アメフト

連載:OL魂

OLは土台、かっこいい 東北大・小舘侑汰

「大きな体で大学から始めるなら」で小舘が選んだアメフト道。憧れたのはOLだった

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。第11回は東北王者・東北大の主将の小舘侑汰(こだて、4年、東奥義塾)です。

京大の4回生、5人の最期

早大ディフェンスを崩した場面も

2009年より関東と関西以外のリーグに甲子園ボウルの道が開けたものの、昨年までその「恩恵」は生かされていない。今回の主人公、東北大の主将である小舘は東日本代表決定戦の試合前、仲間にげきを飛ばした。「この日のためにやってきた。ビッグベアーズをやっつけるのは俺たちホーネッツだ!」。この1年は「打倒関東」だけを考えてやってきた。東北大にとって7年連続の挑戦。しかし、その思いは今年も届かなかった。

早大のキックオフで試合開始。タッチダウン(TD)を取り合う展開になったが、東北大のスコアは14で止まった。その後は地力の差を見せつけられた。東北大の1年が、またここで終わった。

試合後、小舘に話を聞こうと東北大のマネージャーに声をかけたところ、「ここにオレンジの服を着た大きい人が来ますので」と言われた。身長176cm、体重113kg。確かに「大きい人」だ。小舘は試合を振り返って言った。「早稲田のDLは強いんで、OLとしてはもう少ししんどい戦いになるのかなと思ってたんですけど、ライン戦は結構やれてたんじゃないかと思います」。早大と戦うために準備してきたプレーの成果を誇った。その反面、「終盤になるにつれてアジャストされてきました。そういうときのためのプレーも用意してたけど、それもうまくいなかくなってました。うちはディフェンスとキックオフのカバーが課題だと思ってはいたんですが、ここまでやられるんだというのが正直なところ。そこでしんどくなりました」。ゼロに封じられた後半を悔やんだ。

試合前、小舘は先頭に立って必勝の思いを燃やした

5人いるOLのうち、小舘のポジションは右のG(ガード)だ。コーチから言われて決まったものの、「自分でも『Gだな』と思います」と話す。Gは前に出て相手にぶつかるだけでなく、左右へ出てブロックする「プルアウト」の動きも多い。OLとしての強さはもちろん、隣り合うC(センター)やT(タックル)と力を合わせてブロックすることも多く、器用で気の利いたプレーが求められる。「自分に合ってたんじゃないかな。Gでよかったって思いますよ。Cはスナップがあるんで、めちゃくちゃ難しいんですよ。あれをミスるとプレーが壊れてしまうんで、やりたくないっす」と笑う。「でも、やれと言われたらやったと思うんですけど」と加えた。OLそのものは、彼が志願したポジションだった。理由は「かっこいい」からだ。

OLが負けたら、負ける

青森出身の小舘は弘前第四中から東奥義塾高に進んだ。中学では野球部でピッチャーだったが、高校では学業に専念した。「中学のときに遊びすぎたんで、このままの学歴じゃやばいな、って思ったんです」。特別進学コースで猛勉強し、現役で東北大法学部に合格。高校のときも中学時代のペースで食べ続けていたため、大学入学のときは90kgに膨らんでいた。この大きな体で大学から始めても活躍できる競技は何かと考えたとき、浮かんだのがアメフトだった。かつてNFLの映像で見たOLの姿に、感じるものがあった。

ボールの前に並んで構える姿がかっこよかった

「ボールに触れないポジション。パッと見はそう思ったんですけど、『OLいいな』って直感的に思ったんですよ。ボールの前で5人並んでるシーンなんかが。やってることはほぼ格闘技なんで、そういうのがかっこいいなって」。かっこよさから入ったため、最初はきついと思うことが多かったという。しかし、2年生の後半になると、オフェンスの土台となるOLにやりがいを見いだした。「ある意味、OLが負けたらゲームに負けるんで。プレッシャーとか責任感が楽しい。ラン出すにしてもOLですし、パスを投げるQBを守るのもOLです。キャッチしたり投げるのはレシーバーとかQBですけど、そのプレーの基礎とか土台になってるのはOLだと思うので、そこにはやりがいを感じてます」

4、5年前の東北大のOLには軽量の選手もいたそうだが、それでは関東勢の重いDLには勝てないのがはっきりした。食事を管理し、1日5000~6000kcalを摂取するようにした。「一気に食えないんで、細かく6食、7食に分けて食べてました。まぁ、しんどかったです。けっこうそこで萎えちゃうヤツもいるんですよ」と笑う。この大きな体をつくり、維持するのも一苦労なのだ。

小舘は2年生からスタメンとして試合に出るようになった。この年、OLとしてやっていけるという自信がついてきたときに、東日本代表決定戦で早大にボコボコにやられた。お世話になった先輩に迷惑をかけてしまった。自分を信じて使ってくれた人たちを裏切ることになってしまった。小舘には、そんな自責の念があった。このままでは関東に通用しないという思いが強くなり、この試合をきっかけにしてより関東を意識した取り組みを始めた。関東に勝つためにどうしたらいいかを考える日々。最上級生になるときには「自分がチームを引っ張らないといけないんじゃないか」という自覚が芽生え、主将に立候補した。

今シーズン前の早大との合同練習では、2年前に比べて臆することなく対峙(たいじ)できているという感じはあった。チームを鼓舞し、主将として背中で引っ張れるプレーを目指して戦ってきた。しかし、引退のかかった試合には無念が残った。「ここで勝つためにチームとしてしんどいことをいっぱい重ねてきたのに、最後こういう結果になった。責任をすごく感じてます。この結果を重く受け止めながら、がらっと人が変わる新チームをどういうチームにしたいのかしっかり話し合ってほしい」と、夢を次世代に託した。最後まで「打倒関東」という目標をぶらさずにやってほしい。小舘の願いはそこに尽きる。ホーネッツの選手としてはこれが最後の試合になったが、小舘は来年も大学に残る。コーチとしてチームに関われたらという思いがある。

プレーを生み出す。OLに課せられた責任を小舘は力にしてきた

最後にアメフト、そして、OLへの思いを聞いた。「すごく面白いスポーツに出会えたと思ってますし、充実した大学生活を送れたのもアメフトのおかげです。だから、自分の中でもいい選択をしたなって思ってます。OLはすべてのプレーに自分が関わってるという部分が大きい。フィールドに出てる11人の中でプレーに関係ない選手ってのは、もちろんいない。その中でもOLは責任が大きいし、最もプレーを壊しやすいポジションでもあるし、最もプレーを成功させるキーにもなるポジション。その部分はOLをやっていくにつれて、好きになっていったところでした」

改めていま、ポジションを選べるとしたら? 「4年間やってきたし別のポジションでも……。でもOLの楽しさを知ってるので、結局はまた、OLをやるんじゃないかなあ」。大きな体にぴったりの、優しくておっきな笑顔で言った。

富士通にやり返したる 関西学院大・森田

OL魂

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