アメフト

33kgやせた関大の「ジャンボ」永良優伍

関大のDL永良は入学時に163kgあった

関西学生リーグ1部第3節

9月22日@エキスポフラッシュフィールド
関西大(3勝) 16-6 近畿大(3敗)

アメフトを取材していると、必死に食べて体重を増やした選手の話にはいくらでも行き当たる。その逆はほとんど聞いたことがなかったが、33kgもやせた男がいた。

近大を6点に抑えた関大ディフェンスの中央に、ひときわデカい男がいた。背番号50のDL(ディフェンスライン)、永良優伍(ながら、4年、東洋大姫路)。身長187cm、体重130kg。力士並みの体で相手のOL(オフェンスライン)に当たり勝ち、QB(クオーターバック)を追いかけた。

高校まではバスケ

試合後、関大の控室に行って、出入り口付近にいた選手に永良を呼んでほしいとお願いした。すると、彼は叫んだ。「ジャンボー」。そのまんまのニックネームに、思わず笑った。控室から出てきた永良に、試合中のいかつい感じはなかった。笑っていた。私が「いつか永良君のこと書きたいと思ってたんですよ」と言うと、「お願いします」と、満面の笑みで返した。

私の言葉は社交辞令でも何でもない。3年前の衝撃を、いまも忘れない。関大のメンバー表を眺めていて、ある1年生の体重に目がとまった。163kg。「え、163って身長と間違えてるんちゃうんか?」。そう思った。当時関大のヘッドコーチだった板井征人さんに聞くと、間違いではないことが分かった。高校ではバスケットボールをしていて、まずダイエットに取り組ませているとのことだった。あの日から私は永良優伍の名を忘れたことはない。いつ大暴れしてくれるのかと楽しみにしていた。しかしその後、彼の姿をフィールドで見ることはほとんどなかった。

アメフトのラインというポジションにとって、大きいことは正義だ。ただ、自分でコントロールできる重さでないと、負傷につながる。永良もそうだった。「ケガに泣いた3年間でした。ほぼ2年間何もやってないようなもんです」と言った。

最初に与えられたポジションはOL。1回生の間はアメフト自体よりもやせることに重点を置いて取り組んでいた。ある程度動けるようになり、「さあこれから」という2回生の春に足をケガ。復帰に半年以上かかった。だが3回生の春にもケガ。これは1年かかった。確かに昨年秋のシーズン、防具も着けずベンチにいる永良を何度も見かけた。

アメフトを始めるとまず、やせることを求められた

毎晩4杯、5杯のごはん

兵庫県神崎郡の出身。大学1年で野球をしている弟がいる。家族はみんな大きいのか尋ねると、「そんなことないです。弟が180cm、90kgぐらいで、父もそれぐらいです」。自分がこれだけ大きいと、「大きい」のスタンダードが変わってくるのだろう。一般的には父も弟も十分に大きい。母のつくってくれる食事は何でも好きで、毎晩4杯、5杯のごはんを食べていた。とくにカレーの日がうれしかった。体重は中学で3ケタに乗った。

バスケットボールは中学で始めた。東洋大姫路高校での最高戦績は県のベスト16。永良自身は「オニツカ杯争奪兵庫県高校招待バスケットボール優勝大会」で、兵庫選抜チームに選ばれた経験がある。どんな選手だったのかと質問すると、「センターでした。ゴール前でこのサイズを生かして、得点やリバウンドをガンガンとる選手でした」と教えてくれた。

「東洋大姫路のバスケ部にデカくて動ける選手がいる」。その情報を受けた関大アメフト部は、彼が高2のころからアプローチし続けた。卒業後は就職と考えていた永良は、スポーツ推薦で関大にという話に驚いた。「勉強が苦手やったんで、まさか関大みたいないい大学に行けるとは」。親も喜んだ。大学進学を決め、未知の競技に取り組むことにした。関大が声をかけ続ける間も、右肩上がりで太っていった。入学時は163kgにまでなっていた。

ケガ乗り越え、ラストシーズはDLで勝負

入学が決まってから、アメフトの動画をいつも見ていた。「当たるポジションになるんやろな」と思いながら。練習に入ってみると、当たりの衝撃は想像以上だった。覚えることが多くて、頭を使わないといけないところにも戸惑った。そして、ケガ、ケガ。永良の巨体は生かされずにきた。

今年の春に1年のブランクが明けて練習に復帰するとき、ポジションがOLからDLになった。OLよりDLの方が本能的に動ける部分がある。「最後の1年、その体で思いきり暴れてこい」という首脳陣の思いがこもったコンバートだった。ずっと続けてきた食事制限で、体重は33kg減って130kg。本人は「全然違う。めちゃくちゃ動ける」とうれしそうに言う。

OLからDLへ。本能的に動けると実感

やっとつかんだ大暴れのチャンス。今後どんなパフォーマンスを見せたいかと尋ねると、「自分の役割を果たした上で、QBサックを狙いたいです」と笑った。一方でいつも不安があるという。「次、ケガしたら終わりなんで」。そんな気持ちを抱くようになってしまったアメフトを、嫌いになってないか気になった。「めっちゃ好きですよ。こんなに楽しいスポーツないです。相手に当たり勝って、タックルまでいけたときが最高です」。社会人Xリーグで競技を続けることも決まっている。「その前に、この関大のメンバーで日本一までいきたいです」。永良がやんちゃな笑顔で宣言した。

取材の最後、私は「最後の大暴れ、楽しみにしてるで」と言って、彼の腕をポンとたたいた。ジャンボの腕は、めちゃくちゃに太かった。

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