アメフト 法政の「宝刀」操る勝ち馬QB
6年ぶりの甲子園ボウル出場を目指す法政には、「エース」と呼べるQB(クオーターバック)がいない。32年ぶりに明治に負けた初戦同様、この日も3人を併用した。その中で成長ぶりをアピールできたのが、背番号12の勝本将馬(3年、法政二)だった。
笑いが止まらない
先発したのは1年生QBの小田賀優介(法政二)。日体大に7点を先取されたあと、法政は2度目の攻撃シリーズをFGによる3点に結びつけた。直後のディフェンスで相手のパントをブロック。浮いたボールを主将のLB(ラインバッカー)寺林翼(4年、明治学院)がキャッチして走り、法政はゴール前9ヤードからの攻撃権を得た。
さあ出番だ。QB勝本が跳びはねるようにしてフィールドへ入ってくる。最初のプレー、勝本はまっすぐ突っ込んできたRBにボールを手渡すフェイクをして、タテに抜けたTE(タイトエンド)川村湧介(ようすけ、4年、法政二)へパス。これが決まってTD。10-7と逆転した。勝本は次のシリーズでも自身の鋭いランを交えて進め、TE石井涼太(1年、埼玉栄)へ短いパスを決める。石井が相手タックルをかわし、17ヤードのTDパスになった。
法政は次のシリーズから大型QBの野辺歩夢(あゆむ、3年、横浜栄)を起用したが、得点に結びつけられない。17-10と追い上げられた試合残り5分7秒からの攻撃で、法政は再び勝本を送り込む。右のランをフェイクし、自ら左へ走るプレーで15ヤード進み、敵陣へ入った。最後は残り4ヤードを勝本が持って駆け込み、試合終了と同時のTDとなった。
サイドラインに戻ってきた勝本は笑いが止まらない。本当にずっと笑っていた。無理もない。チームの3TDすべてに絡む活躍だ。確実に階段を一つ上った。
「おいしいところをもらっちゃいました」。私の取材に、まず勝本はこう言って笑った。初戦の明治戦では4プレーしか出してもらえなかった。たった一度持って走ってゲインなし。「悔しさしかなかったです。今回はいつ出てもいい結果を出せるようにと思ってました。よかったです」。ようやく笑いの波がおさまり、かみしめるように語った。
法政にオプションあり
法政二高ではQBだった勝本だが、大学では昨シーズンまでWR(ワイドレシーバー)。ただ、高校時代から親しんだあるプレーに関してだけは、QBの練習も続けていた。それが「オプション」と呼ばれるランプレーだ。1990年代以降、法政の強さを支えてきた戦術だが、近年はパスの割合を増やしたこともあり、多用はしていない。ただ、「伝家の宝刀」を磨くことは続けていたのだ。
「オプション」はその名の通り、QBがボールを託す相手を「選択」するプレーだ。相手のディフェンダーを1人あるいは2人、わざとブロックせずに浮かせておく。QBは中央へ突っ込むRB(ランニングバック)にボールを渡す動きをしながら、浮いた選手の動きを見る。RBを止めに来ていなければ、渡す。タックルに来ていれば、ボールを抜いて自ら外のスペースを狙う。もう一人の浮かせたディフェンダーが自分を止めに来たら、さらに外を走るRBへピッチだ。この一連の動きをトップスピードで、なめらかに遂行できて初めてオプションプレーが進む。だからこのプレーをやるチームのQBには、相当の熟練が求められるのだ。
2000年代に入ってからオプションの展開が難しいショットガン隊形が主流になったこともあり、本格的にオプションに取り組むチームはほとんどなくなった。ディフェンス側もこのプレーを止める練習には力を入れていない。いまこそ再びオプションを、の声もフットボール関係者の間では根強い。
法政にオプションあり、を印象づけたのが昨年12月の東京ボウル。関東3位の法政は関西3位の京大と対戦した。本職はWRながらQBとしてオプションの練習だけしていた勝本は途中から出番を与えられた。すると冷静にオプションを操り、流れを変えた。第3Qには自ら1ヤードを持ち込んでTD。24-23の1点差勝利に貢献した。かつて強かったころにオプションを武器とした京大が、法政のオプションに崩されたのは皮肉なシーンだった。勝本はこの東京ボウルでの活躍で、QBに専念することになった。
日体大戦でもオプションからの鋭いランを披露した勝本。オプションの面白さを尋ねると、「こっちがディフェンスを遊んでる感じですかね」と言って、いたずらっぽく笑った。「思い通りに進んだときは、ほんとに楽しいです」。一方で、自分の弱点はパスだと強く認識している。それでもこの日のように短いパスを確実に決めていけば、未来はある。「ここで止まらないようにしたいです。止まらないオフェンスを続けていきたいです」。俺が法政のエースになる、そう言っているように聞こえた。
勝本将馬。最初と最後の1字をくっつければ「勝ち馬」だ。チームに乗ってもらえるような勝ち馬になるために、さらにオプションを磨き、パスも磨いていく。