すべての時間を勉強に割いて死ぬ気でやった」。啓明は2002年に関西学院大学までの中高大一貫教育校となり、全生徒の9割が関学へ進む。その環境下で京大受験のために頑張り、啓明史上4人目の京大進学者となった。

40kg増え、洋服のサイズは4XLに

大学でもスポーツをするつもりはなく、学業に励むつもりだった。だが、当時京大アメフト部の監督だった西村大介さん(現・バスケットボールBリーグ滋賀レイクスターズ社長)から、熱烈な勧誘を受けた。断り続けること6度。西村さんから「メシ食いにいこう」と誘われた。「今日こそちゃんと断ろう」と、指定されたおしゃれなカフェへ向かった。部の理念について熱く語る西村さんの言葉を、2時間ほど浴び続けた。とくに「社会をリードする人材を送り出す」という言葉にひかれた。本気で日本一になろうとしているのが伝わってきて、「よし、やろう」となった。時は5月中旬、ジョエルの気持ちは固まった。

アメフト初心者の多い京大では、QBやRBやWRといった花形のポジションを希望する新入生が多い。だが、ジョエルはDL(ディフェンスライン)を第1希望に、OLを第2希望に挙げた。「ラインズってすげぇ激しくて、男らしくてかっこいい。ひょろひょろやった俺は、力がすべての世界で戦ってる人たちにあこがれた」。そしてOLとなっていまに至る。

やられても、次のプレーでやり返す(撮影・松尾誠悟)

入学したとき75kgだった体重は、いまでは前述の通り115kg。40kgも増やし、OLのスターター5人の中でも最巨漢だ。入部当初はとにかく食べまくった。毎晩3合のご飯をどんぶりに山盛りにして食べた。1回生の秋には食べ過ぎで腹を壊し、体重が増えない時期もあった。栄養面を意識し始めると、再び増えていった。高校まで着ていた洋服が着られるはずもなく、いまではサイズが4XL。着られなくなった服について「引退したらやせるはずやから、捨ててないよ」と言うが、おそらく一生着られないだろう。成人式のときには、昔の友だちにほとんど気づいてもらえなかったそうだ。

京大でOLをやって謙虚になれた

昨シーズン、京大はOLの5人全員が4回生だった。今シーズンは総入れ替えとなり、チームの内外からウィークポイントと見られている。「いまはあかんけど、そう見られてることには正直、腹が立つ。去年の4回生は生きざまを見せてくれた。それを受け継いでいく」。OLの五つのポジションの中でも、ジョエルは中央のC(センター)の左隣に構えるG(ガード)だ。そしてパートリーダーの大役も担う。アメフト4年目にして、ようやく回ってきた出番に燃えている。

OLをやってよかったと思うことについて、ジョエルに尋ねた。
「正直、OLが一番かっこいい。体づくりは大変で、誰よりも筋トレして、作戦も複雑や。試合で目立つこともない。誰よりも体を張らなあかん。しつこさや激しさをめちゃくちゃ大切にしてる。だから俺は、OLは『京大の象徴』やと思ってる。京大に入ったときは『俺は何でもできる』って調子に乗ってるとこがあった。でも、ギャングに入ったら俺はヘボくて、勝てんくて、思い通りにならんくて……。その中で自分の弱さに気づけた。OLをやって、それまでの自分とは違って謙虚になれたんや」

いざ関学戦、この4年間をフィールドで示す

そういえば今年の年明けだった。ジョエルから私にメッセージが届いた。
「今年こそ悲願の打倒関学をなしとげるわ」。

山口に取材する筆者(撮影・廣田光昭)

時は来た。京大は第3節の9月21日に関学戦を迎える。舞台は大阪・万博記念競技場。ここで「関京戦」が開催されるのは1988年以来31年ぶりだ。1986年、87年と京大が「怪物くん」と呼ばれたQB東海辰弥を擁して2年連続で関学に勝ち、2シーズン連続の日本一まで駆け上がったときも万博だった。しかし近年は関学に勝てない。今回、京大が負ければ15連敗だ。伝統の一戦であり、ジョエルにとっては中学、高校時代をともに過ごした仲間がたくさんいる関学との対戦だ。おそらく、スタンドにも多くの同級生が来るだろう。「関学戦は特別やし、楽しみな部分は多い。俺は大学からアメフトを始めて、その4年間をフィールドで示したい」。野太く、高校の時よりさらに低くなった声で言った。
…………………………
京大OL山口ジョエル陽介へ
関学相手に、京大のOLらしい、しつこく激しいプレーをやりきってくれ。
中学、高校の同級生として、お前の勇姿を見届ける。

OL魂

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