アメフト

連載:OL魂

特集:第72回ライスボウル

富士通にやり返したる 関西学院大・森田

関学の攻撃は森田(中央73番)のスナップから始まる

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。第12回は新年3日のライスボウルで富士通と戦う関西学院大のC(センター)、森田陸斗(3年、関西学院)です。

「アイシールド21」の栗田良寛になりたくて

日本のアメフトで関学のOLといえば一目置かれる存在だ。ランプレーの際のブロックのコンビネーションとタイミングは一種の芸術作品だ。5人が「ボコ、ボコ、ボコ、ボコ、ボコ」と相手ディフェンスに当たって走路をこじ開けた瞬間、ランナーがスッと駆け抜ける。人が通れるほど大きな穴が開くのは、その一瞬だけ。

アメフトが大好きな人やOL経験者が関学の試合を見ると、リプレーの映像を見て、ため息交じりに「どんだけうまいねん」とつぶやいてしまう。

そのコンビネーションとタイミングを体に染みこませるため、関学のOLたちは日々練習を重ねる。プレーによって、5人のOLがそれぞれ一歩目をどの角度に何cm出すかに始まり、あらゆるステップに決まりがある。そのステップの正確さとプレーの理解度では誰にも負けたくないと言うのが、5人の真ん中で構えるCの森田だ。身長175cm、体重105kgのサイズは、大学トップレベルのOLとしては並をやや下回るぐらい。サイズ不足を補うため、森田は頭の面に活路を見いだしたのだ。「数をこなすのと、いいイメージでステップできてる人のビデオを見まくって自分のものにしていくんです」。これぞOLというまん丸の顔で、森田が笑う。

今シーズンの集大成へ準備する森田

2回生からスターターとなった森田だが、関学が前回出た2シーズン前のライスボウルにも出ている。相手は今回と同じ富士通だった。当時4回生の松井和史(かずふみ)が負傷退場し、1回生の森田に出番が来た。おそるおそる富士通のDL(ディフェンスライン)に当たると、4ydほども押し下げられてしまった。「あれでテンパってしまいました。ボコボコにやられましたね」と苦笑いで振り返る。2年分の成長を富士通に見せたいですねと水を向けると、森田は「はい。それを見せに行きます」。不敵に笑った。

父の章嗣さんは日大相撲部の出身で、いまも体重は110kgほどあるという。森田は小学校のころ、父にコンタクトスポーツを勧められ、ラグビーをしていた。ただ、すぐにやる気を失った。「めちゃくちゃ足が遅かったんです。ラグビーって、結局みんな走らなあかんでしょ」。そんなとき、アメフト漫画の「アイシールド21」に出会った。夢中になった。中でもでっかい体でCを務める栗田良寛というキャラクターが気に入った。中学からアメフトをやると決め、受験して関学に入った。足が遅いだけに「栗田良寛と同じとこやるんやろな」と思っていたら、本当にOLになった。中1のころは145cm、45kgほどだったが、とにかく鈍足だった。当たりが強いからではなく、走れないからOLになった。

中学時代は、ほとんど試合に出られなかった。高2からOLとして試合に出られるようになった。そのシーズンにクリスマスボウルで勝って高校日本一になったが、まだOLにやりがいを感じられずにいた。

高3になり、体に染みつくほどステップを見直そうという話になった。しっかり取り組み始めると、面白いようにランが通るようになった。6年目にして始めてOLが面白い、やりがいがあると思えるようなった。クリスマスボウルで連覇を果たした。

元日大相撲部の父に投げ飛ばされて

大学で競技を続けるに当たっては、少しだけ悩んだ。その当時で175cm、92kg。この体で通じるのかという不安があった。それに、やりたいこともあった。「音楽が好きなんで、バンドでもやったろかなって思ってたんです」。サンボマスターの「できっこないを やらなくちゃ」が大好きだ。いまもコーチに怒られた日の帰り道は、必ず聞いている。「どんなに打ちのめされたって 悲しみに心をまかせちゃだめだよ」の出だしが、森田の巨体を癒やしてくれる。バンド結成を具体的にちょっとだけ考えたら、「やっぱり4年間もったいないわ。アメフトはおもろいし」と思い至り、軽々と翻意した。

センターはスナップという「ひと仕事」を終えてから当たりにいく

大学に入ってすぐ、自宅にいると父が「当たりを見たる」と言ってきた。日大相撲部出身の父が、一人息子にそんなことを言うのは初めてだった。思いきり来いというので、部屋の中だったが、森田は遠慮なく突っ込んでいった。完璧に受け止められた。父は微動だにしなかった。軽々と投げ飛ばされた。「勝てると思っていったんですけど、まったくダメでした」。父の偉大さを知った瞬間だった。

父は毎試合観戦に来てくれる。「今日はやられたな」と思って家に帰ると、「やられとったなあ」と言われる。誰よりもよく見てくれているのが、うれしい。

今シーズンこれまでで会心の試合は甲子園ボウルだったという。「早稲田のディフェンスは複雑な隊形でくるから、とにかく練習しました。それがうまいことはまった。ランプレーがどんどん進んで、めちゃくちゃ楽しい試合でした」。ランで勝ったということは、OLで勝ったということなのだ。

「会議室6」からすべては生まれる

「準備の関学」と言われる。関学のOLはまず相手のビデオを見て、DLが動いてくるときの角度とテクニックを洗い出す。大男たちは大学の学生会館にある「会議室6」にこもり、ひたすら相手を丸裸にする。相手がこう来るから、ステップはこうするというのを決め、とことん合わせる。その緻密(ちみつ)さは日本一だという自負が、関学のOLたちにはある。森田はその中でも、最も細かく突き詰めていこうとしている。そしたらその部門においては森田君は日本一のOLですねと言うと、彼は照れ笑いで「日本一でありたいとは思ってます」と返した。

ランで勝った甲子園ボウルはOLの勲章

森田は盟友の無念を抱えてライスボウルに臨む。中学からずっと当たりの練習でぶつかり合ってきたDLの寺岡芳樹が、リーグ戦中のけがで戦線離脱。森田は言う。「コイツには負けたくないと思って、中1からずっとやってきました。でも中学のときは完敗で、高3でやっと勝負できるようになりました。大学でもずっと寺岡と当たって、強くなれました。だから、アイツの分もやりたいと思ってます」

ライスボウルで初めてアメフトを観戦する人に、OLのどんなところを見てほしいか尋ねた。「きれいにランプレーが通ったとき、リプレーでOLを見てほしいです。ナマで見るのはRBでいいんです。そのあとのリプレーで、僕らがブロックしたから走れたってのを見てほしいです」。うんうん。そんな見方をしてくれたら、OLたちは泣いて喜ぶことだろう。

父にいいところを見せたい

さあ、2年ぶりのライスボウルがすぐそこだ。「センターとして、真ん中を開けたろうってのは、いつもあります」。2年前は子ども扱いされた富士通ディフェンスの選手たちに、やり返すときが来た。そして当たりの師匠である父は、東京ドームのスタンドから背番号73の一挙手一投足に目を凝らしているはずだ。

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