バレー

特集:全日本バレー大学選手権2021

日体大が準々決勝で逆転負け、「自分の責任」と悔やむ高橋藍へ市川健太主将からの願い

敗戦に呆然と立ち尽くす高橋(左)を市川は笑顔で労った(撮影・全て松永早弥香)

第74回 全日本大学男子選手権 準々決勝

12月3日
日本体育大学 2(25-23.29-27.20-25.15-25.11-15)3 順天堂大学

関東1部秋季リーグを制した、今大会の第1シード。優勝候補の大本命と目された日本体育大学が、順天堂大学との準々決勝でまさかの敗退となった。しかも2セットを先取してからの逆転負け。最後はエースの高橋藍(2年、東山)のスパイクがアウトになり、11-15で第5セットを制した順天堂大の選手が大喜びする横で、日体大の選手たちは肩を落とし、膝に手を当て呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす。自らのスパイクが、望まぬ形で決勝点となった高橋が、噛(か)みしめるように言った。

「負けたのは自分の責任。大事な場面でブレイクが取れず、流れを持ってくることができなかった。4年生に申し訳ないです」

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「決まった」と思ったボールが決まらない

今夏の東京オリンピックに出場し、この全日本インカレが終わればイタリアリーグへ渡る高橋がチームの大エース。当然ながら相手は高橋の攻撃を封じるべく策を打つ。順天堂大もまさにそうで、ディフェンスではブロックの枚数を増やし、抜けたコースにはリベロの高橋和幸(4年、駿台学園)を入れる。つないだボールも無理に勝負するのではなく、アウトサイドヒッターの染野輝(4年、駿台学園)が相手ブロックに当ててチャンスボールとしてつなぎ、万全の状態からオポジットの岡本捷吾(4年、開智)が着実に決め、2セットダウンから流れを引き寄せた。

日体大のエースとして、高橋は何度も大事な局面を任された

打点の高さや攻撃の幅、大学では圧倒的な力を誇る高橋も、「決まった」と思うボールを相手につなげられ、得点がとれないことに自然と苛(いら)立ちや焦りも生じる。国際舞台でも冷静に、自らのプレーに徹してきた高橋でも、「冷静さを欠いた」と振り返る。

「インカレはどのチームも『4年生のために』と意地が出るし、気持ちが強いチームが勝つ。それなのに3セット目を相手に取られ、(攻めてきた順天堂大に対し)自分たちはひいてしまった。自分自身も冷静さを失ってしまいました」

高橋「第二の兄だと思っている」

何度も繰り返す“4年生のために”という言葉。それは、入学間もない昨年、日本代表に選出され、合宿や国際試合など不在の時期も多かった高橋が「第二の兄だと思っている」と慕う、主将の市川健太(4年、大村工業)に向けられた言葉でもあった。

日体大の寮でも同部屋で、バレーボールのことだけでなくプライベートな時間に至るまで、ともに行動することも多い2人。高橋にとっては「自分のワガママにも付き合ってくれる」と慕う兄のような存在である一方、市川からすればかわいい弟のような存在でありながら、チームの揺るがぬ“軸”と言うべき頼れる存在。

ポジションはアウトサイドヒッターとリベロで異なり、学年も違う。だが、チームが勝つために、強いチームになるためにどうあるべきか。事あるごとに話し合った。日本代表で経験したことをチームに還元する高橋に、市川は「頼もしいし、いるだけでチームを引き締めてくれた」と感謝を述べるが、高橋は高橋で「自分が代表で離れている間、チームのことは全部健太さんに頼りきり。1人にさせてしまって、背負うものが多かったと思う」と労(ねぎら)う。

苦しい展開の中、市川は仲間を鼓舞し続けた

だが、市川は大会が近づくにつれ、表情や態度には出さずとも高橋が抱えるプレッシャーの大きさをひしひしと感じていた。

「藍にかかる期待も、注目度も周りとは度合いが違う。やらなきゃ、とメンタルがきつかったと思うけれど、それでも周りにはしんどさを出さず、とにかく楽しむ姿だけを見せる。そういうところが改めてすごいな、と思ったし、ユニホームを着てコートに立つ4年生は自分だけ。こうしなきゃいけない、勝たなきゃいけない、と背負いすぎるばかりでなく、楽しんで戦うことが大事なんだ、と自分が藍に教えてもらいました」

市川「バレーボールを楽しんでほしいです」

2対2で迎えた第5セット。0-3とリードされる展開を招く、苦しい立ち上がり。それでもコート内でもベンチからも「顔! 表情暗いよ!」と互いを鼓舞する言葉をかけ合った。そんな姿を市川は「本当に頼もしい後輩だと思った」と言い、「4年生に申し訳ない」と何度も繰り返した高橋や、ともに戦った後輩たちに向け、託す願いと思いは1つ。

「自分はここで終わるから、負けて終わり、でも仕方がない。だけど今の3年や2年、後輩たちはきついです。勝って終わるのと“負け”からの1年は全然違う。明日、明後日とインカレが続くのを見ることもしんどいと思うし、これから先もつらくて大変なことがたくさんあると思うけれど、でも、それでもやっぱり、バレーボールを楽しんでほしいです」

市川(右端)は後輩たちに楽しむ気持ちを大切にしてほしいと願っている

昨季の準優勝から頂点を狙った最後の全日本インカレを終え、コートに立った選手も、立てなかった選手もこの悔しさを胸に抱き、4年生はチームを去り、高橋もイタリアへ渡る。それぞれが、もっと強くなる、と心に誓って。

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