アメフト

連載:OL魂

男は黙ってOL 京大・土居弘明

9月9日、龍谷大戦後に学歌を歌う土居

球技なのにボールにさわれない。1試合ずっとぶつかり続けるアメフトのOL(オフェンスライン)にスポットライトを当てる「OL魂」。3回目は京大の土居弘明(4年、清風南海)だ。

弱いのは分かってる 明大・佐野真之将

しつこいのが「京大のOL」

9月9日の龍谷大戦は、断続的に降る雨の中での戦いになった。京大のオフェンスは不完全燃焼だった。タッチダウンは第3Q、エースRB佐藤航生(4年、藤島)が残り1ヤードを飛び込んで奪った一つだけ。守備陣は踏ん張り、14-0で開幕2連勝とした。

試合直後の土居は「練習してきたことを、あんまり出せなかったです」と、神妙な表情で言った。右のG(ガード)である土居は、確かにランプレー時のブロックで、自分から当たって主導権を握るのではなく、相手の当たりを受けてしまう場面がいくつかあった。「外展開のプレーのときに自分のやるべきヒットができなくて、相手にプレーサイドへ行かれてしまいました」。土居が顔をしかめながら言った。

身長174cm、体重110kg。最近は京大にも背がもっと高くてスラッと見えるOLが出てきたが、土居のように170cmそこそこでモチャっとした感じのOLが京大には多かった。身体能力で誇れるものは何もない、と土居は言いきる。「僕にはしつこさしかありません」。これもスポーツ推薦がなく、アメフト経験者の少ない京大で受け継がれてきた「OLの流儀」だ。

友人の“推薦”で芽生えた日本一への夢

土居はどうやって京大のOLに行き着いたのか。小学校のときは野球に取り組んでいた土居は、受験して清風南海中へ進んだ。清風南海には中高通じて野球部がない。ソフトボール部に入るのをためらい、中学ではいわゆる帰宅部だった。高校に上がるとき、スポーツ欲が止められなくなった。ソフトボールを始めた。6番・サード。大阪に男子のソフトボール部があるのは20校程度で、最高成績は府で2位だった。決勝で興国に負けた。

アメフトなんて、まるで知らなかった。高3のある日、学校でいつもの友だちと一緒にいた。すると京大アメフト部の関係者が、その友人に京大受験と入部を勧めにやってきた。友人はなんと、「こいつの方がいいですよ」と土居を推薦した。京大のクラブハウスを見学することになり、いろんな話を聞いた。土居は一気にひかれた。「京大でスポーツで日本一目指すって、そんなんあるんか。やりたいと思いました」。1浪して総合人間学部に合格し、ギャングスターズの一員になった。ちなみに例の友だちは、別の大学の医学部に進んだ。人生って面白い。

オフェンスを引っ張る京大のOL陣

入部当時の体重が78kg。そのころにはアメフトのことも少し分かり始めていた土居は思っていた。「バンバン当たってばっかりってのは嫌やな。LB(ラインバッカー)とかFB(フルバック)がカッコいい。ラインだけはやりたくないなあ」。だが、一瞬でOLになった。

痛い、つらい、ボールもさわれない。それでも1回生の終わりごろには諦めがついた。「当たりが強いわけでも、スピードがあるわけでもないから、笛が鳴るまでしつこくブロックし続けるしかない。それだけ考えてやってきました」。相手にぶち当たったら、しつこく足をかいて押す。毎日、農学部グラウンドでそれだけやってきた。体重は100kgを超え、努力と執念の男は昨年から試合に出始めた。

「OLこそ男のポジション」

昨年の秋のシーズン開幕戦。チームとして6年ぶりに関西大を下した一戦に、忘れられない思い出がある。あるプレーで、土居は関大の選手を仰向けに倒した。アメフト業界で言う「アオテン」だ。「あのとき、OLやってよかった、アメフトやってよかったと思ったんです」。土居がそう言って、心からうれしそうに笑った。

今シーズンから土居がスターターに定着し、京大のOL5人は全員が4回生になった。「T(タックル)は二人とも体がデカくて、アスリートで、すごく強いです。C(センター)の楊はリーダーシップがすごい。しんどいときに引っ張ってくれます。心強いヤツばっかりです」。

OLが体を張って開く走路を走るエースRBの佐藤に、土居について聞いてみた。「誰よりもしつこく、粘り強くプレーする。OLの中でも一番信頼できます」。最大級の賛辞が来た。

最初のヒットで負けても、しつこく押した土居

最後に、土居に聞いた。生まれ変わってアメフトやるなら、どのポジション? 「OLっすね。やっぱりオフェンスの支柱ですから。5人で一つになって、オフェンスを引っ張る。OLこそ男のポジションだと思ってます」

これだ。この言葉を待っていた。1試合約60プレー、黙ってオフェンスの最前線で体を張る。決して目立つことはない。雨の日も風の日も、当たって、当たって、当たる。OLは男気あふれるポジションなのだ。

土居のプレーを見ていて、改めて思ったことがある。アメフトのOLには夢と希望がある。身体能力が高くなくても、体がある程度大きければ、粘り強く、賢く努力を続けることで、OLとしてなら花開く可能性が十分にある。うまくボールを投げられなくてもいい、捕れなくてもいい、速く器用に走れなくてもいい。

OLとは男気であり、希望。土居がまた、教えてくれた。

第2の青春はOLに捧ぐ 早大・金子竜也

OL魂

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