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連載:OL魂

桜美林大・鳥辺拓 ヒットでは負けない、俺の原点は東邦高校ウッドぺッカーズにあり

桜美林大の鳥辺(73番)は、まさにオフェンスの中心で体を張る(撮影・北川直樹)

関東大学リーグ1部BIG8 第3節

10月5日@東京・駒沢第二球技場
桜美林大(2勝1敗)31-7 国士舘大(3敗)

球技なのに基本的にはボールにさわれない。オフェンスを前に進めるため、ただひたすらにぶつかり続ける大男たちがいる。自己犠牲のポジションとも言えるOL(オフェンスライン)の生きざまについて書き尽くすシリーズ「OL魂」。関東大学1部BIG8に所属する桜美林大スリーネイルズクラウンズのOL鳥辺(とりべ)拓(3年、東邦)。チーム随一のヒットの強さでオフェンスを引っ張ります。

まさかの黒星スタート

桜美林大は過去2年連続で関東の最上位である1部TOP8との入れ替え戦まで勝ち上がりながら、ともに敗れた。そして迎えた2019年シーズン。桜美林は初戦の神奈川大戦で足元をすくわれた。14-21で負け、まさかの黒星スタート。入れ替え戦出場のためにもう負けられない戦いが続く中、この日は国士舘大に快勝した。鳥辺はそのオフェンスの最前線で奮闘していた。

鳥辺はOLの中でも5人の真ん中に構えるセンター(C)だ。CがQB(クオーターバック)にボールをスナップするか、手渡すところから、ほぼすべてのプレーが始まる。鳥辺は身長175cm、体重110kgの体で、動きもいい。何よりカツンと硬いヒットができる。この日も動きながらのブロックで、相手のLB(ラインバッカー)をぶっ飛ばしていた。

鳥辺(中央)の後ろをRBが走る。OLとして最高の瞬間だ(撮影・篠原大輔)

試合後、駒沢第二球技場内の一室で、鳥辺と向き合った。「OL魂っていうコーナーがあって」と言ったところで彼が口を開いた。「全部読んでます。僕でいいんですか?」。このコーナーをつくった当事者として、こんなにうれしいことがあるだろうか。私はなるべくその喜びが漏れ出さないように気を付けて、取材を始めた。

鳥辺がOLとして貫いていることを聞いた。「ヒットでは負けないことっすね」。分かる。あのプレースタイルを見れば、よく分かる。

いきなり告げられた廃部

名古屋出身。名古屋市立東港中学校では水泳部にいた。専門はバタフライだった。そのころから「大学生になったらラグビーかアメフトをやろう」と思っていた。当時から周りの仲間よりは大きく、その体を生かせると思ったからだ。中2のときにテレビで見かけたNFLの試合にひきつけられた。私立の東邦高校に入ると、迷うことなくアメフト部に入った。

入るなり衝撃の事実を突きつけられた。顧問の先生が言った。
「3年後に部がなくなるけど、いいか?」

アメフト部「ウッドペッカーズ」(通称ウッペ)は、鳥辺たちの学年を最後に部員募集をやめ、彼らの卒業と同時に廃部になると決まっていたのだ。「どうしよう」と思っていたら、部のOBの人たちが廃部に反対する署名活動をやってくれていると知った。廃部が覆る希望を持っていたが、変わらなかった。

2年生の秋のシーズンが終わると、ウッペのチームとしての活動が終わった。試合がなくなったのは悲しかったが、鳥辺と同期の5人は大学でもアメフトを頑張るためにと、ひたすら練習した。1学年下にひとりだけ後輩がいて、一緒に練習した。鳥辺はOL兼DL(ディフェンスライン)だったが、たった7人で練習するにはあらゆるポジションをやらないと成り立たない。何でもやった。「大学で活躍したかったから、こんなことで腐らないようにと思ってました」

いまも心に残るブロック

高3になってすぐ、桜美林大の練習を見学に行った。雰囲気がよくて、大人のコーチがOLのテクニックについて丁寧に教えてくれた。ウッペの同期である村木勇斗とともに進学することになった。

体重は110kgあるが、鳥辺は動きもいい(撮影・北川直樹)

ようやく思う存分OLの練習ができる。試合もある。鳥辺は張り切っていた。1年生の最初から、OLの中でもタックル(T)というポジションで試合に出してもらった。秋のリーグ第2戦で、いまも心に残るブロックができた。ゴール前に攻め込んでのランプレー。鳥辺はRB(ランニングバック)が走るはずのコースとは逆サイドにいたが、相手を必死で押し続けていたら、それを見たRBが鳥辺の上を跳び越えてタッチダウンした。プレーの逆サイドでもしつこく押し続けていれば役に立つこともある。OLとしての新たなやりがいを知った。あまりにうれしくて、そのプレーの動画はいまでもスマホに入れてある。

2年生になってCになった。CはほかのOLのポジションより、相手のDLとの間合いが近い。しかもボールを確実にスナップしてから当たりにいかないといけない。それでも相手に当たり勝つため、鳥辺は一歩目のステップと手の使い方を大事にしている。「いいところに踏み込んで、自分が有利になれるところに手を当てます。でも一番大事なのは『絶対に相手に譲らない』って気持ちだと思ってます」

2年生のときはけがが重なった。秋の3戦目で復帰したと思ったら、別の部位を痛めた。リーグ最終戦に復帰して、1部TOP8との入れ替え戦にも出たが、2年続けてここで負けてシーズンが終わった。「悔しかったです。いろいろ教えてくれた4年生と一緒に昇格を決めたかったんですけど……」。ひたすら当たり続けるOLの練習は単調で痛いだけで、ほとんどほめられることもない。ミスは目立つから、怒られる。そんな日々を一緒にやりとげてきた人たちとは、固くて深いつながりができる。そういうポジションだ。

東邦高校にアメフト部があったことを知ってほしい

そして3年生になった今シーズン、いきなり初戦で神奈川大に負けた。悲願のTOP8昇格のために、もう負けられない。「負けてすぐは、現実を受け入れられなかったです。でも、昇格への道が閉ざされた訳じゃないから、自分のブロックでチームを勝たせることだけ考えてやってます」

最後に鳥辺の思うアメフトの魅力を言葉にしてもらった。「やっぱりオフェンスのことになるんですけど、ボールを前に進めるために11人が動いてるところです。関係のない人はいないってところがいい」。そう、前述した彼の実体験のように、RBの走る逆サイドでも必死でブロックしていれば、役に立つこともある。11人がやりきることで、ボールは進む。

鳥辺は今日も明日もぶち当たる(撮影・北川直樹)

シーズンが終わったら、ウッペの同期6人で集まりたい。村木は桜美林で一緒に頑張っているし、残り4人も愛知県内の大学でアメフトを続けている。「みんなの試合の結果は、いつもチェックしてます」。鳥辺はほんとにうれしそうに笑った。

東邦高校ウッドペッカーズは、もう存在しない。でも、鳥辺たちOBにとって、間違いなくウッペがアメフトの原点だ。ずっと自分の中に残り続けるチームだ。「東邦高校にアメフト部があったってことを、いろんな人に知ってほしいです」。今日も明日も、鳥辺は原点を忘れることなく、ぶち当たる。ひたすらに、ぶち当たる。

OL魂

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