バレー

特集:全日本バレー大学選手権2021

早稲田大・荒尾怜音「日本一のリベロに」、春高の悔しさもけがの恐怖も乗り越えて

早稲田大は今年の全日本インカレで5連覇を成し遂げ、荒尾はベストリベロ賞に選ばれた(撮影・全て松永早弥香)

第74回 全日本大学男子選手権 決勝

12月5日@大田区総合体育館(東京)
早稲田大学3(26-24.19-25.25-18.25-17)1順天堂大学
早稲田大学が5連覇

12月5日の全日本インカレ決勝で早稲田大学は順天堂大学を破り、5連覇を達成した。えんじ色のユニホームで味わう、2度目の日本一。リベロの荒尾怜音(れおん、2年、鎮西)は昨季とはまた違う喜びを噛(か)みしめた。

「去年は大会前から前評判で『早稲田は強い』と言われる中で迎えた大会、不安もあったけれど先輩に必死でついていって、勝つことができて嬉(うれ)しかったです。でも今年は色々なことがあった中で、決勝の舞台に立てたことがまず嬉しかった。特別な優勝で、特別な感情が芽生えました」

慣れないトータルディフェンスに涙することも

鎮西高校(熊本)1年生の時からレギュラーリベロとして、抜群の守備力を発揮。春高も制覇し、数々の全国大会に出場し、その都度多くの注目を集めてきた。だが、自身の感覚を重視するスタイルで戦ってきた高校時代と異なり、早稲田大入学後はブロックとの連携を重んじ、トータルディフェンスに徹する。今でこそ、当たり前にこなすプレーや対応するシステムの数々も、最初は戸惑うことばかり。1年生の頃は何をしたらいいのか分からず、実戦形式の練習中に涙したこともあったと振り返る。

荒尾は鎮西1年生の時にインターハイと春高を制し、その後、アンダーカテゴリー日本代表に選ばれている

「自分の感覚や勘で動くのではなく、チームの決まり事がある。考えれば考えるほど何をすればいいのか分からなくなってしまって、すごく苦しかったです。これだけすごいメンバーがいるのに、自分が拾えなかったらチームが負けてしまう。責任感もあるけれど、どうしよう、どうしよう、という思いもあって、不安ばかりでした」

全治2カ月のけが、以降も続いた恐怖

しかもコロナ禍で公式戦は軒並み中止。オープン戦を行うことはできたが、リーグ戦の経験もないまま、ほぼ初めての公式戦となったのが全日本インカレ。経験豊富なメンバーとともに4連覇を達成できたが、試練は2年目に訪れた。更なる成長を目指して練習に取り組んできた6月、練習中にブロックがタッチしたボールをレシーブに行こうと切り返した際、左膝(ひざ)が抜けるような感覚で痛みが生じ、病院へ行くと診断結果は亜脱臼と靭帯(じんたい)損傷。2カ月間、リハビリに取り組んだ。

高校時代から腰痛などけがに見舞われた経験はあるが、これほど長くコートを離れ、全体練習にも参加できないのは初めてのこと。8月に復帰を果たすも、練習時のふとした感覚の違いや、何げない動きの中で生じる恐怖との戦いでもあった。

「もう1回同じ症状になったら手術しなければならない、と言われたこともあって、あと一歩行かなきゃいけない、というところで咄嗟(とっさ)に止まってしまうんです。妥協するわけではないけれど、怖くて、イメージ通りのプレーがなかなかできませんでした」

「藍もすごいけど、最高のエースは泰杜だと証明したい」

少しずつ感覚を取り戻したのは、10月になって秋季リーグが始まり、試合を重ねるようになってから。練習中も何げない動きの中で「ヒヤッとすることもあった」と振り返るが、けがの恐怖以上に自らを奮い立たせる刺激もあった。同学年の高橋藍(日体大2年、東山)が日本代表に選出され、東京オリンピックに出場したことだ。

荒尾や水町泰杜(たいと、早稲田大2年、鎮西)が1年生だった時に鎮西は春高を制したが、2年生では3位、3年生ではベスト8。高校最後の年に春高を制したのは高橋がエースとして活躍した東山高校(京都)だった。

「上京してからもしばらく(自分たちが出場した)春高の映像は見られなかったんです。自分も泰杜も負けていないし負けたくない、と思うけれど、藍が春高で優勝して、日本代表に入るのを応援したい気持ちだけじゃなく、悔しさもありました。だから、藍も(大塚)達宣(たつのり、早稲田大3年、洛南)さんも出るからオリンピックも見ようと思ったんですけど、でもイラン戦しか見られなかった。悔しさ以上に、自分へのもどかしさがありました」

水町(左)は地元・熊本の隣町に住んでいたこともあり、小学生の時から切磋琢磨してきた

高校まで常に水町とセットにされることも多く、その都度「自分は自分だ」と思いながらも悔しかった。だが、高橋が東京オリンピックに出場し、若きエースとして取り上げられるのを見る中で、また別の感情が芽生えた。

「藍もすごいけど、最高のエースは泰杜だと証明したい、って。そのためには、2人一緒は嫌だとか言うんじゃなく、これからはこれまで以上に最強のコンビになって、泰杜を引き立てたい。そのために自分がどれだけ自己犠牲してでもボールをつなげるか。でも苦しい時こそ笑顔で、泰杜を押し上げたい、と思うようになりました」

同期の活躍をうらやむばかりでなく、自分も同じように成長するためには何が必要か、それもこれまで以上に考えるようになった。秋季リーグでリベロ賞は高橋和幸(順天堂大4年、駿台学園)が受賞し、自身はタイトルを取れずに終わったが、水町は攻撃でも活躍を収めながら、なおかつレシーブ賞とサーブレシーブ賞を受賞した。悔しがるばかりではなく、自身はどうすべきか。スイッチが入った。

「日本一のリベロになるために、まず今できることを突き詰めようと自覚が倍増しました」

秋季リーグリベロ賞の高橋和幸と全カレ決勝で対決

迎えた12月5日、全日本インカレの決勝。高橋和幸が主将を務める順天堂大学と対戦し、序盤は相手のブロック&レシーブに攻撃を封じられ、トータルディフェンスの完成度の高さを見せつけられるとともに、その中心となっている高橋の力を見せつけられた。だがそこでムキになるのではなく、流れを引き寄せるべく、1球1球のパスを丁寧に、上げられるボールは必ず上げる、と矢印を自分に向ける。

自然にプレーも落ち着きが生まれ、2セット目までは落とされていたフェイントボールや、味方のブロックに当てられたボールもつながる。相手の強打を立て続けにレシーブする荒尾のディフェンスからチャンスをつくり、大塚や水町、重藤トビアス赳(たけし、3年、荏田)の攻撃で早稲田大がブレイクを重ね、順天堂大を引き離す。最後はマッチポイントから大塚が決め、第4セットを25-17、3-1で勝利を収めるとコートで跳びはね、仲間と抱き合い喜びを爆発させた。

全カレ5連覇は早稲田大と中央大の2校、6連覇は筑波大のみ。4年生まで全カレ連覇を守り、7連覇で最長記録を目指す

「去年も嬉しかったけれど、今年の優勝はそれ以上。来年からは自分たちも上級生になるし、もっと安定感のあるプレーをして周りを動かせるような声がけができるようになりたいし、ならないといけない。僕たちが4年になるまで勝ち続ければ筑波大の6連覇を超えて7連覇できるので、結果を出し続けられるように、また一生懸命頑張ります」

笑顔の中に闘志を秘めて。負けず嫌いの守護神は、更なる飛躍を誓った。

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