アメフト

九州の怪物QB、本気で狙うぞ甲子園ボウル 西南学院大・伊藤嵩人

練習でパスを投じる。鍛え上げられた腕がのぞく

九州に怪物QB(クオーターバック)がいる。そんな噂が耳に入り、取材に出かけた。

その男は、アメフトの九州学生リーグ1部で5連覇中の西南学院大学グリーンドルフィンズにいた。4年生の伊藤嵩人(たかと、新宮)。身長184cm、体重91kgの堂々たる体格で、ベンチプレスは135kgを支え、40ydを4秒5で駆け抜ける日本トップクラスの俊足。まさに無敵のアスリートだ。

Xリーグの強豪も興味示す

九州では走って投げての大活躍で、昨秋のリーグ戦最優秀選手に輝いた。社会人Xリーグの強豪である富士通やパナソニックが興味を示したという。西南大が週末に合同練習をするXリーグの福岡サンズには、かつて立命館大のエースQBで、2017年に関西学生リーグの最優秀選手になったQB西山雄斗(23)がいる。西山は伊藤をこう評する。「体つき、足の速さ、肩の強さ、どれをとってもズバ抜けてます。ポテンシャルがすごい。自分とは比較にならないほどレベルが高い。このままアメフトを続けたら、日本代表になると思います」

西南大が全日本大学選手権決勝の「甲子園ボウル」に出るためには、関西の強豪を倒さなくてはいけない。「打倒関西」の目標に向け、4月13日に京都大学、21日は関西大学との交流戦に挑んだ。この2試合に勝つため、昨年12月から試合形式の練習を積んできた。だが、現実は甘くなかった。京大には第3クオーター(Q)までリードを奪ったが、終わってみれば29-41。関大には0-58と大敗した。

関大戦で相手守備陣に迫られながら、パス

完封負けを喫した関大戦、伊藤のパフォーマンスは低調だった。パスは受け手のWR(ワイドレシーバー)とタイミングが合わず、ほとんど通せなかった。ランにも切れ味がなかった。パスからのスクランブル(緊急発進)で2、3人のタックルをかわすことはあったが、劣勢をひっくり返すほどのビッグプレーはなかった。試合後、伊藤は力なく言った。「パスを投げる時の(相手の)LB(ラインバッカー)の下がり方、DB(ディフェンスバック)のマンツーマンのうまさ、タックルの強さが九州とは違いました」

関大に完敗も、「変わる」宣言

日帰りでの関西遠征という難しい環境に加え、いつも以上に頭を使い、鋭く痛いタックルを受ける。体力の消耗は想像以上で、「スタミナ不足ですね。冷静な判断が、最後までできなかった」と悔やんだ。京大戦では、後半から足がけいれんし始めたという。それでも、伊藤は下を向かない。まっすぐ前を見て、こう宣言した。「言い訳はしたくないんです。この悔しさを胸にしまいこんで、秋には本気で関西を倒すチームをつくります。今日から、いまから変わります」

伊藤は福岡市出身。小学校で軟式野球とサッカーに取り組み、中学では野球のショート。福岡県立新宮高校では甲子園を目指して野球に打ち込んだ。センターのレギュラーだったが、最後の夏は福岡大会で初戦敗退。「燃えつきたというか、やめようと思いました」。西南大に入ると、アメフト部の勧誘を受けた。「熱量がすごかった。『本気で一緒に日本一を目指そう。初心者でもできるから』って言われて、心が動きました」。1、2年のときはWRとして活躍したが、3年から攻撃の司令塔であるQBになった。

関大戦で、相手のタックルを外して前進

「当たるのが痛くて、アメフトもすぐにやめようと思ったんですけど、秋の試合で初めてキャッチしたときにベンチがすごく盛り上がってくれて、それがうれしくて、楽しくて忘れられなかったんです。こんなに体を削ってやるスポーツもない。痛い分、つらい分、一つのキャッチ、一つのプレーで、みんなが自分のことのように喜び合える」。気がつけば、アメフトにどっぷりハマっていた。2年生でパス捕球回数のリーグトップになり、ベストイレブンにも選出。3年生はリーグMVPを獲得した。入学時からずっとリーグ制覇が続く。今年はオフェンスリーダーで、チームの副将だ。

目標はぶれずに「日本一」

伊藤は「目標は日本一」と譲らない。2009年から甲子園ボウルへの道が関東、関西以外の地区にも開かれた。ただ、関東、関西以外の大学が甲子園ボウルに出場したことはない。力の差は大きく、まだ現実味があるとも言い難い状況だ。しかし、そんなことは、真剣に取り組む当事者には関係ない。「日本一になりたいと思って入部しました。厳しいことは分かってますけど、目指せるとも思ってます。ラストシーズンにかける思いは強いです」。伊藤は言った。

伸びやかなランも魅力だ

関西遠征2連戦を終えた関大戦のあと、伊藤を取材していた唯一の記者だった私に対してこう言った。「今日はわざわざ来て頂いたのに、全然ダメですみませんでした。ありがとうございました。秋にはいまより2倍、3倍強くなって帰ってくるので、またよろしくお願いします」と。恵まれない環境だろうが、下馬評が低かろうが、甲子園ボウルを本気で目指す魂に触れた。潜在能力は誰もが認め、伸びしろは計り知れない。礼儀正しく熱い男を応援せずにはいられない。ぜひ、4years.読者のみなさんも西南学院大QB伊藤嵩人の集大成に注目してほしいと思う。きっと、大きな仕事をやってくれるだろう。

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