バレー

今季いまだ無冠の早稲田大 それでも世界を知る大塚達宣の合流に「プラスしかない」

大塚(2番)の合流が、早稲田大にとっては明るい材料だ(すべて撮影・井上翔太)

2022年度秋季関東大学バレーボールリーグ戦

10月16日@日本体育大学(神奈川)
中央大学3(25-23.16-25.22-25.25-23.15-11)2早稲田大学
中央大が、2016年秋以来6年ぶりの優勝

関東大学バレーボール秋季リーグ戦で、互いに全勝で迎えた直接対決。優勝をかけて臨んだ早稲田大学の今季最終戦はフルセットの末、中央大学に敗れ、準優勝で終えた。昨年まで全日本インカレ5連覇を遂げている早稲田大。すべてのチームがどの大会でも「打倒早稲田」に燃える中、今春は準優勝、東日本インカレは3位だった。

埋まらなかった「2点」の壁

常に上位争いを繰り広げる強さは変わっていないが、春から早稲田大を阻んでいるのが「2点」の壁だ。中盤や終盤にかけて接戦を繰り広げながら、最後に取り切れない。この秋季リーグと同様、「勝った方が優勝」という状況で迎えた春の東海大戦は、1-3で敗れた。その時も第3、第4セットは23-25だった。秋の中央大戦もセットカウント2-1で迎えた第4セットを23-25で失い、フルセットに入って苦杯をなめた。

勝負事である以上、負けるのは悔しい。ただ、春季リーグや東日本インカレと異なり、秋季リーグで中央大に敗れた後、選手たちは試合直後こそ悔しさを露わにしながらも、ストレッチを終えて引き上げる際、口々にこう言った。「僕たちも今できるベストを尽くした。でも、中大がものすごく強かったし、ディフェンスが堅かった。力負けでした」

そして、最後はこう結ぶ。

「ここからは、もっと強くなるだけです」

最終節に入ってからスタメンとして出場した

最終節に大塚がスタメン出場

日本代表で世界選手権にも出場した大塚達宣(4年、洛南)が秋季リーグからチームに合流し、最終節の東海大と中央大戦はスタメンで出場した。海外勢相手に重ねた経験を随所で発揮しただけでなく、勝負所でサービスエースを決めるなど、寄せられる期待に違わぬ抜群の存在感を発揮した。加えて重藤トビアス赳(4年、荏田)は、大塚の合流でプレー面だけでなくチームがまとまる上でもプラスの要素があった、と明かす。

「東日本インカレまではチーム全体で迷いがあって、この方法でいいのか、と思いながらも『これだ』と答えを出せずにいました。たぶんそれは僕たち4年生が強めのリーダーシップを発揮することができなかったので、チーム全体のモヤモヤにつながっていたんです。でも達宣が帰ってきたら、『こうしよう』『これでいい』と最終決定してくれる。自分たちもそこに引っ張られるだけじゃなく、最上級生の自覚を持ってやることをやらなきゃいけない、と反省したし、『結果を出す』『チームのためにできることをするんだ』と、前より強く思うようになりました」

「最上級生としての自覚を持つ」と誓う重藤

大塚を欠いた春季リーグ、東日本インカレと、シーズンを通して作り上げてきたチームの形もあるが、あえて最終節に出場した理由がある。そう明かすのは大塚自身だ。

「ここまでチームを離れていて、自分が入れば外れる選手も出てきますし、その選手より自分が入ったほうが状態はいいのか、と言えばそうじゃないかもしれない。でも、全日本インカレでチームとしてどれだけ戦えるか、どうすれば勝てるか、と考えたらインカレでぶっつけ本番を迎えるよりも、プレッシャーがかかる状況で試合に出たかったんです」

最後の2戦は、国際舞台を経験したとは言え、緊張したという。「試合の序盤から足をつったり、ベストなプレーができたわけではありません。でも4年生としてコートに入る意味、日本代表としての経験、自分にできることがあると思ったので、周りへの声かけを積極的にしました。最後だけコートに立たせてもらって、全勝を途絶えさせてしまったのは申し訳なかったけど、チームとしても、自分個人としても、課題もありますが手応えもあった。むしろ僕はインカレに向けてプラスしかない、と感じることができました」

水町は「誰かのために頑張る」

大塚が入れば、これまでアウトサイドヒッターで出場を重ねてきた山田大貴(3年、清水桜が丘)が外れる。ただ15日の東海大戦では、リリーフサーバーとして要所でサービスエースを奪う活躍を見せ、オポジットとして重藤に代わる場面もあった。ミドルブロッカーも春季や東日本インカレでは岩本大吾(4年、市立尼崎)と伊藤吏玖(3年、駿台学園)が入っていたが、秋季リーグは岩本に代わって秋間直人(4年、桜台)が入るなど、それぞれのポジション争いも激化している。大塚の加入でチーム全体に加わる刺激が、全日本インカレまでの1カ月半でどんな進化を見せるのかにも注目だ。

これまで全日本インカレを筆頭に、圧倒的な強さを誇ってきた早稲田大が今季はいまだタイトルを手にしていない。ここまで重ねてきた経験がある大塚は「手応えしかない」と笑みを浮かべるが、春からレギュラーセッターを務めてきた前田凌吾(1年、清風)は時折「自分のせいで勝てないのではないか」と肩を落とし、東日本インカレで敗れた後には涙したこともあった。中大戦で敗れた後は「インカレに向けて頑張るだけです」と言いながら、「自分では勝てないのか」と不安も口にした。

1年生ながらセッターを任されている前田(22番)

悩みながら成長を続ける前田について、松井泰二監督は「経験を重ねてトスの上げ方や、上げる場所、細かく伝えることで少しずつ形になってきた」と評価する。そして、不安があるなら全部自分に託せばいい、と言わんばかりの姿を見せるのが前田より2学年上のアウトサイドヒッター、水町泰杜(たいと、3年、鎮西)だ。

自身も1年から試合出場を重ねてきたが「スパイカーとセッターでは背負う責任が違う」と常に前田をかばい、寄り添い、時にからかいながらコートでは「全部持ってこい」とばかりにトスを呼び、決めるべきところで決める強さと頼もしさは圧倒的だ。

「僕は、自分のために頑張ろうというのはできなくて、誰かのために頑張ろう、というのがモチベーションなんです。だから凌吾から『最後は泰杜さんに預けるから』と言われたら、スパイカーとして信頼してもらっている以上応えたいし、何よりインカレは4年生のために戦うのが自分の活力なので、1日1日、1セット1セットを大事に、やることをやるだけです」

水町はチームのために頑張れるタイプの選手だ

敗れてもなお前向きに、それぞれが「最後に勝つために」と成長を誓う。シーズン最後、日本一を決める全日本インカレで今季無冠の早稲田がどんな戦い、姿を見せるのか。今から楽しみだ。

in Additionあわせて読みたい