大学アメフト

連載:OL魂

西南学院大・大久保新 腹を出し、紳士風のお辞儀……「目立ってみんなを元気にしたい」

試合前の練習で、わざと腹を出す西南学院大の大久保(すべて撮影・松尾誠悟)

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くす「OL魂」。さあ、九州男児に登場いただきます。西南学院大グリーンドルフィンズのオフェンスを支える大久保新(あらた、4年、熊本県立第二)です。

試合前練習から「俺はここにいるぞ」とアピール

九州学生リーグ1部で5連覇中の西南学院大は第3節を終え、6チーム中唯一の開幕3連勝。私は第2戦のあった9月16日に福岡で取材した。試合会場の平和台陸上競技場に着き、両チームの練習を眺めていた。すると、緑のユニフォームの西南大の中に、一人だけ違和感を感じざるを得ない選手がいた。上半身の下半分が肌色なのだ。よく見ると、彼はユニフォームをまくり上げ、立派な腹をむき出しにしていた。暑いからだろうか? 背番号は60。調べるとOLのスターターだった。私は大久保に注目して試合を見ることにした。

味方のタッチダウンのあと、深々とお辞儀

試合は序盤から西南大ペースで進む。第1クオーター(Q)4分すぎ、RB(ランニングバック)篠崎蓮(4年、明善)が8ydのタッチダウン(TD)ランを決める。その直後、大久保が演奏会を終えた音楽家のように、大きく右腕を上げたあと、深々とお辞儀をした。次は2分後だ。左のG(ガード)に入った大久保がキーブロックを打ち、篠崎を走らせてTD。すると大久保は胸のあたりを強くたたき「やったったばい」と言わんばかりに目立っていた。普段取材している関西学生リーグには彼のようなOLはいないので、どんな男なんだろうと気になった。試合後、声をかけてみた。

まず、試合前のあの姿について聞いた。大久保はニヤニヤしながら教えてくれた。「ラインは恥ずかしがり屋さんが多いんです。太ってるし、大きいし、日ごろからみんなにいじられる。僕は逆で、胸まで見せて『俺はここにいるぞ』ってアピールしてます。QBみたいにかっこよくはなれないけど、プニッとしてる部分を全面に押し出してます。それもアメフトらしさだと思うんで」。なんと、あの「腹出し」には立派な「OL魂」があった。

TD後のアピールについても聞いた。これまたニヤッとしながら言った。「きょうはジェントルマンっぽくしました。反則を取られない程度にやってます」。2年生の終わりごろから続けているという。「ラインは目立たないし、好きな人くらいしか見てくれない。でも『あんなのもおるんやな』って思ってもらえたら、みんな元気が出ると思うんです」。地味なOLに光を当てたいがためのアピールだった。NFLを参考に、レパートリーは20〜30種類に及ぶ。昨秋、九大との試合後には相手のファンから声をかけられた。「強くておもしろいし、大久保くんのファンになりました!」。純粋にうれしかった。相手ファンをも虜(とりこ)にしてしまうOLが、九州にいた。

相手をブロックし、RB(右端)を走らせる

全員初心者の集団ってかっこいい、とアメフト部へ

熊本市立出水(いずみ)中学校では野球部。外野やファーストの控え選手だった。週6日も厳しい練習をするのに、試合に出られないのはつらかった。その反動からか、熊本県立第二高校では指導者もおらず、ただ楽しくやるだけのバレーボール部に入った。試合には出られたが、公式戦は0勝だった。1年間の浪人生活を経て、西南大へ。「全員初心者の集団ってかっこいい。ここで磨かれたら、価値ある4年間になるかな」。そんな期待を胸に、アメフト部の一員になった。

当初は、相手チームの分析をする役割のAS(アナライジングスタッフ)なろうと思っていた。だが、最初の新入生の集まりで周りを見渡すと、みんな自分より体が小さい。浪人生活で体重が15kg増え、90kgになっていた。「俺、たぶん選手だな」。そして「OLだろうな」という直感があった。食べることが好きだったので、OLになって体を大きくしないといけないとなっても、困りはしなかった。大好物はピザ。みるみるうちに大きくなり、いまでは身長184cm、体重120kg。サイズだけなら甲子園ボウルを戦うようなチームのOLにもひけをとらない。

目標は「打倒関西」、すごいことを起こしたい

OLとして2年生からスターターの座についた。九州ナンバーワンQBの伊藤嵩人(たかと、4年、福岡県立新宮)を守る大事なポジションだ。巨体を必死で動かし、伊藤やRBに触れさせまいとする。「守ったら絶対に何かを起こしてくれる。嵩人はOLが(相手を)止めれば止めるほど、それに応えてくれるんです」。細い目をさらに細めて言った。

今年、チームは九州6連覇と「打倒関西」を目標に掲げている。「関西のチームを倒すということは、日本一を目指すことと同じ。成し遂げたときに、ゆっくりと何かが変っていく感じや注目されるイメージをしながら、すごいことを起こしたい」と語る。関西のチームと戦うときにどんなプレーがしたいのか尋ねた。大久保は「九州の西南ここにあり! ってとこを見せつけたいです」と語気を強めた。

チームの広報担当も務める大久保(60番)。来春には広告代理店へ就職する

彼にはチームの広報担当としての一面もある。昨年11月からグッズ製作やSNSの運用に携わってきた。今月は福岡大とコラボしてピンクリボンキャンペーンに取り組む。OLが広報というのも面白いが、立派な理由がある。「九州のアメフトは関西や関東に比べて盛り上がりに欠けてます。きっかけは何でもいい。グラウンドに来れば、何か感じるものがあるというのをいろんな人に知ってほしい」。聞けば、来年の春から地元の広告代理店で働くという。ぴったりだ。

ここから厳しい戦いが始まっていく。九州を愛し、チームを愛し、OLを愛する男が西南オフェンスの最前線で体を張り、グリーンドルフィンズを勝たせる。

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