炎の90ydドライブ、早大が2年ぶりV
試合時間残り37秒。ビクトリーフォーメーションからQB柴崎哲平(3年、早大学院)がニーダウンし、関東制覇へのカウントダウンが始まった。タイムアウトを使い切った法大に為す術はなく、また1秒、また1秒と時計は着実に進んでいく。そして、2年ぶりに歓喜の瞬間が早稲田に訪れた。
正念場で決まったロングパス
24-20で法大を下し、早稲田がリーグ優勝を達成。この試合には勝利を大きく手繰り寄せたドライブがあった。第4Q、試合終了まで残り6分54秒。17-13で早稲田に4点のリードこそあったが、法大のパントにより自陣10ydからのオフェンスを強いられた。この悪いフィールドポジションから抜け出せなければ、相手に逆転のチャンスを与えかねない。まさに早稲田の正念場だった。
まずランで打開を試みたが、「想像以上に相手のフロントは強かった」(柴崎)と、第6節まで1試合平均失点がリーグ最少の法大ディフェンスからわずか2ydのゲインしか奪えない。早稲田に漂う暗雲。しかし、それはすぐに払拭された。柴崎が相手のタックルを受ける寸前にロングパス。これをWRブレナン翼(3年、ユニバーシティラボラトリースクール)がダイビングキャッチして36ydの前進。WR遠藤健史(4年、早大学院)にも27ydのパスが決まり、敵陣へ。そして最後は今シーズンのリーディングラッシャーに輝いたRB元山伊織(4年、豊中)が25ydを走りきってタッチダウン。わずか5プレーで90ydを攻めきり、優勝をグイッとたぐり寄せた。
このドライブは、今シーズンの強さを象徴しているようにも思える。「いつもよりもランがコンスタントに出なかったということもあって、パスで取りきるしかないと思ってました」(遠藤)と、パスユニットで63ydを進めた。そして「チャンスは来ると思ってました」と話すオフェンスリーダーの元山が、そこまで抑え込まれていた鬱憤を晴らすかのような力強いランで、法政ディフェンスを蹴散らした。
QBの柴崎はこう語る。「プレーを決めきるという思いは、早稲田の方が上だったと思います」。この日のオフェンス獲得距離は早稲田が306ydに対して、法政は416yd。この数字だけを見れば完敗だ。それでも早稲田に軍配が上がったのは、勝利への強い執着心、ひいては1つのプレーに懸ける強い思いがあったからだ。ディフェンスは進まれても粘り、法政オフェンスから5度もボールを奪い取った。絶対に負けない。絶対に勝ってやろう。最後の最後まで諦めない気持ちが、選手たちを突き動かし、勝利を力強く引き寄せたのだ。
「本当に選手たちのことを誇りに思います」と試合後、選手たちをねぎらう高岡勝監督。チームには多くの課題が見つかり、今シーズンは決して楽なものではなかった。それでも、DL斉川尚之主将(4年、獨協)を中心に徹底的にチームを見直し、幾多の困難を乗り越えつかんだ栄冠。そして、12月2日の東日本代表校決定戦で東北大を下せば、大舞台への切符が手に入る。「自分たちの弱さを追及して、甲子園ボウルへ向けて、より精度を上げていきたい」と斉川。創部史上初の日本一へ。このチームに越えられないカベなどない。そう思わせる戦いぶりだった。