京大の4回生、5人の「最期」
球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。第10回は京大の5人の4回生OLです。
土居が入って、5人がそろった
C(センター)、左右のG(ガード)、左右のT(タックル)。OLには五つのポジションがある。この5人がすべて4回生でそろうことは、なかなかない。そろったとしたら、OLは熟練がものをいう部分があるだけに、強力なオフェンスができるはずだ。
今シーズンの京大はCが74番の楊拓己(高槻)、右Gが57番の土居弘明(清風南海)、左Gが72番の新海嶺(国立)、右Tが79番の前田昂輝(洛北)、左Tが77番の町野友哉(大垣北)。みんな4回生だ。今年から土居がスターターになって、5人そろった。
オフェンスリーダーでアメフト人生10年目の楊が言う。「5人がお互いにライバル視しながら、切磋琢磨(せっさたくま)してきました。でも仲が悪くなるってことはなくて、コミュニケーションを取り合ってやってきました」。身長172cm、体重105kg。5人の真ん中のCでプレーし、まんまるの顔でいつも大声を張り上げて、オフェンスを引っ張ってきた。
今年も京大は厳しいシーズンを過ごしている。2勝で迎えた3戦目の神戸大、4戦目の近畿大と、2部から復帰したばかりの両校に続けて負けた。この2試合、ラン獲得距離は124yd、37ydと落ち込んだ。要するにOLで負けたのだ。4回生が5人そろったOLが、オフェンスの最前線で相手に負けたということだ。
5人は語り合った。「思いきりいけてない」。それが結論だった。プレーが始まったら爆発的にスタートして、思いっきり当たりにいく。「0か100か。失うものは何もない。思いきりいこう、と」。楊が説明する。遅かった。遅すぎた。それでも5人はここで、歴代の京大のOLが強敵と戦ってきた境地に達した。腹をくくった。
5人は、やりにいった
そして第5節、関西学院大戦。かつて名勝負を繰り広げてきた「関京戦」だが、京大が弱くなって、完全に色あせてしまった。だが、そんなことは、彼ら5人には関係ない。自分たちの存在意義をかけて、関学にぶつかっていった。ぶち当たっていった。当たったら、死にものぐるいで足をかいて、押そうとした。OLとして、勝ったり、負けたり。だけどこれまでの試合よりも勝負しにいった分、ランナーにとって走るスペースができた。ランで関学から170ydを奪ってみせた。結果は3-23。完敗だ。勝ちにいっている以上、まったく意味はないが、間違いなく5人は一つ階段を上った。
第6節、立命館大戦。5人はまた、やりにいった。立命からもランで190yd。7-24。これも完敗だ。勝敗の上ではまったく意味を持たないが、5人はまた階段を上った。
実は私もかつて、京大のOLだった。4回生になるとき、ディフェンスから移った。体重が90kg弱しかなかったので、5回生コーチの一人に言われた。「試合に出たいなら、100kgになるか、セコいテクニックを全部覚えるかどっちかや」。しかし、私はハナからあきらめていた。どうせ出られるはずない、と。言われたことを、どちらもやらなかった。しょうもない4回生だった。だから、彼ら5人の頑張りが、まぶしい。
第6節を終え、京大のエースRB佐藤航生(4年、藤島)はラン獲得距離が計422ydで、2位に55ydの差をつけてリーグトップに立っている。残すは17日の関大戦だけ。今年の京大のオフェンスだと、ランが進まないと関大には勝てない。5人がこんなことを考えているかどうかは知らない。だが、私は思う。関大に勝って佐藤をリーディングラッシャーにできたら、5人の4回生OLは、また一つ階段を上ったことになるんじゃないか。
立命に負けたあと、私が関大戦についての思いを尋ねると、楊は言った。
「この5人で、ランで勝って終わりたい」
楊の両目が、潤んだ。
いざ、ラストゲーム。