野球

連載: プロが語る4years.

特集:WBC戦士と4years.

横浜DeNAベイスターズ・牧秀悟 中大時代からつながる「一球で仕留める」勝負強さ

開幕から1軍スタメン、活躍を続ける牧。どんな思いでプレーしているのだろうか(撮影・瀬戸口翼)

プロ野球が開幕して1カ月経った。各球団でルーキーが活躍しているが、その中でも開幕からレギュラーをつかみ、チームの中心となる働きをしているのが横浜DeNAベイスターズの牧秀悟だ。昨年中央大学の主将を務めた牧に、プロ入りしてすぐに活躍できた理由、大学時代の経験で生きていることなどを聞いた。

WBC出場選手の過去記事をまとめた特集「WBC戦士と4years.」

「自分らしくできている」ことが活躍につながった

4月26日の取材時点で全27試合中、26試合に出場した牧。開幕から1軍スタメンをつかみとり、打率.307、打点10、6本塁打の成績を残している。新人らしからぬ堂々とした佇まいに話題が及ぶことも多い。開幕してから1カ月、率直にどうでしたか? と聞くと「この1カ月で本当にいろんな経験ができました。ずっと試合に出させてもらっていて、結果としていい成績を残せているので、いい状態で過ごせたかなと思います」と振り返る。

仮契約時の牧。「開幕一軍」の目標を超える期待以上の活躍だ(代表撮影)

活躍の理由を聞くと「自分らしく、いつもどおりできている」ことをあげた。特にバッティングでは、チーム内に自分以上に打てるバッターがいる。もし自分がだめでも先輩たちがなんとかしてくれる。「新人の特権」と牧は言い、重圧を感じずにできていることが活躍の理由なのではと分析する。活躍するにつれて注目度が集まるが、そういったことにプレッシャーは感じないのだろうか。「あまり感じないですね。スタメンで出ているので、試合に勝つためになんとかしなきゃ、とは思ってますけど」。この気持ちの持ち方も、プロでの牧の活躍の要因となっているように感じる。

「甘い球を一球で仕留める」勝負強さを発揮

大学時代と一番変わったなと感じるのは、なんといっても試合数の部分だ。大学時代はリーグ戦でも週2回ないし3回。それが1週間に6試合となり、試合の後に移動したり、他球場についてからすぐに練習したりといった流れにはじめは戸惑うこともあった。「ナイターが終わって次の日はデーゲーム、その次の日は移動して試合、ということもあって、試合の反省をしきれない中で次の試合に臨むこともあって。そういう部分では少し疲れる部分はあります」とルーキーらしい感想も。「でもいい意味で毎日試合があるので、次の日には切り替えていく、ということがいまのところできています」

大学時代から勝負強いバッティングは牧の代名詞でもあった(撮影・佐伯航平)

「気持ちの切り替え」は牧が大学時代に会得したことのひとつだ。そしてもう一つプロで生きているのが「チャンスでの勝負強さ」。「チャンスになったら相手に負けないぞ、という圧倒的な気持ちで、相手を上回るようにしている」と話す。そして自分らしいバッティングをする。牧にとって自分らしいバッティングとは、「甘い球を一球で仕留める」ことだという。

それが特にうまくいったと感じたのが、4月1日のヤクルト戦の満塁機でのタイムリーツーベースヒットや、4月8日の中日戦で松葉貴大投手の初球をレフトスタンドに運んだ場面などだ。とはいえ、「甘い球を一球で仕留める」といっても、誰にでもすぐにできるものではない。さも当然のように言うので流してしまいがちになるが、そんなところも新人離れしていると言われるゆえんかもしれない。

大学ジャパンで4番を務め、プロへの意識を強く

長野県出身の牧は、松本第一高校時代は甲子園を目指したが届かなかった。高校3年時にプロ志望届を出すことも考えたが、「このまま行っても通用しない」と中央大に進学。1年春からレギュラーを勝ち取り、2019年、大学3年時の東都大学春季リーグでは首位打者を獲得。夏には侍ジャパン大学日本代表に選ばれ、日米大学野球では全5試合にスタメン出場。第3戦から3試合は4番に座り、3大会ぶりの日本の優勝に貢献した。

この時のチームメートは、1つ上に森下暢仁(明治大~広島)、佐藤都志也(東洋大~ロッテ)、郡司裕也(慶応義塾大~中日)、柳町達(慶応義塾大~ソフトバンク)など。同学年には早川隆久(早稲田大~楽天)、小川龍成(國學院大~ロッテ)などがいた。各大学のトップレベルの選手が集まる環境で、よりプロへの思いを強くしたという。秋には中央大の30季ぶりリーグ優勝に貢献し、個人としてはリーグMVPを獲得した。

2019年、中央大は30シーズンぶりの優勝を果たした。牧はMVPにも選ばれた(撮影・佐伯航平)

大学ラストイヤーの昨年は新型コロナウイルスの影響で春季リーグが中止に。主将として2連覇をかけて臨んだ秋は投打が噛み合わず、3勝7敗でチームは4位に終わった。現在春季リーグを戦っている中央大は5カード終わって、落としたカードは1つのみ。8勝2敗で首位を走っている。後輩たちの活躍をどう思うか聞いてみると「自分が主将の時に勝てなかったので、少し悔しいなという気持ちもありますけど……後輩たちが勝っていることに、自分も力をもらっているところがあります。自分もいい結果を出して後輩たちを勇気づけたいです」と話してくれた。

野球ができる「感謝」を胸に

今後の目標をたずねると「数字に関してはあまり何も考えられないです」という。「今は『試合に出させてもらっている』という感じなので、1年間通して『試合に出続けられるような選手』になりたいです」

新人王を意識するかと聞くと「まだまだシーズンは長いので、意識しないです」とさらり。牧とともにセ・リーグの「新人王候補」として取り上げられているのが、阪神の佐藤輝明(てるあき、近畿大)だ。佐藤と牧は大学日本代表の合宿をともにしたこともある。彼を意識するかを聞いてみると「同学年でいいバッターなので、そこはライバルとして負けないようにと思ってます。ともに(ジャパンで)戦ってきた仲間の結果は自然と耳に入ってくるので、それを聞いて刺激にもなっています」。

4年時には主将を務めた牧。リーグ4位に終わり悔しさが残った(撮影・佐伯航平)

牧はホーム球場での登場曲にアニメ「スラムダンク」の主題歌だった「君が好きだと叫びたい」を選んだ。スラムダンクには「神奈川の牧」と呼ばれるキャラクター、牧紳一が登場する。意識しているのですか? と聞いてみると「キャンプの時に、記者の人にすすめられました」と笑う。自分では意識していなかったが、「神奈川の牧」としてファンの方も覚えてくれるのではないかと思って登場曲を決めた。曲のインパクトと鮮烈な活躍もあり、今ではルーキーながらプロ野球ファン内での牧の認知は高くなっており、狙い通りだともいえる。「球場での応援は、特にホームだと全方向から手拍子が聞こえて、すごく力をもらっていると思います」。注目されたり、期待されたりすることを自然に受け入れ、力に変えることができている。

DeNAベイスターズの選手は、それぞれがユニフォームに個人のパーソナルスローガンをプリントしている。牧のスローガンは「ALWAYS BE GRATEFUL」(感謝の心)。「野球ができることを周りの人たちに感謝しなさい、というのを親に言われてきました。心にずっと秘めている言葉です。これからもその気持を忘れずに野球をしていきたいと思います」

チームは大幅に負け越しており、苦しい状況。だが牧は「シーズンは始まったばかり」と前を向く。「プロ野球選手・牧秀悟」の道も始まったばかり、これからのさらなる活躍に期待したい。

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