早稲田大・岩本大吾主将「勝って4年生を胴上げしたい」、全カレ5連覇に向けて前へ
高校時代のライバルも、仲間になると頼もしい。3年生ながら早稲田大学の主将として全日本インカレ(11月29日開幕)に臨む岩本大吾(市尼崎、3年)は、オリンピック選手になった同期に信頼を寄せる。
「高校3年の時、僕らが洛南に勝ってインターハイで優勝したんです。でも春高になったら注目されるのは(大塚)達宣(たつのり)とか、洛南の4人ばっかりで。何なん?って思ったし、大学に入ったばっかりの頃は面白くなかったですけど(笑)、今は全然。同期として、こんなに頼もしい存在はいないです」
主力が抜けたチームの中で「自分は何をすべきか」
今夏の東京オリンピックにも現役大学生ながら出場を果たし、振り返れば入学間もない1年生の頃からコートに立ってきた大塚に対し、岩本がチャンスをつかんだのは今年になってから。
「去年の全カレも初戦は交代で途中から出させてもらえたんですけど、準々決勝以降はコートに立つどころかベンチにも入れず、ユニホームも着られなかった。めっちゃ悔しかったです。自分が来年ここでプレーするイメージさえつかめなかったし、『4年になった時に出られたらいいな』と思ってしまうぐらい、目標を見失っていました」
意識が変わったのは、3年生になった今春だ。入学から4年間負けなしで卒業していった昨年の4年生たちが抜け、主力メンバーも一気に変わった。加えて大塚は日本代表選手として長期に及ぶ合宿や、イタリアでのネーションズリーグ、東京オリンピックに出場するため、夏まで不在が続く。必然的に「自分は何をすべきか」と考える機会が増えた。
まず1人の選手としてレベルアップ、スキルアップしてチームの戦力となるべく、ウエイトトレーニングやスパイク練習に力を入れた。ミドルブロッカーとはいえ、高校時代はやや高めのトスを大きなフォームで打つスタイルだったが、大学では周囲と同じテンポで合わせなければブロックにかかる回数も増える。少しでも相手のブロックより速く、と攻撃に入るタイミングやスイングのスピードを求め、練習に明け暮れた。
その成果が発揮されたのが、秋季リーグだ。東京オリンピックを終えた大塚も合流し、レギュラーの大半が昨季とは違うメンバーではあったが、試合に出る喜びを感じ、何より「勝つこと」に飢えていた。
「今までの早稲田とはまた違って、自分たちがほんまに目の色を変えて、必死につないで1点を取る。1勝する。先輩たちもそうやったと思いますが、その重さがこれまでとは全然違うと感じました。どのチームも同じように仕上げてきているけれど、達宣も日本代表でやってきたことや、考え方をチームに還元してくれて、短い時間でまたチームが伸びているのも実感しています」
達宣と藍に「やっぱり負けてられない」
もう1つ、自身とチームに成長を課すための活力となる刺激もあった。秋季リーグの最中、10月10日に行われた天皇杯関東ブロック予選で、同じ関東1部の筑波大学に1-2で敗れたことだ。
全日本インカレの翌週に行われる天皇杯は、大学生にとってベストパフォーマンスを発揮するには少々難しい時期の開催ではあるが、Vリーグのトップチームと公式試合で戦える貴重な機会でもある。対早稲田大に向け、万全の策で臨み、高いパフォーマンスを発揮した筑波大の力もさることながら、自分たちのやるべきことを果たせた、と言い切れない展開で負けたのが、「負けた」という結果以上に悔しかった。
更に言えば10月31日、秋季リーグで優勝を決める日本体育大学との試合もそう。ともに全勝で対戦した両校、注目されるのは東京オリンピックに出場した大塚や日体大の高橋藍(2年、東山)で、確かに世界の高さと対峙(たいじ)してきたすごみを随所で感じた。だが同じ大学生として圧倒的にやられるわけにはいかないし、何より負けるのは悔しい。
「あの2人がネットを挟んで戦う。しかもすごいのは、試合をしながらお互い楽しんでいるのが伝わってくるんです。でもいい選手は他にもいっぱいいるし、ウチにもいっぱいいる。達宣と藍のおかげで大学バレー全体が注目してもらえるのは嬉(うれ)しいけど、やっぱり負けてられない、とは思いますよね」
いつも助けてくれた先輩たちのためにも5連覇を
5連覇を目指す全日本インカレに、3年生ながら主将として臨む。秋季リーグでもコートキャプテン、ゲームキャプテンを務めてきたが、大会が迫った中で「本格的に主将として引っ張ってほしい」と松井泰二監督に告げられた時は、3年生の自分が主将になることに対して複雑な気持ちや責任を感じた。
「この1年を振り返っても、なかなかチームがまとまらない時期もあったんですが、全カレは1点を争う戦いなので、向かう先がバラバラになるのはよくない。(全日本インカレまでの)時間が限られる中、『コートの中もチームもまとめるように主将としてやってほしい』と松井監督に言われて、やるしかない、と覚悟を決めました」
主軸を担うのは自身も含め3年生の選手が多い。だが、コートにいないから、試合に出る機会が少ないからといって、最上級生の存在、力がないわけではない。むしろ自身が主将として全日本インカレに臨むと決まってからは、4年生の存在の大きさや感謝をより強く感じることになったと岩本は言う。
「入学した頃から1個上の先輩たちはいろんなことを教えてくれて、いつも助けてくれました。だからこそ、例え一緒にコートへ立つことができなくても、ここまでみんなで目指してきた全日本インカレ優勝という目標を成し遂げたいし、決勝、センターコートで、勝って4年生を胴上げしたい。そのために、自分がプレーでもチームの雰囲気を上げるためにも引っ張っていくしかない。ここまできたら、一気に走り続けるだけです」
1年1年、今このチームで戦える全日本インカレは一度きり。この早稲田大で5連覇を果たす。ぶれない目標を抱き、主将のマークをつけ、コートで全てを出し切るだけだ。