アメフト

アメフト けがも癒え、いくぞ関学10年目

相手との1対1を制して、エンドゾーンに駆け込む関学のRB富永

関西学生リーグ1部第4節

10月7日@王子スタジアム
関西学院大(4勝) 42-0 甲南大(4敗)

アメフトには、けががつきものだ。ひどい場合は半年や1年プレーができないこともある。もしそうなった場合、フィールドに立てない時間で何をするかが、復帰後の選手生活を左右する。関学のRB(ランニングバック)富永将史(まさし、4年、関西学院)は約1年のブランクを経て、戻ってきた。仲間に支えられ、仲間を支え、10年目を迎えたフットボール人生の集大成へ向かう。

落ち込んでたときに同期のみんなに救われた――

甲南大を相手に35-0と大きくリードした第4Q、富永がフィールドへ送り出された。ゴール前2ydまで進むと、ボールを託された。「オフタックル」と呼ばれるプレー。富永が右サイドへ駆け出すと、味方が完璧に相手をブロックしてくれている。相手のDB(ディフェンスバック)との1対1を軽くかわし、エンドゾーンへ駆けこんだ。前節の龍谷大戦から戦列に復帰した富永にとって、今シーズン初、通算でも三つ目のタッチダウン。サイドラインへ戻ると、同じ4回生の選手たちが次々に声をかけに来てくれた。

目の前が真っ暗になるような経験をした。昨シーズンの第6節、関大戦を前にした練習で大けが。関学中学部でフットボールを始め、けがをした仲間を何人も見てきた。だから、1年はかかると、すぐに分かった。3回生になり、出番も増え始めた矢先の出来事だけに、絶望的な気持ちになった。「どうしたらええんや。選手やめてスタッフになった方がチームの役に立てるんちゃうか」

入院していた3週間、同学年のRBである山口祐介(横浜栄)と中村行佑(啓明学院)をはじめ、オフェンスチームのみんながお見舞いに来てくれた。彼らと話をする中で、心が決まった。けがの前より体を強くして選手として復帰する。戦術面でみんなにアドバイスできるぐらい勉強する。この二つをやり抜くと決心した。「大学でもアメフトを続けたのは、活躍したかったからです。少しでも可能性があるなら、食らいつきたかった。落ち込んでたときに同期のみんなに救われたから、また一緒にフィールドに立ちたいと思いました」

俺は一人でアメフトやってるんじゃない。けがをして、改めて実感した。苦しいリハビリを重ねながら戦術面の理解を深め、RBの選手たちにOL(オフェンスライン)のブロックを生かす走り方について助言をした。

約1年のブランクを経て、フィールドに戻ってきた富永

苦しい時間が、体や頭や心を強くした

富永の父・晋(しん)さんは関学アメフト部のOBでもある。ディフェンスの最前線で体を張るDLとして甲子園ボウルにも出場し、社会人でもプレーを続けた。ただ、富永は父にアメフトを強要されたことも、勧められたことすらない。それでも関学の中学部でフットボールを始めた。その理由を尋ねると、「防具の姿がかっこよかったからですね」と返した。そのあと、自分からこう行った。「そこには、父への憧れが少なからずあったのかもしれません」。世の中のお父さんみんなを泣かせるようなことを言う。

幼稚園のころから、父の社会人チームの試合観戦に連れて行かれていた。試合の様子は覚えていないが、一つだけ忘れられないことがある。「父が家に持って帰ってくる防具が臭すぎて、僕は絶対にアメフトはせえへんって思ってました」。そう振り返って、大笑いした。防具が臭くても、憧れの気持ちは少しずつ富永の心に蓄積されていった。

富永は関学高等部3年で日本一を経験している。副将を務め、RBとしてもスターターで出場。文字どおり、チームを10年ぶりのクリスマスボウル制覇まで引っ張っていった。当時は身長172cm、体重62kg。大学で活躍するには細すぎると感じ、入学後に食べまくった。筋力トレーニングも週に10回やって、1カ月で10kgも増やした。これが裏目に出て肉離れ。スタートに失敗し、目標であるRBのスターターは遠いまま、4年になった。

それでも富永はあきらめてはいない。いまは78kgあって、ブロックにも自信が出てきた。ボールを託されても、タックルをはね飛ばして走れる。戦術面ではRBで一番だと思っている。「自分なりに貢献する姿を見せて、下級生にも伝わるものがあれば」。同学年で仲のいい山口、中村の活躍を、このまま黙って見ているつもりは一切ない。

ほぼ毎試合応援に来てくれる両親は、息子のことをよく見ている。父には試合中にベンチで仲間と話していた内容を言い当てられることもある。「両親にはこれまで10年間、いろいろ教えてもらいました。しっかり最後、チームに貢献して、日本一になるとこを見てもらいたいです」

けがをして苦しい時間を過ごした分、体も頭も心も強くなった。仲間のおかげで戻ってきたフィールド。富永将史は完全燃焼する覚悟だ。

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