いつも最前線にいた主将 神戸大・藤川凌
球技なのに、基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす連載「OL魂」。2018-19年シーズンの最終回となる第13回は、OLだけでなくDL(ディフェンスライン)にも入り、秋のリーグ戦を通じて攻守の最前線でぶつかり続けた、とんでもない男を紹介します。神戸大の主将、藤川凌(りょう、4年、豊中)です。
OLとDLのリャンメン
高校や大学の下部リーグでは選手が少なく、やむを得ずオフェンスもディフェンスも出ずっぱりのケースがままある。だが近年の関東、関西の大学の最上位リーグでの両面出場は極めて珍しい。しかし今シーズン、神戸大の74番はずっと最前線に立ち続けた。しかもOLとDLという、最も肉体的、精神的にこたえるリャンメンだ。
「体力的にはしんどいですけど、チームが勝ちに近づくなら、フィールドに立ち続けたい。キャプテンらしいこともできてないので、リャンメンをやり続けられたのはよかったと思ってます」。リーグ最終戦のあと、藤川はしみじみと語った。2年ぶりに関西学生リーグ1部で戦い、3勝4敗の5位だった。同じ国立大の京大には31-14で完勝してみせた。
大阪府吹田市出身の藤川は身長178cm、体重122kgの堂々たる体格。大阪の豊中高でアメフトを始めたころは70kgだった。神戸大に入ったころが90kg。そして4年間で30kg増えた。
日本一になりたいと思って入った神戸大で、もやもやした3年間をすごした。1回生のときは当時のチームの方針で新入生は選手登録せずに体をつくり、留年して「5回生」までプレーすることになっていた(現在は方針転換し、1回生も出場している)。だから藤川たちは普段は先輩たちと同じように練習しながら、試合になると観客席からレイバンズの戦いぶりを見つめた。「正直、悔しかったです」と藤川。
高3のとき、立命館大から声がかかっていた。当時の藤川はDLとして相手のプレーを壊すのにやりがいを感じていた。立命サイドもDLとして期待してくれていた。その誘いを断って進んだ神戸大で迎えた最初のリーグ戦。けがもしていないのに、防具を着けることもできない。観客席で先輩の戦いを見ながら、「立命に行ってたらな」という思いもよぎった。
フットボールが楽しくなくなった
2回生のときはOLのスターターになり、DLでも少しだけ試合に出た。このシーズンでチームは2部に落ちた。3回生のシーズンはOLに専念。2部だと大勝が続く。それでも、何もうれしくなかった。「1敗でもしたら、4回生のシーズンも2部や」。そんな妙なプレッシャーもあった。フットボールがあまり楽しくなくなっていた。
思えばアメフトを始めた豊中高校時代は楽しかった。同級生には昨年の甲子園ボウルに出た関西学院大の副将でWRの尾崎祐真と、早稲田大の副将でLBの中村匠、エースRBの元山伊織。中央大の主将でOLの川西貫太、そして同じ神戸大に進んで副将になったOLの高橋康貴らがいた。同級生の中でただ一人、中学校以前からアメフトをしていた尾崎がコーチ役になり、藤川たちにフットボールの面白さを教え込んだ。体を鍛えるという面では、川西がお手本になってくれた。藤川は「高校時代に学んだいろんなことが、いまの僕のフットボールをつくってくれました」と語る。
神戸大3回生のシーズンで1部復帰を決め、残すはラストイヤー。藤川は主将に立候補した。3回生のときから、チームは選手主体へと舵(かじ)を切っていた。「全員がフットボールを楽しんで、しかも強いチームをつくりたい」。晴れ晴れとした気持ちで過ごしてこられなかっただけに、藤川は最後のシーズンにかけた。先輩たちが抜けてDLが弱くなったため、リャンメンでの出場を求められた。難題ではあったが、主将としてフットボールをやりきる姿を示すという意味では、これ以上ないチャンスでもあった。
1試合ずっとフィールドに立ち続けられるように、パワーだけでなく持久力をつけることに取り組んだ。122kgの巨体で、トレーニングバイクを延々とこいだ。
OLは5人でひとつ
勝負の秋が来た。OLとしては5人の真ん中に構えるC(センター)で、ほぼフル出場。DLとしては最前線に4人が並ぶ中で、中央ふたりのDT(ディフェンスタックル)を担った。DLでは2シリーズ続けてフルに出たら、次のシリーズはゴール前に攻め込まれるまでお休み。ディフェンスコーチのそばにパイプ椅子を持ってきてもらって座り、首の後ろを氷で冷やしてもらいながら出番を待った。リーグ最終戦の近大戦では、試合中に鼻血も出した。さらにフィールドゴールやトライフォーポイントのキックの際はスナッパーを務め、パントリターンのチームにも入った。キックオフの間だけは、少し座って休んだ。
神戸大のOLは昨シーズンから1人が入れ替わっただけで、コンビネーションは抜群だった。オフェンスでの獲得距離は優勝した関学、2位の立命に次いで3位だった。「それが、ほんまにうれしかったです」。藤川が満面の笑みで言った。神戸大から唯一、リーグのベストイレブンに選ばれた。OLの藤川として、選ばれた。
高校時代もリャンメンで出ていた藤川だが、前述のようにDLの方が好きだった。でも大学でOLの面白さに目覚めた。「4人が相手に当たり勝っても、あと1人が負けたらプレーが止められることもある。OLは5人でひとつなんです。目の前のDLを押して、2列目のLB(ラインバッカー)まで巻き込むぐらいにもっていく。それで自分の背中を走ってくれたら最高ですよね」
押して押されてはね返して、タックルして。「これぞ男」というべき一人二役をやりきった藤川の言葉には、重みがある。
学生最後のシーズンを振り返り、藤川は言った。「僕らが3回生のころから選手主体のチームに変わりました。最後に1部で勝ち越しはできませんでしたけど、3勝できました。選手主体でも通用するのが証明できてよかったと思います」。そして後輩たちにエールを贈る。
「これまでは負けが込んで、『2部に落ちるんか』と考えてしまうチームでした。でもここからは、日本一という目標を掲げてる自信と誇りを持って戦ってほしいです」
留年が決まっており、藤川は春以降も大学に残る。1回生のときに選手登録していないため、この秋のシーズンにも、出場はできる。「いまのところ、そういうつもりはないです。もう次の代のチームですから」。藤川はそう言うが、それでも秋、ピンポイントででも、彼の選手としての4年目を見たい気がする。