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アメフト 関学を照らす太陽となれ

関学のニューカマーであるDB北川は、すでにフットボール歴10年目だ

関西学生リーグ1部第3節

9月23日@王子スタジアム
関西学院大(3勝) 38-0 龍谷大(3敗)

リーグ戦序盤、前年の上位校は下位校との対戦になる。たいてい前半で試合の行方が決まり、後半には期待の若手たちがフィールドに送り込まれる。関学の背番号30をつけた1回生、北川太陽(佼成学園)も、そうやって龍谷大戦の第3Qから出てきた。

辛口の監督も「嗅覚が違う」

昨年、クリスマスボウル2連覇の主力として活躍した大型のDB(ディフェンスバック)。この秋初戦の近大戦、第2戦の神戸大戦と、途中出場ながら、ともに相手のパスを奪うインターセプトを決めている。今日も狙ってるだろうなと思いながら、北川に注目した。

その瞬間は第4Qにやってきた。自陣深くまで攻め込まれての第3ダウン6ヤード。パスだ。北川はエンドゾーン内ですばやく反応し、TD狙いのパスを奪った。そしてすぐ、地面に右ひざをついた。私のそばで撮影していたベテランのカメラマンはうなった。「30番は1年やけど、ようフットボールが分かってるわ」。

インターセプトをすると我を忘れてリターンしてしまいがちだが、このケースは周りに龍谷大の選手も多く、大きなリターンは望めない。エンドゾーンを出たあたりでタックルされたら、次のオフェンスが苦しくなる。ファンブルの危険性だってある。リターンをあきらめ、エンドゾーン内でひざをつけばタッチバックで自陣20ヤードから攻撃を始められる。そういうことが頭に入っているのだ。

初戦から、途中出場ながら3試合連続のインターセプト。並みの1回生ではない。昨年12月のクリスマスボウル以来で北川に話を聞いた。「出るからにはターンオーバーを起こす、ってのはずっと思ってます。3試合続けてその成果が出てるんで、うれしいですね」。彼は身長183cm。私の少し上から、柔らかい笑顔が降り注いできた。冷静にひざをついたことについては「もう長くフットボールやってるんで、状況は常に頭に入れて準備してます」と、涼しい顔で話した。常に辛口の鳥内秀晃監督も「アイツはちょっと違うで。嗅覚がな」と、北川のフットボールセンスを褒める。

北川はこの日、途中出場ながら3試合連続のインターセプトを決めた

高校時代の忘れられぬプレー

北川は小学4年のとき、富士通のフラッグフットボールチームに入った。中学で日本一を経験し、佼成学園高で防具を着ける本物のフットボールを始めた。DBで活躍しながらキッキングゲームでリターナーに入り、時にはオフェンスにも入った。高校時代の背番号は1。センスにあふれるプレーで、まさに一番の輝きを放った。

そんな北川が「一生の自慢です」と言いきるプレーがある。2年連続高校日本一を決めた昨年12月のクリスマスボウル。関大一高相手に15-7とリードして迎えた第3Qの2分すぎだった。

相手のパントを受けた北川が中央付近へリターンするが、相手にタックルされた。倒れずに踏ん張っている後ろへ、もう一人のリターナーだった比留間豊(現・明治大)が寄ってきた。それを確認した北川は、3人にタックルされて倒れるその瞬間、ボールを比留間へピッチした。比留間は左サイドへ向かう。その動きに呼応して、ほかの選手たちが必死で左へ集まる。比留間は持ち前のクイックネスでタックルをかわし、味方が相手をブロックしやすいようにスローダウン。仲間たちは体を張ってブロックを打ち、最後は比留間に花道が用意された。75ヤードのパントリターンTDになった。

あの試合後、佼成学園のQB(クオーターバック)野沢研(現・立命大)は「あんなの、決勝戦じゃなきゃ怒ってますよ」と苦笑いで言った。たしかに、確率を何よりも重視するフットボールにあって、北川から比留間へのピッチは危険だ。だが、それをTDまで持っていったところに佼成学園の強さが詰まっていた。

北川は言う。「比留間が捕って、僕に渡しててもTDまではいけなかった。3年間一緒にやってきて、僕はあいつの身体能力のすごさを知ってるからボールを渡したし、みんながブロックにいってくれるのも分かってました」。TDを決めた比留間に、北川は遠くから駆け寄っていって、抱き合った。「その場面の写真があるんですけど、あれは宝物ですね」。心底うれしそうに、北川が笑った。

「まずは長所を伸ばしたい」

途中出場ながら3試合で3インターセプト。第3節を終えて、京大のDB山本菫(4年、金沢桜丘)と並ぶリーグトップだ。「スターターじゃないのにインターセプト王ってのもカッコいいよね」と水を向けると、北川は「そうっすね。狙いたいですね」と返してきた。DBのスターターとして出るには、まだまだ課題が多いと感じている。その先の受け止め方が、この男ならではだ。「まずは長所を伸ばしたいと思ってます。このプレーが来たら絶対止めるってのをやっていきたいです」。

その一つが、インターセプトを含めたターンオーバーを起こすことだ。「中学のころから、常にボールを狙ってきました。狙い続けてきました。インターセプトだけじゃなくて、そこからのリターンTDもしたいです。それができるようになったらファンブルリターンTDも狙いたい。ディフェンスで得点すれば流れが変わるし、相手のダメージも大きい。プラスなことしかないですから」。フットボールを始めて10年目、さすがに志が高い。

タッチダウンを奪えるDBを目指す

東京から大阪にやってきて、フットボールの認知度の高さに驚いたという。「大学でもいろんな人に言われるし、試合も見に来てくれる。ほんとにうれしいです」。この日試合に出ているとき、相手WR(ワイドレシーバー)のセットの間隔を見て、仲間に「広いよ、クロスあるよ」と伝えた。その「広い」が完全に関西のイントネーションだった。それを指摘すると、「知らない間にどんどんそうなってるみたいです。1年たったら、全部関西弁になってるんじゃないですか?」と言った。1年後が楽しみだ。

小学校のとき、ふと気になったそうだ。「僕の名前って、『北風と太陽』からとったのかな?」。すぐ親に聞いたら、その通りだった。北川太陽。一回聞いたら忘れない。「親はそういうことまで考えてつけてくれたんだと思います。いまは、ありがたいと感じてます」

この先どんな想定外のプレーを見せてくれるのだろうか。そして名前の通り、KG(関学)を照らす太陽のような存在に育っていくのか。めちゃくちゃに楽しみなニューカマーだ。

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