野球

亜細亜大・草部真秀 控えだった高校時代から、「厳しい」大学に進み正捕手に

亜細亜大学の草部真秀は高校時代、控えの捕手だった(撮影・すべて井上翔太)

東都大学野球春季リーグ戦、第3週1回戦

4月19日@明治神宮野球場(東京)
亜細亜大学 8-4 中央大学

亜細亜大学の正捕手・草部真秀(4年、常総学院)の一振りが、延長タイブレークに入った一戦を決定づけた。4-4で迎えた十回二、三塁から、二ゴロ野選の間に1点を勝ち越し、なお2死満塁で右打席に立った。「監督さんに『思い切りいけ』と言われたので、それを信じて、振り切りました」。内角高めに来た真っすぐをとらえた打球が、レフトの後方へ。背走した左翼手は一度グラブに当てたものの、白球はこぼれた。転々とするうちに、草部は三塁へ。走者一掃の三塁打となった。

「粘って反対方向」が本来の持ち味

「打つ方は、まったくあてにしていない」と生田勉監督は言う。草部自身も「もともとは、粘って反対方向に打つというのが持ち味なんですけど、(タイムリーの打席は)満塁だったので積極的に行こうと思いました。追い込まれたら、前に飛ばす気は、さらさらなかったです」

この日、本来の打撃を見せたのは、九回の打席だったかもしれない。追い込まれてから際どいコースをファウルで逃げ、最終的に右前安打で出塁した。第1打席では、カットでファウルにした打球が、中央大学の一塁ベンチを襲った。最前列で声を枯らしていた相手選手たちはその直後、ファウルを警戒するためにグラブをはめ始めた。

十回2死満塁から草部は走者一掃の三塁打を放った

高校時代は控え捕手で、後輩がレギュラー

草部は1年生の頃から先発マスクをかぶっている。ただ高校時代は、控え選手だった。しかも、そのときの正捕手は1学年下の菊地壮太(日本大学3年)。後輩にレギュラーを奪われるということは、自分が最上級生になっても出場機会が限られることを意味する。しかし、本人はそこで腐らなかった。控え捕手は、自然とブルペンで過ごす時間が長くなる。そこで投手陣の特徴や状態をつぶさに確認した。投手陣からは、ときに「草部に球を受けてほしい」と言われるほどの信頼を勝ち取った。

高校3年生で進路を選択するとき、実は他の大学を希望していた。だが叶(かな)わず、「亜細亜大学がキャッチャーを探している」ことを聞き、セレクションを受けた。当時から肩だけは強かった。見事に合格。指導者たちも「2番手でずっとやってきたから、厳しい大学に進んでもやっていけるだろう」と後押しし、本人も「厳しいところでやってみたいです」と応じた。常総学院から初めて亜大に進んだ選手となった。

打席で草部は、バットを短く持つ

遠投120メートル、二塁送球1.8秒の強肩

草部の大きな武器は強肩だ。遠投は120メートルを誇り、捕球してから二塁に送球が到達する時間は1.8秒台をマークしたこともある。生田監督は、走者が一塁にいたときは投手に対して「草部に任せろ」と指示を送るという。「それぐらいの安心感があって、ピッチャーは投げている。彼の肩だったら、よそのチームもそう走られないと思うので」と評価した上で、「もうちょっと足が速いといいんですけど」と冗談を付け加えることも忘れなかった。

控え捕手だった高校時代に磨いた観察眼も、亜大で生かしている。この日は、エースの青山美夏人(みなと、4年、横浜隼人)に疲れが見られ、犠打を挟み5連打を浴びて3点差を追いつかれた三回限りで降板。十回まで計5投手をリードした。草部は「各ピッチャーで特徴は違う。全員に同じリードをしてしまうと、持ち味を出せないので、各ピッチャーのいいボールをどんどん投げてもらうことを心がけました」

4-4で同点の九回、1死二塁でサヨナラ負けのピンチでは、秋のプロ野球ドラフト会議で指名が注目される森下翔太(4年、東海大相模)に対して、高低を使い分けて配球を組み立てた。追い込んだ後は、低めの変化球で空振り三振に仕留め、ピンチを脱した。「見逃されてもいいのでワンバウンドを投げさせたら、空振りを取れたので、よかったです」。

中大をタイブレークの末に破り、タッチを交わす亜大の選手たち

草部は筆者の高校の後輩でもある。2019年に別の取材で亜大を訪ねたとき、当時1年生だった草部と少しだけ話をする機会があった。中大との試合後、記者会見に呼ばれた草部は会見後、こちらに気付いてくれた。野球だけでなく普段の生活から視野を広くし、記憶力にも長(た)けているのだと感じる。

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