中大・柿崎晃「この先は、後輩たちに託します」 最後まで強く優しいキャプテンとして
第77回全日本バレーボール大学男子選手権大会
11月28日@東京体育館(東京)
専修大学 3-2 中央大学
(25-21.25-19.22-25.23-25.18-16)
突然の幕切れ。フルセットの末に敗れた中央大学の選手たちは、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くした。
あの1本を拾えていたら。決めていたら。攻めることができていたら――。それぞれが押し寄せる悔しさをかみ締め、それでも受け入れきれず、ひざに手をつきうなだれる。あふれる涙を拭うこともできないまま感情をあらわにする選手たち一人ひとりのもとへ、最初に声をかけて回ったのは主将の柿崎晃(4年、北海道科学大高)だった。
強いだけでなく「いいチーム」を心がけた
自身は懸命に涙をこらえながら周りの選手たちをねぎらう。だがコートを引き上げ、野澤憲治監督に肩を抱き寄せられ、主将としての労をねぎらわれると、柿崎の目から涙があふれた。
「今年1年、ずっと日本一を目標にしてやってきたのに、最後の最後に届かなかった。もっと自分がどうにかすることができたんじゃないか。自分のサーブで攻めることができたら違う結果になったんじゃないか。悔しさと、後悔が込み上げてきました」
最上級生になった今季、自らキャプテンを志願した。サーブレシーブを含めたディフェンスの要であるだけでなく、苦しい時にも相手ブロックを利用したスパイクで着実に得点を挙げる。自らは「周りに積極的に声をかけて引っ張るタイプではない」と言うが、春季リーグ、東日本インカレの「二冠」を達成したチームを束ねたのは、間違いなく柿崎だった。
後輩からも同期からも「頼れる存在」「苦しいことも晃にだけは話せる」と全幅の信頼を寄せられた。最上級生だから、キャプテンだからと偉ぶることは一切なく、むしろ学年関係なく一人ひとりが意見を発しやすい環境をつくり、強いだけでなく「いいチーム」になることを心がけてきた。その結果、選手同士でコミュニケーションを取る機会が例年以上に増え、チームとしての結束力も強まった。勝利に対する貪欲(どんよく)さも増し、チームとしてどう戦うか。方向性が定まっている自信もあった。
細かなズレが生じたのは、夏が過ぎ、秋季リーグを迎えてからだ。「勝ってきた」という自信が気付かぬうちに慢心を呼び込む。なかなか勝てずに悔しさばかりを味わってきた時は、ひたすら勝利を求めて戦ってきたが、秋季リーグで日本大学や日本体育大学に敗れた後は、悔しさがありながらもどこかで「それでも春と東日本は勝ってきたから大丈夫」と余裕を見せる選手もいた。
このままではチームがまとまることなどできない。柿崎が呼びかけて4年生でミーティングを行い「大事なのはここからだから、気持ちを一つにしていこう」と活を入れた。秋季リーグは早稲田大学に全勝優勝を譲ったが、全日本インカレでリベンジを果たそう、と。再びチームが一つになって、最後の大会を迎えた。
自ら流れを引き寄せた第3セット
1、2回戦は全日本インカレ特有の緊張感を味わいながらも、ストレート勝ちで3回戦へ。対するは、同じ関東1部の専修大学。トーナメントの怖さは、これまでの全日本インカレでも嫌というほど味わってきた。柿崎だけでなく、ともにコートへ立つ4年生の澤田晶(愛工大名電)、山根大幸(前橋商業)、山﨑真裕(星城)、村上連(松江工高専)も同じ悔しさを経験し、乗り越えてきた仲間だ。皆が皆、士気を高め、声も顔つきも明らかに今までの大会とは違った。
「自分が周りに対して特別な働きかけをする必要がないぐらい、みんな集中していたし気持ちも高まっていた。大丈夫だ、と思っていました」
だが、最後の大会に懸ける思いの強さは専修大の選手たちも同じだ。ましてや専修大は東日本インカレと秋季リーグで中大に負けている。失うものはないから攻めるだけ、とばかりにサーブで攻め、逆に攻め返しても屈せずに拾い、最後は日本代表でパリオリンピックにも出場した甲斐優斗(3年、日南振徳)に託した。中大は当然のようにブロックをそろえ、スパイクコースにはレシーバーが入ったが、甲斐はさらに上からたたきつけてきた。
両チームともに全力でぶつかり合う。1、2セットは攻撃で勝った専大が連取。勢いづく専大に対し、追い込まれた中大もひるむわけにはいかない。前半は専大に先行された第3セット、流れを引き寄せたのは柿崎だった。
17-17で迎えた場面での長いラリー。自らレフトからストレートに放ち、ブロックアウトを狙ったスパイクで18-17と勝ち越すと、右手をぎゅっと握り締め、胸の前でガッツポーズを作った。そのままサーブに下がり、的確にコースを狙ったサーブで攻撃を甲斐に絞らせたところ、尾藤大輝(1年、東山)がブロック。柿崎の得点ではなかったが、今度は両手でガッツポーズ。自身のスパイク得点以上に大きなアクションで喜びを表現した。
ここが勝負どころだとわかっていたのはもちろん、この1点がチームにとって大きな1点であることをキャプテンとして示してもいた。
「野澤監督や(アナリストの)鵜沼(明良、1年、駿台学園)からも自分(柿崎)が与える影響力はチームにとって大きい、と言われ続けてきたので、相手に2セットを連取されても、受けの姿勢や緊張した表情を出したらダメだと思い続けていました。あの1本はみんな『ここだ』とわかっていたので。自然に(ガッツポーズが)出ました」
3、4セットを取り返し、勝負の最終セット。1-3と先行されたが、舛本颯真(2年、鎮西)のサービスエースや山根のブロック、尾藤のバックアタックで7-4と逆転する。15点先取で3点のアドバンテージを得たが、専大も甲斐のバックアタックや竹内慶多(4年、啓新)のサービスエースで追い上げ、13-13。さらに甲斐のサービスエースで13-14、専大のマッチポイントとなった。
2度目のタイムアウトを経て、再びコートに戻り、甲斐のサーブが続く。柿崎はサーブレシーブをする舛本やリベロの土井柊汰(2年、東福岡)に声をかけ、自らレシーブしたボールを舛本が決めて14-14。ジュースに持ち込んだ。両者譲らないまま、意地と意地がぶつかり合う2時間超えの熱戦に決着をつけたのは、甲斐のスパイクだった。レフトから3枚ブロックを打ち破り、16-18。フルセットの末に専大が勝利した。
笑顔で抱き合いながら歓喜する専大の選手たちに対し、中大の選手たちは立ち尽くし、涙する。中大の、柿崎の全日本インカレが終わった。
それぞれが、やるべきことをやった
試合を終えても立ち上がることができず、うずくまる選手もいる中、野澤監督の言葉に涙しながらも、柿崎は誰よりも先に涙を拭い、笑顔で周囲の選手たちに声をかけた。十分に力を出して戦った。結果以上に、得られたものが多くある。それを証明するように柿崎は言った。
「それぞれがやるべきことをやったし、自分の仕事を全うした。でも今日の試合に関しては相手がそれ以上でした。この1年、ここで勝つために練習からメリハリをつけて(練習の)質を上げてきた。試合に出ているメンバーだけじゃなく、出ていないメンバー、観客席で応援してくれるメンバーも全員がまとまって、全員が『勝ちたい』と思って戦うことができた。結果的にそこで1点取れるか、取れないかで勝ち負けは分かれましたけど、それでも僕はやってきたことは間違っていなかったと思えた。今まで以上に目つきを変えて、一緒に勝ちに行こうと頑張ってくれた同期にも感謝したいし、この先は、後輩に託します」
負けた悔しさをかみ締めながらも相手をたたえ、仲間をねぎらい感謝を伝える。強く、優しいキャプテンとして最後まで戦い続けた。その背中を見続けてきた後輩たちが、夢をかなえてくれる。誰よりきっと、柿崎自身がそう信じ、願っている。