アメフト

関学の副将・尾崎祐真は必殺仕事人なり

京大戦後、尾崎は誰よりも大きな声で校歌「空の翼」を歌っていた

関西学生リーグ1部第6節

11月4日@万博記念競技場
関西学院大(5勝)vs関西大(4勝1敗)

前節10月19日の関京戦。関学は京大のランに苦しめられながらも、終わってみれば23-3の完勝だった。渋い男が関学の勝利を支えた。

喜びすぎて怒られる

背番号80、副将でワイドレシーバー(WR)の尾崎祐真(4年、豊中)。関学が9-3とリードして、試合は残り約5分になった。京大の攻撃は第4ダウンになり、攻撃権を放棄するパントを蹴った。尾崎はそのボール捕ってリターンする「パントリターナー」として、フィールドに入っていた。尾崎はボールを捕ると、巧みにタックルをかわし、34yd返した。

尾崎のパントリターンによって、関学の攻撃は敵陣40ydから始まった。この日の攻撃開始地点の中で、最も有利な位置だった。このチャンスを、オフェンスがようやく最初のタッチダウンにつなげた。

試合後、尾崎に「ナイスリターンでした」と声をかけると、どうも反応が鈍い。聞けば、あのプレーの直後に大喜びして、コーチに怒られたのだという。「ファイターズの哲学に反するんです。僕がまだまだ甘いんです」。確かに関学の4回生、とくにシーズン後半を迎えた4回生といえば、みな修行僧の風貌(ふうぼう)で、目の前のことに一喜一憂しないもんだと思っていた。喜びすぎて怒られた4回生なんて、あまり聞いたことがない。この男が関学の副将であることに、私は非常に興味を持った。

34ydのパントリターンを決め、笑顔がはじけた

副将に選ばれた理由

大阪府立豊中高でもアメフト部の副将だった。進学校だから、3年生は春の大会で引退する。尾崎たちは最後の春、大阪2位で関西大会に進み、準々決勝で関学高等部と当たった。14-21の逆転負けだった。豊中高のメンバーたちは関学を倒そうと大学でもアメフトを続けた。そして尾崎は、その関学へ進んだ。当時の尾崎の同期にはいま、各チームで幹部になっている選手が多い、高校時代に主将だった川西貫太は中央大の主将。中村匠は早稲田大の副将。藤川凌と高橋康貴は神戸大で主将と副将になっている。そして尾崎だ。

この5人の中で、いわゆる「一本目」でないのは尾崎だけ。みんな自分のポジションでバリバリ活躍し、チームを引っ張っている。尾崎は本職のWRでは出番がない。身長168cmと小さく、飛び抜けたスピードもない。3回生まで秋のリーグ戦でのパスキャッチはゼロ。今シーズンようやく、第4節の甲南大戦の第4Qに23ydのパスを捕った。その1回だけだ。ほぼ専任のパントリターナーと言っていい。

その尾崎がなぜ副将なのか。前出の早稲田の中村に尋ねてみた。「ほとんど試合に出ない尾崎が副将ってのは、すごく関学らしいし、いい人選だと思いました」。ほぉ。尾崎が喜びすぎて怒られた話を中村に伝えると、「そのときは怒られたのかもしれないですけど、アイツはそんなヤツじゃないですよ。キャプテンシー、すごいですから。僕らの高校のアメフト部って、みんなアメフトのアの字も知らずに入ってくるんですけど、アイツだけは小学校からやってたから、みんなに必死で教えてくれました」と力説する。だいぶ、印象が違ってきた。「尾崎はアツい男です。チームのためなら、自分から進んで嫌われ役にもなる。僕はいまでも、尾崎と一緒にやれてよかったって思ってます」。そうか、そうなのか。

尾崎は京大戦のあと、自分が副将になった経緯も教えてくれた。3回生のとき、関学の頭脳として知られる大村和輝アシスタントヘッドコーチが、部の卒業生や関係者に配る冊子に「来年は尾崎を幹部にしたい」と書いたそうだ。尾崎にとって「寝耳に水」どころの話ではなく、仲間うちでは「やめてくれ~」と笑いのネタにしていたという。「けがで練習もできてないときにそんなこと言ってもらえたから、ほんとはうれしくて、調子に乗っちゃいました」と尾崎。最上級生になるとすぐ、関学体育会の「リーダーズキャンプ」という合宿があった。大村コーチは尾崎をそこへ参加させた。その合宿が終わり、「チームのためにやってみよう」と思うようになった。

ただ、大村コーチに「なぜ自分だったのか」と尋ねたことはない。「聞けないですよ。いまは『俺が幹部でええんか』って思うことは山ほどあります。毎日、『もっとやらなあかん』と思うだけ。毎日がふがいないです。いい選手になって、チームを勝たせる選手になってから大村さんに聞きたいです」と話した。

プレーにも言葉にも勢いがある男

いま尾崎がすべてをかけるパントリターナーは、相当に難しい役割だ。蹴られたボールは放っておいても自分たちのボールになるが、相手のパントを受けて前進すればするほど、次のオフェンスは前から始まる。しかし難しいボールを無理に捕りにいってはじくと、相手ボールになる可能性もある。高度な判断力、思い切り、正確なキャッチ、リターンのセンス。求められるものは多い。

高1からずっとパントリターナーをしてきた尾崎に、その魅力を尋ねた。「一気に流れを変えられるポジションです。リスクはめっちゃあります。でもハイリスクだからこそ楽しいんです。一番面白いのは、オフェンスのパスだったら絶対捕りにいかないといけないですけど、パントは『これは危ない』と思ったら、捕りにいかんでもいい。捕りにいかんでいいって、面白くないですか?」。私は「おもろいな、それ」と言いながら、うなずいた。この男は話がうまい。これもリーダーとして大事なことなのだろう。

捕るべき球をしっかり捕るため、事前の研究は欠かせない。いつも自分なりに次の試合相手のパンターをチェックしたあと、味方のパンターである安藤亘祐(3年、関西学院)と話をするのだという。「安藤としゃべるのが、一番ためになるんです。相手のフォーメーションごとにどんな傾向があるか、どんなクセがあるかってことを教えてくれます。京大戦も安藤が傾向を教えてくれたおかげです」。と、後輩に大感謝した。

事前の研究を欠かさない尾崎は、11月4日の関大戦、18日の立命大戦でどんな”仕事"を果たすか

あこがれのアメフト選手はいるのかと尋ねると、「同期に2人います」と即答した。同じWRの松井理己(りき、市西宮)と、QBの西野航輝(箕面自由学園)だ。「アイツらの行動力はすごいです。勇気づけられます。二人のためにも頑張りたい」と言いきった。あまり質問と答えがかみあってない気もするが、とにかく尾崎の気持ちは伝わってきた。

ここまで全勝の関学はいよいよ11月4日に関大、18日に立命大とぶつかる。尾崎はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。「試合までに少しでも判断材料を増やして、オフェンスにいいポジションを渡せるようにしたいです。僕の強みは気持ちの表現の部分です。声もデカいです。プレーでも言葉でもチームの士気を上げていきたい」。言葉に勢いがある。こっちまで元気がわいてくる。

さあ、注目しよう。相手がパントを蹴るシーンになると、独特の体形をした関学の80番がフィールドに入ってくる。「パントリターナーって、仕事人っぽいですよね。度胸のある仕事人になりたいんです。僕は」。関学の必殺仕事人が、いぶし銀の輝きを放つことだろう。

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