バレー

特集:全日本バレー大学選手権2021

中央大・山岸隼主将「ピンチを救える存在」に 2年ぶりの全カレは先輩の思いも胸に

山岸は昨年の4年生の思いも背負って、自身最後の全カレに挑む(撮影・松永早弥香)

11月29日、バレーボールの全日本インカレが開幕する。中央大学主将・山岸隼(4年、東山)には1年前の記憶が鮮やかに残っている。

「最初は全然、現実だと思えなかったし、自分たちに起きていることだと思えませんでした。試合どころか練習もできなくて、やっと試合ができる、全カレだ、と思っていたのにマジか、と。あれから1年か、って思うと本当にあっという間ですよね」

全カレ棄権、大陽さんは僕らの前では泣かなかった

昨年、中央大は新型コロナウイルスの陽性者が複数いたため、全日本インカレの大会規則により、直前で棄権を余儀なくされた。それぞれが離れ離れで隔離されていたため、密にコミュニケーションを取ることができず、ようやく全員が会えた時には「全員が吹っ切れていた」と言うが、山岸の胸には今も残る思いがある。

「(キャプテンだった土岐)大陽さんは弱いところを周りに見せないから、僕らの前では『しゃあねえな』と笑っていました。でも、監督と電話で話して棄権を伝えられた時は一番泣いていたと後から聞いて……。大陽さんや、去年の4年生の思いを背負って戦いたいし、絶対最後は勝って終わりたいです」

山岸(前列右端)にとって土岐(前列左端)は大きな存在だった(写真は本人提供)

今季の4年生は4人。少ない同期の中には高校時に全国を制した経験を持つ鍬田憲伸(鎮西)や、伊藤洸貴(駿台学園)がいる。レギュラーセッターは伊藤であり、山岸はリザーブに留(とど)まるが、最終学年になったら「キャプテンをやりたい」と密(ひそ)かに思っていた。だがそれは山岸のみならず、1学年上の土岐たちの代も同様で「お前がキャプテンになれ」と言われた時は「嬉(うれ)しかった」と振り返る。

「憲伸や洸貴がいる中で自分がキャプテンになるのはプレッシャーかな、とも思ったんです。でも憲伸からも『俺はプレーに専念して頑張るし、キャプテンは疲れるからお前が頑張れ』と言われて、先輩からも『山岸がキャプテンになれ』と言ってもらえて、正直嬉しかったです。俺が引っ張るぞ、みたいな感じはないですけど、仲の良さだけはどこにも負けない自信があります」

リリーフサーバーの自分だからできること

新チームがスタートした当初から「組織力」をテーマに掲げ、全員で戦い、全員で点を取り、全員でカバーする、真の“全員バレー”を目指してきた。更に今季はボールを使った練習に加え、ウェートトレーニングにも積極的に取り組み、4年生だけでなく部員のほぼ全員が筋力も大幅に向上。体が変わり、パワーも増せばプレーも変わるとばかりにトレーニングの楽しさにも目覚め、昨年はオープン戦としてしか開催されなかった秋季リーグでも3位と好成績を収めた。

4年生は4人しかいないが、それぞれが自分の役割を理解し、チームを支えてきた(左端が山岸、写真は本人提供)

自身はレギュラーセッターとしてコートに立つことはなく、途中出場やリリーフサーバー(ピンチサーバー)としての出場がほとんどだが、全ての選手に役割があることは、誰よりも理解している。試合中も劣勢時や優勢時にかかわらず、気づいたことがあればセッターの立場から、チーム全体に向けて相手のブロックやレシーブの布陣を伝え、「ここの攻撃は通るはずだ」とアドバイスをするのも山岸が果たす大事な役割だ。そして何より、リリーフサーバーが投入されるのは各セットや試合終盤、勝負がかかった緊迫した場面や、劣勢から盛り返すためのきっかけを求める勝負所でもある。

「言葉のまんまじゃないですけど、“ピンチ”を救える存在でありたい、といつも思いながらコートに入っています。サーブは中大の武器でもあるし、自分自身の武器でもあるので、全カレでも大事なところでチームに勢いづかせる、勝利を引き寄せられるようなサーブを打ちたいですね」

伝えたい中大バレーがある

全日本インカレ開幕が迫った今、日に日に楽しみは増すばかり。卒業後はVリーグV1のVC長野トライデンツへ進む山岸にとって、更に上のステージで戦うための最後の舞台であり、これからにつながる大きな一歩でもある。

「(東山)高校の時はめちゃくちゃ接戦になりながらも負けて、3年間春高へ出られなかった。今思い出しても悔しいです。でもあの頃は監督に言われるままやるだけで、自分で考えて動くことをしなかった。当時からもっと自分で考えて動く選手になれていたらもっといい結果も出ていたと思うし、高校の悔しさがあるから、大学では絶対悔いがないように終わりたい。悔いがあると、Vリーグに進んでも頭から離れないと思うので、学生スポーツの最後は、悔いなく終わりたいです」

自分の武器でもあるサーブで、チームを勝たせたい(写真提供・関東大学バレーボール連盟)

目指す目標は、もちろん日本一。有観客はかなわなかったが、配信を通してでも多くの人たちに見てほしいし、伝えたい中大バレーがある。

「中大の武器はサーブですが、サーブで崩してからのブロック&ディグ、そこを機能させるためには組織力が必要。全員でカバーする姿、全員で戦っている組織力、全員バレーを見てほしいし、びっくりするぐらい仲がいいチームなので、最後の勝負も絶対負けたくない。大陽さんの思い、悔しさも背負って、僕らが日本一になりたいです」

これからの夢と、果たせなかった思いとともに。中央大、そして山岸は2年ぶりの全日本インカレに挑む。

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