バレー

特集:全日本バレー大学選手権2019

早稲田の主将・リベロ堀江友裕 仲間と最高の笑顔でインカレ3連覇を

大きな声で仲間を鼓舞する。それが堀江のスタイルだ(写真提供・関東大学バレーボール連盟)

一年一年メンバーは違い、チームも違う。だが勝ち続けた記録があれば、その優勝が連覇になり、重ねれば3連覇、4連覇となる。全日本インカレ直前の記者会見でも、まさにその質問が挙がった。「3連覇がかかる早稲田の主将としてどう臨みますか」。堀江友裕(4年、和歌山・開智)は誇らしげに言った。「何より、3連覇に挑戦できる権利を与えてくださったOBや先輩方に感謝してます」

早稲田でリベロ転向、“コソ練”に明け暮れた

高校まではスパイカーでチームのエースとして活躍していたが、U19日本代表合宿でリベロも経験。早稲田入学を機に、将来を見すえて本格的にリベロへ転向した。スパイカーのころとは違う動きや役割に戸惑いながらも、1年生のときから試合に出場し、高い評価を受けていた。だが振り返ると、それは堀江にとってプレッシャーだったという。

「正直に言うと、チームとしての戦績も自分自身も、周りの評価が高すぎてしんどかったです。(日本)代表に選んでもらえるのもうれしいけど、でも『まだそんなんできないから、期待せんといて』って。でも負けず嫌いだから『ここでやったろう』と思って、毎日ただ必死で突っ走ってきました」

同学年のライバルを見れば、リベロとして優れた力をもつ選手が多く、自分を見れば足りないことばかり。ならばそのキャリアや技術の差を埋めるべく練習あるのみ、とひたすら自主練習に明け暮れた。ただし、自主練習を人には見られたくない。授業の空いた時間や、全体練習の1時間前には終わるようにと早起きして体育館に向かい、強打やサーブを何本も何本もひたすら拾い続け、感覚を体に染みこませた。

大学からリベロに転向。練習姿を見られたくなくて、早朝に練習を重ねた(写真提供・関東大学バレーボール連盟)

調子のよしあしはもちろんあったが、「誰よりも練習する」と決意して臨んだかいあって、2年生のシーズンは自分でも満足に近い結果を残せた。自分のやり方はこれだ。そう決意を固めた矢先、右膝に痛みが出た。

「最初は『痛いけど大丈夫や』と思ってたんです。実際、その状態で自主練習も続けてました。でもだんだん走るのもしんどくて、歩くだけでも痛くなって……。せっかく(2018年ジャカルタでの)アジア大会に選んでもらったのに、何もできなかった。迷惑をかけただけでした」

確かにアジア大会には出場機会がなく、プレーだけで評価するならば「迷惑をかけただけ」と見る人もいるかもしれない。しかしスタンドに向かって「ニッポン」コールを率先し、アウエーの会場を味方につけた。試合を重ねるうちに堀江が次々現地のファンを増やし、気づけば会場の至るところから日本へ声援が送られた。まるでホームさながらの雰囲気を作り出した立役者に、アジア大会で主将を務めた深津英臣(パナソニックパンサーズ)も「堀江の声が僕らを試合で勝たせてくれた」と、感謝の言葉を口にしたほどだった。

ラストイヤーに復帰、主将として悩んだ

アジア大会後、右膝の手術を受け、リハビリに時間を費やした。4年生になってやっとコートに戻れたが、今度はプレーの面だけでなく主将としての苦しさがあった。むしろ、そっちの方がずっと苦しかった。

たとえば、どんなときも率先して声を出す。アジア大会でも賞賛されたように、それこそがまさに堀江のスタイルなのだが、高校時代とは異なり、大学では全員が同じではない。「プレーの調子が悪くても声は出せるだろ」と要求する堀江に対し、「いちいちうるさい」と反発する選手もいた。

「それでも勝ってるんだからいいじゃないか」。傍から見ればそう思われるかもしれない。だが、勝ち続けているからこその苦悩も、4年生になった今シーズンはより強く思い知らされた。加えて、全勝した春季リーグとはメンバーが違ってはいたが、6月の東日本インカレで3回戦敗退を喫した現実も重くのしかかった。

「たとえ自分たちがセットカウント2-0でリードしてても、3セット目に14-16とか、2点リードされるだけでも嫌だし、『負けるんちゃうか』と怖いんです。春も秋もリーグ戦を勝てたけど、結果的にたまたま勝てただけで、絶対的に強いわけじゃない。『いつ負けてもおかしくない』という思いは常にあるし、とくにインカレはトーナメントなので何があるか分からない。こういう感情は早稲田に入って、初めて持ちました」

開智高校時代は和歌山代表として全国大会に出場するのは当たり前で、日本一になりたくて仕方なかった。しかし優勝どころか、ベスト4にも残れなかった。そのときは勝っているチームがうらやましかったし、「勝てばなんだって楽しいだろう」と思っていた。そして大学で日本一を味わったいま、実際は違うことを思い知らされている。勝ち続けるからこそ「負けられない」とプレッシャーがかかる。その苦しさも、堀江を成長させる糧となった。

どれだけいい顔で戦えるかが大事

大学生活の集大成となる全日本インカレ。ほぼすべてのチームが「打倒早稲田」を掲げ、1本目から全力でぶつかってくると言っても過言ではないだろう。これまで勝ち続けてきたが、楽に勝てた試合など一つもない。だからこそ、最後は思いっきり出し尽くすだけ。

理想のバレーをすることも大事。でもそれ以上に、みんながいい顔でプレーできるように(撮影・松永早弥香)

「もちろん勝ちたいです。でもそれ以上に、みんながいい顔をして楽しくバレーをしたい。点をとられたら悔しがって、そこから切り替えて、1点とったら全力で喜んで。僕はそういう単純なことでいいと思うんです。理想のバレー、理想の形もあるけど、それ以上にみんながどれだけいい顔で戦えるか。これまでずっとみんなの表情を見てきたから、『いまは楽しいんや』『いまは楽しくないんやな』ってすぐ分かります。確かにこれまでの試合では劣勢の場面は少なかったかもしれないけど、でもだからこそ劣勢になったときは『俺の出番やな』と常に思ってます。そういうときに何かしたいし、そこで何かできるのが4年生で、キャプテンやと思うんで」

この全日本インカレでどんなフィナーレを迎えるか。いまはまだ分からない。でも願うのは一つ。大好きなバレーを楽しみたい。もちろん、最高の笑顔で。

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