中央大学・舛本颯真 初めてのイタリア生活、「発見だらけ」だった石川祐希からの助言

新年度が始まり、4月12日には春季関東大学バレーボール1部リーグ戦も開幕した。各大学が新入生を迎え入れる中、3月15、16日には慶應義塾大学で大学バレー新人強化合宿「Sprout Camp 2025」が開催された。
公式戦を前に観客を入れて実戦の機会が設けられることで、一人ひとりの選手にとっては自身の目標達成に向け、強化につながる貴重な機会だ。加えて大学バレーボール界としても、多くの人たちの目に触れることにつながる。関東大学バレーボールリーグが新たな試みを進める中、昨シーズン以上にリーグ戦を心待ちにしているのが、中央大学の舛本颯真(3年、鎮西)だ。
日本とは「打球の速さや重さが全然違う」
今年の2月下旬、舛本はイタリア・シエナにいた。
2016年から続く中大の海外派遣プロジェクトで土井柊汰(3年、東福岡)、坂本アンディ世凪(2年、東北)と同時期に渡欧した。1月から3月までという限られた期間ではあったが、舛本にとっては海外のクラブに挑戦するどころか、海外へ行くこと自体が初めて。昨年12月に開催された記者会見では「ずっと海外へ行きたいと思っていた」と憧れを口にし、「技術はもちろん、課題としているコミュニケーション力も高めたい」と意気込んでいた。

イタリアでの生活がスタートして、ちょうど折り返しの時期を迎える頃に現地を訪ねると、舛本の表情は充実していた。
「言葉がしゃべれないので最初は緊張したし、不安でした。でも、来たからには自分から話しかけて距離を縮めていこうと思っていたし、最初が肝心だと。練習中はすべてイタリア語なので、わからない単語はスマートフォンにメモをして、意味を調べてノートに書く。チームメートも、練習や食事の時に単語を教えてくれて、優しい人たちばかりなので、すぐになじむことができました」
午後4時からの練習が始まると、最初はスパイクやブロックといった個別のスキル練習もあるが、すぐに6対6によるゲーム形式の練習へと移行した。他の選手とコートに入ると、身長182cmの舛本はまだ体の線も細く小柄。だが、周囲の選手に声をかけられながら、レシーブやサーブ、前衛でのスパイクなど、さまざまな課題に向き合っていた。
同世代の選手もいたことから、環境や生活に慣れるのは早かった。一方、日本で体験できない高さやパワーを求めていたバレーボールについては当初「そのレベルまで行かなかった」と苦笑いを浮かべる。
「打球の速さや重さが全然違う。練習に参加し始めたばかりの頃は、対人(レシーブ)をする時も球がめちゃくちゃ速くて重い。正直に言うと、最初は打球が全然見えませんでした。技術の面だと、高いブロックに対してのスパイクの打ち方やサーブレシーブが自分の課題だと意識してきたんですけど、サーブ一つとっても打点自体が違うから、目の前で急に落ちたり、伸びたり、どこに来るかもわからなかった。日本でもすごいサーブやスパイクを打つ選手はたくさんいますけど、軌道や重さが全然違いました」

「石川選手もいろんなことを試しながらやっている」
戸惑う舛本に対して、その都度チームメートが「もうちょっと真ん中に寄って」「ブロックに当たるボールに対するディフェンスはもっと下がったほうがいい」とアドバイスをくれた。舛本はこれまで、わからないことがあっても自分から人に聞くことがあまり得意ではなかったという。だが、単身で渡ったシエナでは、自分1人でできることに限界がある。チームメートからの助言に加え、舛本にとって大きな刺激になったのが、日本代表主将も務め、中大在学時から延べ10シーズンもイタリアでプレーする石川祐希(現・ペルージャ)の言葉だった。
渡欧直後、それぞれのクラブへ合流する前に舛本を含む中大の3選手は、イタリアのカップ戦、コッパ・イタリアのファイナルラウンドを会場で観戦した。石川が所属するペルージャは準決勝で敗れたが、トップオブザトップの世界で戦い続ける石川の言葉は、中学、高校時代からエースとして活躍してきた舛本に強く響いた。
「石川選手の経験を聞かせてもらえること自体がすごく貴重なんですけど、プラスして、ペルージャではどういう決まり事があって、ブロックにどんなふうに跳んで後ろのレシーブがどこに入るか。今のこともいろいろと話してくれて、ものすごく細かいところまでこだわってプレーしていること自体が、僕からすればすごく新鮮で、発見だらけでした」
「自分自身に目を向けると、イタリアではとにかくブロックが高いので、攻めるところとリバウンドを取るところ、その判断をどうすればいいか迷うこともあったんですけど、石川選手から『ハイボールの時は監督からとにかく強く打て、と言われるから、今はリバウンドだけじゃなく思い切り打っている』と聞いたんです。石川選手でもいろんなことを試しながらやっているんだ、と思うと、自分もまだまだいろいろやらないといけない、と改めて感じました」

現地で学んだことをチームに還元
イタリアでの約3カ月間は、日本で当たり前にできる生活が、どれほど恵まれていたのかを知る機会にもなった。
「他の2選手(土井と坂本)はアパート暮らしなんですけど、僕はホテル生活。食事は基本的に朝はホテルで、昼と夜はクラブのスポンサーのレストランで食べられるんです。けど、量が少ないので、体重を落としたくないから自分でもうちょっと食べないと、と思って、日本からレトルトご飯や餅をたくさん持ってきたんです。でも、電子レンジがない。洗面所にお湯をためて、レトルトご飯を二つ温めて、少し柔らかくなったら食べることはできたんですけど、餅は全然無理。大量に持ってきたんですけど、一つも食べられませんでした(笑)」

同じくイタリアへ渡った土井と坂本とは、時差のない環境で連絡を取り合い、アプリを使って中大の練習も共有し、事あるごとに日本のチームメートたちともコミュニケーションを重ねてきた。野沢憲治監督には練習や試合、生活で感じたことに加えて、現地で覚えたイタリア語を1日に一つ、「バレーノート」に記して毎日見せた。特別なことを記すわけではないが、書くことで自分の考えも整理できるようになり、これから何を還元すればいいのか。描くイメージも具体的になったと語る。
「ディフェンスのシステムとか、バックアタックにつなげる攻撃準備の位置とか。『こういうやり方があるんだ』と。『学んだことは大学でも生かせるな』って。高いレベルになればなるほど、つまらない1本のミスで負けてしまうというのも、試合を見ながら実感したので、周りに対しても指摘することは指摘し、もっと自分から話していけるように。技術もコミュニケーションも、得られた経験は全部これからにつなげていきたいです」
その最初の機会となったのが、4月5日に行われた早稲田大学とのプレシーズンマッチだった。舛本も出場し、フルセットで勝利。「イタリアで得てきたものを出し切ってほしい、と思って起用した」という野沢監督も「目に見えて変化があった」と評価する。春季リーグは、その成果がいかんなく発揮される舞台となるはずだ。

