アメフト 立命の元球児、待ってろ甲子園
点差が開いた後半、立命はベンチを温めていた選手たちをフィールドへ送り込んだ。出番に飢えていた男たちが躍動する。パンサーズのシーズン序盤、恒例の風景だ。
まさに大阪偕星野球部シリーズ!
第4Q5分すぎ、敵陣45ヤードと絶好のフィールドポジションから始まった攻撃。QB植村優人(4年、大阪産大付)が右サイドライン際を駆け上がった86番のWRへパス。86番は投げられた生卵を捕るような、丁寧で柔らかいキャッチで応える。これでゴール前12ヤードまで進んだ。「86番って、福田ちゃうんか?」。私は心の中で言って、手元のメンバー表を見た。やはりそうだった。
3回生の福田丈志(たけし)。3年前の夏の甲子園に、大阪偕星高の外野手として出場した男だ。高校卒業のとき、私の同僚記者が立命でアメフトに転向する福田のことを記事にしたから、よく覚えていた。昨年までまったく名前を聞かなかったので、「ようやく出てきたんやなあ」と感慨に浸った。
次のプレーはRB平浩希(1年、立命館宇治)に持たせてゴール前4ヤードまで迫った。次もラン。右サイドに大きく開いた穴を34番のRBがやすやすと駆け抜け、タッチダウンだ。34番は誰だろう。2回生の高山翔地(しょうじ)。高校は? 大阪偕星! これは野球部にちがいない。福田の一つ後輩だ。高山は先輩と同じ道を選んで、パンサーズへやってきたのだろう。福田がロングパスを捕って、高山が決めた。「まさに大阪偕星野球部シリーズ!」。私は心の中で、うなった。
「悔いはない」わけはない
試合直後、パンサーズのイヤーブックで高山も大阪偕星高の野球部だったことを確かめた上で、2人に話を聞いた。
福田は初戦の神戸大戦がアメフト3年目にして初のリーグ戦出場だった。そこで1回のキャッチ。この日はあのロングパスを含めて2回捕った。「うれしかったです。捕ったあと、アイツがタッチダウンしたし。1回生のときも2回生のときも8月に同じ箇所を手術して、秋のリーグ戦は全然出られなかったんです。やっと来たなって感じです」。福田が人なつっこい笑顔で言った。
すでに書いたように、福田は大阪偕星高3年の夏、甲子園の土を踏んだ。6番レフト。2試合計10回の打席で3安打を含む7度の出塁。盗塁も決めた。2回戦の九州国際大付(福岡)戦で負けたあと、「塁に出てかき回し、ホームにかえってくるのが自分の仕事。それはできた。悔いはないです」という福田のコメントが朝日新聞の紙面に残っている。
高3のころ、福田は右肩を痛めていた。野球は高校で終わりと決めていた。すると野球部の山本哲監督が立命のアメフト部を勧めてくれた。尊敬する監督がそう言ってくれるならと、パンサーズのセレクションを受けた。50mを6秒1で走り、捕球のセンスもある。合格し、大阪偕星野球部から初めて立命のアメフト部へ進むことが決まった。これが高3の5月ごろ。
夏の甲子園で負け、新聞記者には「悔いはない」と答えた福田だったが、実はそうでもなかった。「負け方が負け方やったんで。大学ではアメフトやるのが決まってましたけど、野球を続けたくなりました」。九州国際大付戦は打ち合いの末、延長10回9-10のサヨナラ負けだった。野球に未練を感じたが、肩のこともある。まだルールも何も知らないアメフトの世界へ、気持ちを切り替えた。全国から集まったアメフト経験者たちと競い合い、2度の大けがを経て、レギュラー争いができるところまでたどり着いた。
そして、2回生の高山だ。この日がリーグ戦初出場。アメフトを始めて2年目、リーグ戦で最初のボールキャリーでタッチダウンしたのだ。なんとラッキーな男だろう。「ハーフタイムに『後半出るからな』って言われて緊張しました。タッチダウンは、思ってたほど興奮しなかったです」。高山は苦笑いで言った。身長178センチ、体重83キロ。チームから大型RBとしての期待を込められている。
大阪偕星高では福田と同じ外野手だった。2年の夏はボールボーイとして甲子園の土を踏みしめた。ただ、最後までレギュラーの座はつかめなかった。3年になるころ、立命に進んでいた福田に誘われた。「デカいし、速い。お前はアメフトに向いてる」。そう言われると気になる。福田に続いてセレクションに合格。最後の夏は、大阪大会5回戦で金光大阪に1-5で負けた。高山は、その試合に出られなかった。
2人はいま、冬の甲子園を目指す。福田は過去2年の甲子園ボウルをスタンドから観戦した。「高校野球より、めっちゃカッコよかった。ここでやりたいと思いました」。笑顔がいい。高山はボールボーイを務めた3年前の夏を振り返りながら、こう言った。「もう何もかも違う。めっちゃ興奮しました。またアメフトで出たいし、次こそ自分でプレーできるようにします」。初々しい笑顔で宣言した。
二人が「パンサーズの力」になるために
福田の課題は体を大きくすること。入学時が170cmで65kg。いま171cmで67kg。「当たり負けないようにフィジカルの面をアップしたい」。WRとして、どう生き残るかもはっきり決めている。「一発タッチダウンは木村(和喜、2年、立命館守山)に任せて、僕はショートパスを確実に捕りたいです。一歩一歩前に進んでいけるように」。そうやって、パンサーズの力になろうと思っている。
高山は昨年までのエースRBだった西村七斗(現アシスタントコーチ)に憧れている。「1回生のときは、けがばっかり。いまは練習できるんで、めっちゃ楽しいです。七斗さんみたいにお客さんを沸かせるような走りを見せたいなと思ってます」。目が輝く。
自身も高校時代まで野球をしていた立命の古橋由一郎監督(53)は、他競技出身の選手が試合に出始めたころの心境を、こう表現した。「1回生のときはフットボール経験者との差があるから、劣等感が大きいんです。でも2回生、3回生になって試合に出始めると、その分だけ強い充実感があると思います」。福田と高山は、まさにそんな時期を生きている。
「アイツと二人で甲子園、また行きたいっすね」。福田が言った。パンサーズ3年ぶりの甲子園ボウル出場へ。甲子園に忘れ物のある二人が、その力になれるか。