バレー

早稲田大・水町泰杜 鎮西時代からの比類なきリーダー、「最後の1本」を決める日まで

名門・早稲田大の今季主将を務める水町(すべて撮影・井上翔太)

2019年以来、4シーズンぶりに早稲田大学が関東大学春季リーグを制した。

10勝1敗。堂々の優勝であり、昨シーズンは優勝争いを繰り広げながらもタイトルを獲得できずに終わっていた。そのリベンジを誓ったシーズン最初の春季リーグで、待望のタイトル奪取にもかかわらず、笑顔はない。むしろ、観客へのあいさつを終えると悔しさをこらえきれずに涙する選手もいた。

勝負勘も、仲間からの信頼も抜群

理由は明確だ。全勝優勝をかけて臨んだ最終戦を、勝利で飾れなかったこと。しかも2セットを先取しながらの逆転負けであったこと。それぞれが「あの1点」を悔やみ、自らの責任だと涙しながら控室へと引き上げた。そんな中、すっきりとした表情を浮かべていたのが、今季から背番号「1」を背負う、主将の水町泰杜(4年、鎮西)だった。

「よかった、とも思うんです。自分たちの課題が出た。東日本(インカレ)に向けてやらなきゃいけないことが見えた。だから結構悔しかったですけど、ある意味前向きに。課題をつぶすために、またここから練習ができる、と考えています」

鎮西時代からエースとして絶対的な存在であるだけでなく、高校2年時から主将を務め、チームにとって比類なきリーダーでもあった。大学入学直後は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、春、秋のリーグ戦や東日本インカレが相次いで中止となったが、全日本インカレでは主軸として活躍。高校時代は圧倒的なオフェンス力の印象も強かった中、レシーブ賞を受賞すると「レシーブでよく狙われました賞です」と笑わせた。攻守のバランスが良く、バレーセンスはずば抜けている。

加えて「ここで決めてほしい」という場面で逃げずに攻め、打ち切り、なおかつ決める。勝負勘も、仲間からの信頼感も抜群で、最終学年になった今季は満を持して主将に就任した。松井泰二監督も、水町の持つ天性のリーダーシップを称賛する。

「下級生の頃からバレーボールの授業でチームをつくってゲームをする時にも、学生たちに彼がリーダーとなっていろんなことを教えて、チームを盛り上げる。なかなかできることじゃないんです。実際キャプテンになって、去年一つもタイトルが取れなかった悔しさもあるとは思いますが、それを抜いても水町は『こういうチームをつくりたい』というものがハッキリしている。春季リーグで1年生を2人入れてもチームがうまく回っていますし、非常にいいキャプテンです」

高い打点からスパイクを打ち込む

周囲は「どこを探しても欠点がない」

高校時代からプレッシャーも背負い続けてきた。それでも平常心でプレーし、チームを牽引(けんいん)する水町について、同期の選手たちも「どこを探しても欠点がない」と口をそろえる。まさに無敵とも言うべき存在だが、水町自身は決して謙遜ではなく「周りがいるから頑張れる」と言い切り、特に同期の存在が大きい、と強調する。

「全員本当に仲が良いのも確かですけど、4年生がこれだけ試合に出ている代もないので、まず同期がしっかりやらないといけないという自覚があります。その上で、お互いのことを信用して、信頼しているから、僕がダメでも他の選手がやってくれるし、他の選手がダメな時は僕がやろうと思っている。コートの中でもそれぞれの役割が明確なので、任せられるところは任せられるから、自分は自分のやることをやりきろう、と思えるのが僕にとってはすごく大きいです」

強い言葉で引っ張るのは「口下手やから得意じゃない」と笑うが、ボールと人を「つなぐ」バレーボールを体現するかのように、人と人をつなぐコミュニケーションを重視し、実践する。それも水町の魅力の一つだ。

人と人をつなぐコミュニケーションを重視し、実践する

誰よりも先に、後輩たちへ声かけ

特に最終学年となった今季は同期だけでなく、後輩とコミュニケーションをとる機会も意図的に増やし、試合中もさまざまな場面でその時に応じた声かけをする。中央大学との最終戦でも、スタートで出場し、スパイク、サーブで活躍した畑虎太郎(2年、福井工大福井)が3セット目で交代を命じられ、代わって佐藤遥斗(1年、駿台学園)が投入された。

流れを変えるための一策とはいえ、交代を告げられた選手は自分が悪かったから代えられたのか、と落ち込むこともある。だからこそ水町は誰より先に、畑へ声をかけた。

「チームのために今必要なことを選択しているだけだから、虎太郎が悪いなんてことは絶対ないから。しょげる必要ないぞ」

試合中、畑(右)に声をかける姿が見られた

交代した佐藤に対しても同様だ。中央大は劣勢からの逆転に向け、3セット目からサーブに勢いが増した。その状況で佐藤は踏ん張りを見せるもこのセットを失う。さらに競り合った4セット目の終盤、佐藤のダイレクトスパイクがアウトと判定され25-27で競り負けた。結果的にフルセットの末、逆転負けを喫した直後に「自分のせいで負けた」と涙した佐藤をねぎらったのも水町だ。

「気にすることない。結果的に最後の1点が遥斗のスパイクだっただけで、全部が1点1点の積み重ねでああなっただけ。5セット目の最後も、(13-14と)追う場面であれだけ攻めるサーブが打てた。それで全然、十分だから」

1人が責任を背負うことなどない。むしろ背負わなければならないのであれば自分が背負う、とばかりに大きな背中でチームを引っ張る。だからこそ、キャプテンについていく。同期でリベロと主務を務める布台駿(4年、早稲田実業)が言った。

「プレーはもちろんですけど、泰杜の人間性は尊敬できることばかり。どんな時でも常に変わらず一定で、懐が深い。リーダーにとって重要なものを持っている人間。同期だけど、すごい選手だな、といつも思います」

「まだまだ強くなれるとわかった」

悔し涙とともに受け取った優勝カップに「複雑な気持ち」と苦笑いを浮かべながらも、すでに視線は先へと向いている。「あっという間に終わってしまった」と振り返るように、大学最後の春季リーグが終わり、残すは天皇杯を除けば東日本インカレ、秋季リーグ、全日本インカレしかない。

勝つことへの執着心や「自分がああなりたい、こうなりたい」という欲を見せることはない水町だが、エースとして譲れないこだわりもある。

「最後にトスが託される人って、うまい人じゃなく、ここで決めてほしい、ここで託したい、と思われる人ですよね。『この人なら決まる』よりも『この人に決めてほしい』と思う人に上がってくると思うから、そういう存在でありたいです」

「最後にトスを託される」存在にこだわる

全勝優勝はかなわずとも、新たな課題が見つかった。むしろそのこと自体にワクワクするかのように、前を向く。

「まだまだ強くなれるっていうのもわかったし、面白いっすよ、このチーム。強い時は本当に負ける気がしないけれど、崩れたら弱い。バレーボールって、面白いです」

誰より、バレーボールの面白さを知る男がそう言うなら間違いない。チームスローガンのように「大胆」に広がるばかり。最後の1本を託され、決めるその日まで――。

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