日体大・市川健太主将「対応力」を磨き続けてきた1年、全カレ準優勝の悔しさを今
全日本インカレ決勝で何もできずに敗れた悔しさから1年。日本体育大学の主将としてチームを牽引(けんいん)する市川健太(4年、 大村工業)は、秋季リーグを制した自信だけでなく、昨季とはまた違う手応えを感じていた。
「去年は(コートに立つ)7人で戦っている感覚が強かったですが、今年は積極的にメンバーチェンジができるし、それぞれの個性や長所を活(い)かしながらも、誰が出ても同じようにディフェンスできる強みがある。(ベンチ入りの)14人全員で戦えている実感があります」
準優勝の悔しさを胸に、頭を使ってバレーと向き合う
目の前で見せられた4連覇。決勝までいけたという喜びも打ち砕かれるくらい、昨季の早稲田大学に圧倒的な力の差を突きつけられた。相手の攻撃に対して、磨き上げてきたディフェンスも思うように機能せず、サーブで攻められ、相手にブレイクチャンスを与える一方、仕掛けるべき攻撃も通らない。
「決勝でボコボコにされて悔しかったけれど、それ以上に今の自分たちの力ではそうなるよね、と。優勝するために、ああいう(昨季の早稲田大のような)強いチームに勝つために何をすべきか。今まで以上に頭を使った1年でした」
公式戦や練習試合が軒並みなくなった昨年から、合宿ではボール練習やウェートトレーニングに加え、「考える」時間を増やした。ポジションごとにそれぞれが自分に足りないもの、今伸ばしたいことは何かを考える。それも自分だけで完結するのではなく、同じポジションの選手から助言を受けることで気づきを得て、フィードバックする。徐々にその対象を個人からポジション全体、チームへと広げることで、自然に課題が浮き彫りになり、取り組むことも明確になったと振り返る。
「ミーティングでも、頭を使いながらバレーボールと向き合うことができた。そうやって積み重ねることができたから、曖昧(あいまい)に『こうしよう』と思うのではなく、『これをやればいい』『これはやっちゃダメ』というのが今まで以上にハッキリしました」
「藍がいないと勝てない」と言われるのも悔しい
昨季まではある程度試合前にチームとして戦う形を定めて臨んでいたが、試合になれば相手の調子や相性、事前の準備だけで対応しきれるものばかりではない。特に「最初のセットを相手のペースで進められるとそのままズルズル負けパターンになることも少なくなかった」という反省を活かし、戦い方だけでなくマインドそのものを変えたと市川は言う。
「目の前の1試合を、どんな状況になっても勝ち切る。対応力を1つのテーマにして取り組んできました。例え2セットを取られても3セット目からは戦い方そのものを変えるのも対応力だし、相手に対して『じゃあ次はこうしてみよう』と自分たちが変化するのも対応力。試合の中でも成長できているのを実感しています」
顕著だったのは、秋季リーグの日本大学、筑波大学、明治大学との試合。全て相手に先行されたが、リードされた状況から戦い方を変えることで好転し、勝利を収めた。勝ったというただの結果だけでなく、チャレンジした成果が結果につながった事実が自信となり、秋季リーグは早稲田大との全勝対決を制して優勝。東京オリンピックを終えて以後、コンディション調整に務めた高橋藍(2年、東山)が最後の2戦で期待通りのパフォーマンスを見せたのもチームにとって収穫であり、新たな刺激が加わったと市川は言う。
「藍もオリンピックを経験して、今まで以上に相手との勝負を楽しんでいるのが分かるし、もともとバレーはうまいし、すごいヤツだったけど、更にすごいな、と(笑)。でもだからこそ、『日体は藍がいるから勝てる』と言われるのも、『藍がいないと勝てない』と言われるのも悔しい。見てろよって思います」
周りを活かして、相手を圧倒する
自身も高校時代からアンダーカテゴリー日本代表に選出されるなど、様々な経験を重ねてきた。リベロとして、レシーブ力に自信はあったが、現役時代はリベロとして日本代表にも選出された山本健之監督に「相手が打つ瞬間まで見て動け」とたたき込まれ、どんなボールにも反応する新たなスキルも習得。これまで以上に守備力にも磨きがかかり、大学の4年間はリベロの醍醐味を味わう時間でもあった。
「リベロは自分で点を取ることができないですけど、“コイツが上げれば絶対点につながる”という1本がある。周りを活かして、相手を圧倒する。単純なレシーブだけじゃない面白さが、リベロにはあるんです」
11月29日、最後の全日本インカレが開幕する。トーナメントの連戦はどの試合も全て負けられない1戦ばかりだ。最後に目指すべき場所へ立つために。市川が掲げる目標にブレはない。
「ここに勝てばいいではなく、全部のチームに勝たないと優勝できないのが全日本インカレ。でも、どんな相手に対してもボールを落とさないことが全てだと思うし、ボールを落とさなければ絶対に勝てる。泥臭くてもとにかくつなげて、つなげて、落とさない。そういうバレーができれば、絶対勝てる自信があります」
秋季リーグを制したおごりなどサラサラない。全ての試合に総力を尽くし、4年間の成果と思いを出し切るだけだ。