バレー

早稲田大・前田凌吾 ルーキーとして流した悔し涙から1年、たくましさ増しうれし涙に

1年の頃からレギュラーセッターとして活躍する早稲田大の前田(すべて撮影・井上翔太)

第42回 東日本バレーボール大学選手権大会

6月24日@墨田区総合体育館(東京)
▽男子決勝
早稲田大学3(23-25.25-16.25-20.25-22)1中央大学

うつむきながら流した悔し涙が、1年の時を経てようやくうれし涙になった。

第42回東日本バレーボール大学選手権大会の男子決勝、早稲田大学―中央大学。24-22、2点のリードを得た早稲田がマッチポイントを握ったが、その2点が決してセーフティーリードではないことは、誰よりも知っていた。

同じ2点を取り切れず敗れた悔しさをかみ締めるように。セッターの前田凌吾(2年、清風)は大学入学後初めてのセンターコートで優勝を決める1点を、迷わず前衛レフトの水町泰杜(4年、鎮西)に託した。

昨年末の全日本インカレでは、同じように2点をリードしていながら相手ブロックに止められ、準決勝で筑波大学に敗れた。その時も、そしてちょうど1年前の東日本インカレ準決勝で筑波大に敗れた直後も、前田は泣いていた。

「僕のせいです。僕のトスが悪いから勝てない。僕が上げたら、勝てないんじゃないか、って」

その肩を抱き、「トスのせいでも凌吾のせいでもない」と笑顔で励まし続けたのが水町だ。事あるごとに「泰杜さんがいてくれることが本当に大きい」と言葉にしてきたが、だからビクトリーポイントを託したかと言うと、それほど単純ではない。

むしろ前田は冷静だった。

「今日の試合は泰杜さんの調子がよかったし、トスを呼ぶ声も聞こえた。絶対に決まる、と思って上げました。それぐらい、泰杜さんがものすごかったです」

関東1部リーグでも屈指の高さを誇る中大のブロックを水町のスパイクが弾き飛ばし、25-22。東日本インカレでの早稲田の優勝は、実に5大会ぶりだった。

5大会ぶりの優勝を決める最後のトスは主将の水町(後方)に上げた

4年生が教育実習で離れた間、徹底した「基礎」

新チームで迎えた最初の公式戦となった春季リーグも、4シーズンぶりに制した。だが全勝優勝を狙った最終戦、フルセットで敗れた相手が中大だった。トータルの結果を見れば誇らしい優勝であるにも関わらず、最後に負けた悔しさがのしかかり、選手たちは涙し、「東日本でリベンジを」と口をそろえた。

とはいえ実際は春季リーグを終えて間もなく、4年生全員が教育実習でチームを離れた。明確な課題があるにも関わらず、チームの主軸である最上級生が不在。その間、3年生が主体となって練習メニューを考え、方針を定めた。例年この時期に繰り返されることではあるのだが、3年生の中で試合に出ている選手がいない現状もあり、春季リーグを終えた直後、主将の水町は「離れてすぐ東日本インカレが始まるので、少し不安もある」と口にしていた。

しかし、不安は吹き飛んだ。しかも想像以上に素晴らしい形で。1週間のオフを挟み、全体練習が再開すると、浅野翼(3年、東北)を中心に基礎から取り組んだ。サーブやレシーブ、ブロックなど各選手が課題とする練習にも時間をかけて取り組み、周囲への声出し、声かけも徹底した。その姿勢を松井泰二監督も称える。

「東日本インカレまでの間は練習ゲームも行わず、基礎基本に取り組んできました。チームのためにというのはもちろん、試合に出られていない3年生たちも個々の技術を高めるために、一番大事な基礎基本という部分の厚みを増やし、底上げしよう、とリーダーシップを持って取り組んできた。そのおかげで非常にいい雰囲気になっていましたし、実習から帰ってきた4年生たちも『頑張っていたんですね』とみんなが驚くほど。とても濃い、いい練習ができた期間でした」

サーブを放つ直前の前田。4年生不在の間、基礎を徹底してきた

全体練習後、伊藤吏玖と飽きるほどのコンビ練習

そして3年生に加わり、バイスリーダー(副キャプテン)を務めたのが前田だった。学年は一つ下だが、U20日本代表でも主将を務め、早稲田でも1年時から試合に出場してきた。セッターというポジション柄、リーダーシップも求められ、高校時代もコートキャプテンとして、その手腕をいかんなく発揮してきた。

だが昨年は、春と秋のリーグや東日本、全日本インカレに出場したが、タイトルを一つも取ることができなかった。松井監督は「自分のせいだ、と責任を感じてトスをどうするか、という面に気持ちが向いてしまい、本来彼の持つリーダーシップが発揮できていなかった」と振り返る。トスの精度や質、ゲームメイク。一つ壁を越えてもまた壁にぶつかり、「バレーボールが楽しめない」と苦しんでいたのも一度や二度ではなかった。

苦すぎるほどの経験を重ね、2年生になった今春はコート内に下級生も入り、前田のプレーや言動に余裕も生まれた。技術面も昨シーズンはミドルの攻撃を生かしきれなかった反省と向き合い、全体練習の後は伊藤吏玖(4年、駿台学園)と飽きるほどコンビ練習を繰り返してきた。伊藤は言う。

「僕はセッターに近い位置から入るタイプなので、最初の頃は凌吾も慣れていないから使うのが怖い、と。それでも合わせようとして上げてくれるけれど、僕も僕で凌吾のトスに合わせよう、とお互いが合わせることに意識を向けすぎていました。それならば練習で体に染みこませるしかないと思ったので、自主練習でトスのタイミングや高さ、もうちょっとこうしてほしい、と僕も言うし、凌吾も言う。徹底して話し合って、練習してきたので自信がついたし、僕は凌吾にいいトスをもらって、打たせてもらっていると常に思っています」

伊藤(2番)とは飽きるほどのコンビ練習を重ねてきた

第4セット終盤に実った成果

その成果が、東日本インカレの決勝でも現れた。前田が「めちゃくちゃ緊張した」という第1セットは中大が先取したが、2、3セットを奪取し2-1と早稲田が先行して迎えた第4セットの終盤だった。

22-18と4点をリードしたところから、中大が連続得点を挙げ22-20に詰められた。タイムアウトを挟み、中大のサーブをリベロの荒尾玲音(4年、鎮西)がレシーブ。前田が選択したのはミドルブロッカーの伊藤だった。高い打点からの速攻が決まり23-20。3点差をつけたこと以上に「あの1本に成長を感じられた」と前田は振り返る。

「1セット目は自分も緊張していて(トスが)合わなかったし、相手に(セットを)取られてしまった。でも、やらなきゃ、と思って頑張って、そうしたら少しずつトスも合ってきた。1本ずつ追い上げられたところ、しかも20点以降で吏玖さんに上げられて、決められたのがすごくうれしかったです。去年からずっと、続けてきてよかった、って思いました」

ひたむきに取り組んできた成果。そんな前田の姿勢は、勝利を引き寄せただけでなく同期にも刺激を与えた。中学時代から選抜メンバーとしてともにプレーしてきた、畑虎太郎(2年、福井工大福井)が言った。

「正直に言うと、大学に入るまでは自分も凌吾と同じぐらいのレベルの選手だ、と思っていたんです。でも実際チームメートになって、プライベートもバレーボールに取り組む姿勢も近くで見てきたら、全然違いました。凌吾は真面目だし、バレーボールを真剣に考えて取り組んでいて、見習うことばかり。凌吾はすごい選手でした」

第4セット終盤、大事なところで速攻を決めた伊藤

主将の水町泰杜から金メダルをかけられ……

東日本インカレの開幕直前、4年生不在のチームでリーダーシップを発揮してきた前田に、水町が言った。

「去年の東日本では、凌吾泣いていたよな」

からかいながらも、1年でずいぶんたくましくなった、という思いも込めて。

「上げてくれ、と言った以上は決めるのが責任」と強い覚悟で立ち向かい、自らのスパイクで優勝を決める1点をもぎ取った主将は、表彰式でチームメートとスタッフに金メダルをかける役も担った。

背番号順に並んだ同期や後輩に金メダルをかけ、両手で両肩をポンポン、とたたく。唯一の例外が前田で、金メダルをかけた後、両手で髪の毛をワシャワシャとなで回し、満面の笑みを浮かべた。

「去年の悔しさもあったし、ここまで凌吾も気負ってやってくれているのがわかっていましたから。『ありがとう』を込めました(笑)」

照れ笑いを浮かべながらも「うれしかった」と前田も笑い、だからこそ、誓う。

「去年の悔しさがあって、今年勝つことができたのはよかったなと思います。でも、もっともっとできることがあったと思うので、試合の動画を見てちゃんと振り返って、あと二つ(タイトルを)取れるように自分がやらないと。先輩方と勝てるように、勝たせられるようにまだまだ練習、頑張ります」

秋季リーグ、そして全日本インカレへ。視線は、すでに前へと向いている。

秋季リーグと全日本インカレに向けて、すでに動き出している

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