アメフト

連載:OL魂

誰かのヒーローでいたい 甲南大・岡崎玄竜

岡崎には1回生らしからぬオーラがある

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。第8回は、私がシーズン当初から目をつけていた甲南大のルーキー #70 岡崎玄竜(げんた、1年、箕面自由学園)です。

ボール託された「秘密兵器」 九大・小澤文生

巨体を揺すり、ぶち当たる

身長172cm、体重120kgの丸い体に小さな防具がかわいい。一方で1回生らしからぬふてぶてしさでオフェンスを引っ張る。その姿が何とも言えず魅力的だった。「いつか必ず甲南の70番を書く」。私が写真を見せながら4years.編集部の仲間にたびたび力説するので、彼はいつしか私たちのアイドルになっていました。

今シーズンの甲南大は再建の年に当たり、関西学生リーグ1部で苦しい戦いを強いられている。第4節まで全敗。10月21日の神戸大戦も、オフェンスの先発11人中4人が1回生という陣容。その一人が岡崎だ。

ポジションはOL5人の扇の要であるC(センター)。冒頭に「OLはボールにさわれない」と書いたが、Cだけはある意味で例外だ。オフェンスのプレーは、彼らがボールを後方へスナップすることで始まる。自分の股の間からQBに直接手渡すか、パスするかのどちらかだ。OLで一人だけ、一仕事してから相手に当たりにいく。Cとは職人なのである。

高校時代の居残り練習で、スナップが安定した

甲南にとって神戸大との戦いも苦しいものになった。前半は三つのターンオーバーが響いて0-17。第3Qには5戦目にしてようやくシーズン初のタッチダウンを挙げたが、6-31で5戦全敗となった。この日も岡崎は巨体を揺すり、相手にぶち当たった。敗戦後、試合中にいつもかぶっている白いスイミングキャップのようなものを脱いだ。初めて彼の髪形を目の当たりにして、私は驚いた。いわゆる「ツーブロック」だった。汗まみれの髪を何度もかき上げる。彼の髪形を具体的にイメージしていたわけではないが、ともかく衝撃的だった。

兄弟で競うように食べた

ついに、私にとって念願の瞬間が訪れた。「岡崎君、ちょっと話を聞きたいんですが、10分ぐらいいいですか?」。ツーブロックの巨漢は「はい、いいですよ」と、爽やかに言った。

なんとなく、ツーブロックに衝撃を覚えた

最初に、終わったばかりの試合について聞いた。「実力不足を感じました。後半にオフェンスが進んでいってるときに自分のミスでQBがサックされて、モメンタムが向こうへいってしまいました」。フィールド上での作戦伝達を省く「ノーハドル」で、次々にプレーを展開していた。その中で岡崎は、OLの5人が左にスライドしてパスプロテクションをするサインなのに、右と勘違い。彼が食い止めるはずだった選手がQBをタックルしたのだ。髪をかき上げながら、顔をしかめた。

1回生ながらCのスターターを張っていることについては「うれしい反面、重たいですね。チームの期待を背負ってるんで、プレッシャーもあります。でも、いい経験をさせてもらってると思ってます」。まっとうだ。落ち着いた語り口といい、そこらへんの18歳じゃない。だからこそ、首脳陣は大事なポジションを彼に任せられるんだろうなと思った。

岡崎は大阪府岸和田市出身。4歳上の兄がいて、天佑という。「天の助け」という意味だ。その下に生まれたから、名前に「竜」が入ったそうだ。小学校のころから、兄弟で競うように食べた。白いごはんをひたすら食べた。「兄貴には負けたくない」。弟はそう思いながら食べたことを、はっきりと覚えている。岡崎家ではなんと、1日1升の米を炊いていたという。1升といえば10合だ。なかなか、とんでもない。

兄は小6のとき、相撲の市民大会に出た。大きな体で勝ち上がり、全国大会に勝ち進んだ。すぐに相撲の道場から誘われた。兄のあとにくっついて、小2の弟も相撲を始めた。でも、2年ほどでやめた。弟は中学で柔道部に入った。「でも、全然才能が発揮されませんでした」。中3のとき、兄が甲南大に入学し、アメフト部に入った。弟は「僕も高校から始める」と決めた。アメフトのために、大阪の強豪である箕面自由学園高に進んだ。

岡崎の得意技である「上からドン」

入学時の体重が110kg。当然OLになった。いや、DL(ディフェンスライン)もやった。攻守両面のラインとして、高2の秋から試合に出た。体力的にはめちゃくちゃキツかったが、やっと自分の巨体を生かせたという満足感があった。それに、兄の分までという思いが弟の背中を押していた。兄は大学でけがを繰り返し、4年間ほとんどプレーできなかった。「だから、兄貴の分までやるって気持ちは強かったです」。弟は照れもせずに言う。

どうしてそんなに兄を思うのか? 兄を好きなのか? 弟はまた、まっすぐに私の目を見て言った。「よく遊んでくれたんです。小さいときに。ずっと僕の面倒を見てくれました。大きくなってからは、筋トレのメニューを組んでくれました。そういうのがうれしかったんです」。一人っ子で育った私は、岡崎兄弟がうらやましくなった。

センターはオフェンスの光

アメフトを始めて早々に、大学は兄と同じ甲南へ行くと決めた。甲南の試合を何度も観戦に行った。「ランのチームで、OLがデカかった。前のめりになって戦う姿勢がカッコよかった」と振り返る。関学や立命という超強豪校でやりたいという気持ちになったことはなかったのかと聞くと、「ありましたよ。でも、そこで気持ちを曲げたらダサいと思って」。思わずうなずいた。そうだ、そんなのはダサい。

そしてこの春、「5回生」の兄が学生コーチを務める甲南大レッドギャングに、弟はスポーツ推薦で入ってきた。OLだった兄が去年までつけていた70番を引き継ぎ、防具も兄が愛用していたDB(ディフェンスバック)用のコンパクトなものを使う。まさに、兄と一緒に戦っている。

OLの中心を担うCとして、岡崎が大事にしていることが二つある。一つはオフェンスが始まるとき、必ず思いきり走ってフィールドに入ること。オフェンスのメンバーが集まって作戦を伝達する「ハドル」のポイントを示すためだ。いかんせん40yd走は6秒台後半。全力で走っても、仲間に抜かれてしまう。でもそんなのは関係ない。心がけの問題だ。

もう一つはそのハドルが解ける「ハドルブレイク」の瞬間だ。大きな声を出し、小さくジャンプして両手をたたく。「僕は、センターはオフェンスの光やと思ってます。精神的な支柱だから、気持ちが落ちるとダメなんです。ハドルブレイクは大切にしてます」。ゲンタの「OL魂」があふれ出た。これを待っていた。

ハドルブレイクの瞬間、岡崎は大きな声を出し、小さくジャンプして両手をたたく

高校時代、後方に離れて立ったQBへのスナップが定まらず、試合で決定的なミスを重ねたことがあった。そんなとき、同学年のQBだった足立翔(かける、現立命館大)がスナップをずっと受けてくれた。「うれしかったですね。スナップが安定したのは、アイツのおかげ。僕は親友だと思ってます」。OLとQBが親友。すばらしい。

いまの課題は、ディフェンス第2列のLB(ラインバッカー)へのブロックだ。現状だと完全にスピード負けして、ほとんど相手に触れられない。だから120kgの体重を5~8kg減らそうと思っている。そしたらブロックできそうかと聞くと、「そう信じてます」と言って、目を細めて笑った。

死ぬ気でやってる仲間を守れるのがうれしい

さあ、聞こう。OLとして、何にやりがいを感じているのか。「今日、シーズンで初めてタッチダウンできたんですけど、泣きそうになるぐらいうれしかったんです。仲間が頑張ってるのを、OLは先陣切って守れる。死ぬ気でやってる仲間を守れるのが、うれしいんです。だからOLは楽しいです」
もう、何も言葉はいらない。

これまで登場したOLには質問しなかったことも尋ねた。将来、どんな人になりたいですか? 「これ、ほんまに恥ずかしいんですけど、いまだにテレビでやってる仮面ライダーを録画して見てるんです。ヒーローってカッコいいんですよね。誰かしらのヒーローになれてたらいいと思います」。もしかしたら、1回生ながらスターターを張る弟は、兄にとってのヒーローなのかもしれない。そう思った。

リーグ戦は早くも残り2試合になった。5戦全敗の甲南には2部との入れ替え戦もチラつく。それでも彼は言った。「勝ちます。来年も絶対に1部でやりたいし、1部で活躍して成長したいんです。いまは苦しいですけど、心が成長したのを感じられてます。3、4回生のときには関学、立命を絶対に倒します」

もっと力をつけ、関学、立命を倒しにいく

ほんとに失礼な話だが、彼の外見だけから「甲南のゆるキャラ」みたいな男だと思っていた。話をしてみて反省した。こんなに芯のある18歳は、なかなかいない。関学や立命を倒し、その中心で喜ぶゲンタをこの目で見たい。

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