早稲田大が全カレ5連覇、大塚達宣「4年生なしでこの優勝、このチームはなかった」
第74回 全日本大学男子選手権 決勝
12月5日@大田区総合体育館(東京)
早稲田大学3(26-24.19-25.25-18.25-17)1順天堂大学
早稲田大学が5連覇
決めてくれ! 何度も託されたトスを、レフトから大塚達宣(早稲田大3年、洛南)が打ちつける。ブロックを抜け、レシーバーのいないインナーへ決まり25-17。自身にとっては3度目となる全日本インカレの優勝が決まると、大塚は両手を突き上げ、喜びを爆発させた。
「毎年メンバーが変わる中、今年も勝つことができて本当に良かったです。自分自身、プレーで引っ張ること、リーダーシップを発揮することを目標にしてきましたが、自分に最後のトスが集まる中、秋季リーグは自分が決め切れずに負けた。今日は苦しいところで決めることができて、本当に良かったです」
入学以来負けなしの5連覇。“最強早稲田”の歴史が、また新たに築かれた瞬間だった。
東京五輪後、すぐにチームに合流
盤石の強さを誇り、失セット0で4連覇を達成した昨年のメンバーが抜け、新たなスタートとなった今シーズン。大塚も日本代表としてネーションズリーグや東京オリンピックに出場し、長期に及ぶ合宿や大会でチームを離れる期間が続いた。世界のトップレベルに触れ、1人のプレーヤーとして課題に直面し、更なるレベルアップやスキルアップを誓う一方で、早稲田大のエースとしてはチームとしての形を定めなければならない時期に貢献できず、焦りも抱いた。
ともに東京オリンピックへ出場した高橋藍(日体大2年、東山)はコンディション面を考慮し、チームへの合流まで休息を挟み、秋季リーグも出場が限られた。だが大塚は「少しでも早くチームに入ってやっていきたい」と、東京オリンピックから間を置かず合流。秋季リーグもほぼ全ての試合に出場したが、最終戦で日本体育大学に敗れて準優勝。悔しさも味わったが、「あの負けを糧に練習した。やってきたことを自信にしよう、とインカレに向けてチームがまとまることができた」と言うように、全日本インカレはリベンジを誓い、臨んだ大会だった。
2人のセッターが大事な局面で大塚につなぐ
実際に決勝まで1つもセットを失わず、磐石(ばんじゃく)の強さを見せ、特に準決勝の中央大学戦は「完璧に近い展開だった」と振り返る。だが決勝の順天堂大学戦は序盤から順天堂大のサーブとブロック&レシーブで攻撃を封じられ、リードを許す苦しい展開を強いられる中、第1セットはデュースの末、大塚のサービスエースで26-24、早稲田大が先取する。
しかし第2セットは順天堂大が奪取し、セットカウント1-1で迎えた第3セット。大塚は同期のセッター佐藤玲(3年、早実)に言った。
「ラリー中はトスを全部俺に持ってきていいから」
1年生の時からレギュラーとしてコートに立ち、2度の全日本インカレ優勝を経験してきた大塚に対し、今季初めてレギュラーセッターになった佐藤は昨季までベンチ入りもできず、全日本インカレでも体育館の外でチケットを渡したり、裏方に回ることが多かった。佐藤自身も「4年間でユニホームを着られることがあるのか」と不安に思ったことも一度や二度ではなかったと言うが、地道な努力を重ね、3年生になった今季、レギュラーセッターとして秋季リーグや全日本インカレにも出場。しかしリーグでは日体大に敗れ、全日本インカレ決勝も序盤は大苦戦。とにかく必死でアタッカーにトスを託そうと懸命に走り回るも、「自分のせいで負けさせてしまったら申し訳ない」と不安を抱えながらの戦いでもあったと振り返る。
「達宣が『持ってこい』と言ってくれて心強かったですが、達宣には常に2枚(ブロックが)ついてきているのが見えていました。託したい気持ちはもちろんありながらも、レフトとバックアタックを組み合わせながら、達宣の気持ちが前面に出ているのが相手にも伝わっていたので、要所では達宣に上げる。自分自身も腹が据わりました」
まさにエースと言うべき大塚の活躍で第3セットを25-18で奪取した早稲田大は、第4セットも序盤からリードを保ち、終盤には佐藤に代わり4年生セッターの仲濱陽介(4年、星城)を投入。繰り返し大塚にトスを託す仲濱に「無理に自分へ上げようとせず、いつも通りのトス回しをしてくれればいいですから」と声をかけたが、それでもマッチポイントで仲濱がトスを託したのは大塚だった。
インナーに放たれた鮮やかな1本が決まり、25-17、早稲田大の5連覇が決まった瞬間、佐藤は「色々な思いが込み上げてきた」とベンチで膝から崩れ、号泣。主将の岩本大吾(3年、市尼崎)や、足首のけがもあってまさに満身創痍(そうい)で戦いに挑んだ水町泰杜(2年、鎮西)、全員がコートに駆け寄り、チームで勝ち取った勝利を互いにたたえ合った。
今までのバレーボール人生の中で一番中身が濃い1年
5連覇を達成した今季、チームの主将は全日本インカレから3年生の岩本が務め、コートに立つ4年生はいない。だが、松井泰二監督が「優しすぎる子たちが多い」という4年生は試合に出る機会こそ少なかったものの、チームを支えるべく奮闘した。だからこそコートに立つ選手たちは「4年生のために絶対勝とう」と臨んだ大会でもあった。
優勝が決まり、表彰式では岩本が一人ひとりに金メダルをかけ、誇らしげな笑顔を浮かべる選手たちの胸に金メダルが光る。それをそっと外し、大塚は秋季リーグまで主将を務めてきた吉田悠眞(4年、洛南)の首にかけた。
「4年生はコートにいませんが、4年生なしでこの優勝、このチームはなかった。特に吉田さんは洛南の先輩でもあり、一番に感謝を伝えたかったので、僕はいいからメダルをかけて『ありがとう』と伝えました」
日本代表や東京オリンピック、様々な経験を重ねたこの1年を「今までのバレーボール人生の中で一番中身が濃い1年だった」と振り返り、「最高に気持ちのいい優勝だった」と満面の笑みを浮かべる。
充実の1年を締めくくる、最高のフィナーレ。最終学年となる来季、負け知らずの6連覇に向け、新たな挑戦が始まる。