バレー

特集:全日本バレー大学選手権2023

専修大学・甲斐優斗 日本代表での経験をチームに還元、インカレは「今出せる全力を」

日の丸を背負い、頼もしくなってチームに帰ってきた専修大の甲斐(撮影・藤野隆晃)

関東大学リーグ最終節が開催された10月28、29日。会場となった日本体育大学のスタンドは多くの観客で埋め尽くされていた。最終日まで優勝争いが持ち越されていたことも含め、すべての順位が決定していなかったことが一つの要素ではある。

だが、それだけではない。観客のお目当ては、久しぶりに専修大学のユニホームを着て秋季リーグに臨んだ、一人の日本代表選手でもあった。その証拠に、第1試合にもかかわらず専大側のスタンドはほぼ満席。たくさんの応援に感謝を示し、春から夏、夏から秋。これほど早く過ぎたシーズンはなかった、と甲斐優斗(2年、日南振徳)が笑う。

「本当にびっくりするぐらい、あっという間でした」

石川祐希「安心して見て、託せる選手だった」

昨年の全日本インカレを終えると、2月には若手選手による欧州遠征メンバーに選ばれ、4月には日本代表登録選手に選出された。6月に開幕したネーションズリーグでは銅メダルを、8月のアジア選手権ではアウェーのイランで金メダルを、10月に東京で開催されたパリオリンピック予選では8チーム中2位となり、来夏のオリンピック出場権を獲得した。

出場機会は限られていたが、日の丸を背負う重みや結果が求められる中で勝つことのプレッシャーといった、そこにいなければわからない経験を重ねただけでなく、一人の選手としても技術面やメンタル面で、課題や自信を得る機会になったと振り返る。

「スパイクの高さは通用したので、そこは自信を持って、いいところは伸ばしつつ、サーブレシーブも頑張っていきたい。今後はスタメンとして起用される選手になれるように、自分の武器をもっと磨かないといけない、と感じさせられました」

もともと持ち味だったスパイクの高さは世界でも通用した(撮影・井上翔太)

同じアウトサイドヒッターには主将の石川祐希(ミラノ)や、髙橋藍(日体大4年、東山)など、東京オリンピックにも出場した経験豊富な選手がそろう。ただ、石川は甲斐のことを「自分のやるべきことを理解していて、こちらが何か言わなくてもやってくれる。練習でも試合でも、安心して見て、託せる選手だった」と評する。甲斐にとってシーズンを通して日本代表の試合に出場し続けるのは初めての経験だったが、さまざまな大会で堂々としたプレーを見せた。

スパイクでの得点以上にうれしかったサービスエース

日本代表の14人で戦う中、特に甲斐が「武器」としたのがサーブだ。劣勢の場面や、競り合った終盤、流れを変えたい「ここぞ」というところでリリーフサーバーとして出番が巡ってきた。高い打点からのジャンプサーブに、時折緩急もつける。日本代表としても重きを置いたサーブで、フィリップ・ブラン監督からは「ミスが少ないところを評価されていた」と甲斐は言う。その言葉通り、20点以降の終盤、甲斐のサーブからチャンスをつかんだ試合も多くあった。

特にオリンピック予選最終日のアメリカ戦ではリリーフサーバーに限らず、大会期間中で最も長い時間、コートに立ってプレーした。スパイクでも念願の得点を挙げ、決まった直後には笑顔を見せたが、スパイク以上にうれしかったのがサーブでの得点だったと振り返る。

「ここまでずっとリリーフサーバーとして出させてもらって、サーブで1点を取りたい思いがすごく強かった。特に終盤で出してもらうことが多くて、流れを感じながらサーブを打つ、どうすれば得点につなげられるかを学んできたので生かしたいと思っていたし、実際にサービスエースでポイントが取れたのは本当にうれしかったです」

甲斐のサーブ技術はフィリップ・ブラン監督の評価も高い(撮影・井上翔太)

チームに戻り、相手も仲間も驚かせた

日本代表の戦いを終えてから休む間もなく、大学リーグへ。秋季リーグの出場機会も限られたが、久しぶりに専大のユニホームを着て、チームのエースとしてプレーした。対戦した明治大学のリベロ・武田大周主将(4年、松本国際)も「(スパイクの)高さがえぐいぐらい増していて、全然止められなかった」と脱帽するほど。厳しい環境下で重ねた経験が、着実に成果として実っている証しを見せたが、驚かせたのは相手だけでなく、ともにプレーする仲間も同じだった。特に「ものすごく頼もしくなって帰ってきた」と称賛したのが、兄で主将の甲斐孝太郎(4年、日南振徳)だ。

「高さ、パワーは今までもありましたが、サーブが特にすごい。ただ思い切り打つだけでなく、コースを打ち分けて緩急をつけたり、確実に狙った場所へ打って、ポイントを取る。優斗が帰ってきてくれて、こんなにブレイクが取れるんだ、と思ったし、心強かったです」

春季リーグは6勝5敗で7位に入った専大だが、秋季リーグは3勝8敗、苦しい戦いが続き最終成績を10位で終えた。ともに戦う時は当たり前のように感じていた甲斐の心強さや頼もしさを、いなくなって痛感する。秋リーグはまさにそんな戦いだった、と兄の孝太郎は振り返る。

「優斗が抜けてチームの状況が変わっただけでなく、戦い方も変えざるを得ない状態になった。優斗の穴をどう埋めるか。攻撃面はもちろんですが、ディフェンスの面でもいろいろと見直さなければならなかったし、実際なかなか勝てない試合が続いたのも、すごく苦しかったです。でも優斗が帰ってきてくれて、やっとチームの形ができてきました」

チームを率いる主将として、2年生エースの存在の大きさを実感する一方、兄としては代表でこれまでとは異なる経験をした弟を誇らしくも感じている。

「有名な選手たちと一緒にやれているだけですごいな、と思うし、カナダとの親善試合の日が誕生日だったから、あんなに大勢の人に誕生日を祝ってもらって(笑)。大会中は特に連絡を取ることもないし、送るとしても『頑張れよ』ぐらいでしたけど、優斗が頑張る姿を見て、自分も頑張らなきゃ、と思ったし、世界と戦える選手になれるように技術ももっと上げていかないと、と思わされました」

ルーキーだった昨年からチームには欠かせない存在だ(21番、撮影・井上翔太)

兄・孝太郎と一緒に戦う最後の大会

日本代表で得た課題を大学リーグでいかに克服するか。特に「サーブレシーブを改善したい」と本人は言う。「代表でもサーブレシーブを意識して取り組んできて、少しずつ成果も出せていると思うので、サーブだけでなくサーブレシーブももっと安定して、ミスなくできるように意識して取り組みたいです」

大学生のシーズンも、全日本インカレを残すのみ。28日に開幕し、京都産業大学との初戦から始まるトーナメントは、すべて一戦必勝。負けられない戦いであり、兄弟が同じチームで戦うのもこの大会が最後だ。

昨年は初戦で仙台大学にフルセットの末、敗戦を喫した。何より、勝つことの難しさも実感している。だが、相手を圧倒するほどの勢いを得ることができれば、トーナメントを勝ち抜くための武器にもなる。「1戦1戦を必死に、とにかく目の前の相手に勝つこと。チームとしても個人としてもやるべきことを積み重ねて、どこが相手でも勝って終わりたいです」

走り続けた2023年の締めくくり。間もなく迎える全日本インカレでも、今出せる全力を尽くして楽しくバレーボールをするだけ。「気負う気持ちはないし、たくさんの方に見てもらえるのもうれしい。すごく楽しみです」

笑顔が、何よりの証しだ。

秋季リーグ最終戦後、笑顔を見せる甲斐優斗(左)と兄の孝太郎(撮影・田中夕子)

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