バレー

日体大・高橋藍(下)常に頭の中にある同期の存在、背中を押してくれる仲間のために

選手とのコミュニケーションは英語、店に入ればイタリア語でコミュニケーション(撮影・平野敬久)

日本体育大学に在籍しながらイタリアでプレーする高橋藍(3年、東山)が暮らすホームタウンのパドヴァには、1222年創立という長い歴史を誇り、かつてガリレオ・ガリレイも教壇に立ったパドヴァ大学がある。旧市街の周りには川が流れ、「生活には困らない」という静かな場所は日本の学生街と同じ空気感も漂う。

チームメートも若い選手が多く、普段のコミュニケーションは英語でとっているが、食事やカフェに行けば店員とイタリア語でコミュニケーションを取る姿も見られ、生活はすっかり板についてきた。

「自分が大学1年生の時はコロナでいろいろストップしてしまったんです。学校にも行けない、部活もできない、授業もオンラインという状況だったから、大学生ライフを満喫していない。先輩からは大学入るといろいろ楽しいぞ、と聞いていたのに全然何もできなくて。コロナが収まってからはすぐ日本代表の合宿もあったので、ほんと、楽しいキャンパスライフとは程遠いんですよ(笑)」

日体大・高橋藍(上)イタリアで1シーズンを戦い抜くと決めた背景は、昨季の「後悔」
関東リーグを制し、仲間と喜び合う高橋(20番、撮影・塩谷耕吾)

中央大学・藤原直也との交流

日本とイタリア。場所は違えど、同世代の若者が多く過ごす街で、バレーボールに明け暮れる。そんな日々の中でも、高校時代の同級生や大学の同期とは頻繁に連絡を取り合っている。特に大学の同期は入学当初から仲が良く、リーグ戦や全日本インカレ、代替わりのタイミングなどで電話で話し、高橋は変わらぬ大切な仲間だと言う。

「なかなか大学では一緒に試合へ出られていないので、たまに『藍と一緒にプレーしたいな』と言われます。もちろん僕も一緒にプレーしたいし、みんなと戦いたい気持ちはやまやまなんですけど、自分のために、と決めてイタリアへ来た以上、犠牲にしないと仕方ないこともたくさんある。寂しいと思うこともあるけれど、常に頭の中に(日体大の)同期8人の存在はありますね」

今年1月~3月、中央大学の男子バレー部に所属する藤原直也(3年、北嵯峨)、澤田晶(2年、愛工大名電)、山﨑真裕(2年、星城)、柿崎晃(2年、北海道科学大)の4選手が、ヴェローナ、チステルナ、シエナ、モデナとイタリアの4クラブに短期派遣という形で加わった。特に同学年で同じ京都出身の藤原とは現地でも連絡を取り合うことが多い。パドヴァからヴェローナが近いということもあるが、高校時代からライバルとして全国大会出場をかけて戦ってきた存在でもある。

「実際京都代表をかけて戦うライバルだったんですけど、僕はもともとライバル意識とか持たないタイプなんです。だから単純に直也もこっち(イタリア)に来てくれて、普通に会えるのがうれしいし、大学の話を聞けるのも楽しいんですよ」

イタリアで練習に励む高橋。寂しさを感じることもあるが同学年選手との交流がそれを埋める(撮影・平野敬久)

天理大・中島健斗とはお互いにリスペクト

重なる奇縁もあった。昨年の関東大学秋季リーグを全勝で制した中央大だが、全日本インカレでは3回戦でフルセットの末に惜敗した。相手は関西大学リーグの天理大学で、3年生ながら主将を務めたのが東山で高橋と鉄壁の関係を築いてきたセッターの中島健斗だ。中央大戦で中島と完璧なコンビネーションを発揮して得点を量産したのが、1学年下の楠本岳。振り返れば「最も濃い」という3年間、2年間をともに過ごした仲間が全日本インカレで活躍し、さらにその天理大を準々決勝で下したのが日体大だった。

高橋も出場した2年時、2021年の全日本インカレでは天理大に勝った。あれから時が経ち、高橋はかつての仲間が日本一をかけて戦う姿を見て改めて実感したことがあると振り返る。

「いろんなセッターがいて、特に日本のセッターは上手な選手ばかり。でもやっぱり僕にとってのナンバーワンは健斗やし、身長のことがウィークポイントにされるのかもしれないけれど、健斗は世界でも十分通用する選手だと改めて思いました」

高橋が東山高校に進学する決め手の一つとなった天理大の中島(撮影・井上翔太)

振り返れば、高校の進学先に東山を選んだ決め手は、兄の存在と同じぐらい中島の存在が大きかった。中学時代から全国を制し、トスの技術だけでなく、アタッカーの個性や長所を生かすトスワーク。得点する自分のほうが注目されることが多かったが、それもすべて「健斗のおかげ」と高橋は言う。

「1本1本丁寧で正確なのはもちろんですけど、僕からすると『ここは上げてほしい』というところでドンピシャにくれるんです。(日本代表の)関田(誠大)さんもすごいですけど、健斗の判断力とか、上げるタイミングが僕にとっては完璧すぎて。いつか将来、健斗と日本代表で世界を相手に戦えたら最高ですよね」

東京オリンピックの前、そして昨年の全日本インカレ。中島の取材ではよく高橋の話が出てきて、そのたび「藍はすごい」「あんなアタッカーとできて自分が成長させてもらった」と繰り返していた。そして同じように高橋も「健斗はすごい」「健斗とできたから自分が成長できた」と繰り返す。

誰よりもお互いをリスペクトしていることが伝わってくる。だが、直接言うのは気恥ずかしいと笑う。

「健斗はツンデレやから、LINEでは『藍はほんますごいわ』とか言ってくるくせに、会うと絶対言わないんです(笑)。でも、高校時代に自分が健斗にキレたこととか、それが今につながっているとか、健斗の言葉が書いてある記事を読むと僕もうれしいし、健斗の存在が僕にとっても刺激になる。僕の存在が健斗にとっても刺激になれていると思うので、お互いウィンウィンの関係。そういう存在って、本当にありがたいです」

天理大学・中島健斗 今も生きる東山時代のチームメート、高橋藍に「怒られた」経験
東山高校時代の同期で天理大の中島は「刺激になる」存在だ(撮影・平野敬久)

どこにいても、自分を信じて前に進む

日本代表に選出され、イタリアでプレーする道を選択した。日本で過ごせる日々は数えるほどしかなく、たまに帰っても会いたい仲間に会えるわけではない。ごくたまに、久しぶりに会う地元の友人から「藍はすっかり遠い存在になった」と言われると寂しさを覚えるが、一方で現役大学生でありながら世界と戦うトップランナーでありたい。そう願う以上、寂しさも振り払って前に進むしかない。

「(日体大で)今年キャプテンになった池城(浩太朗、3年、西原)もめちゃくちゃいいヤツで、ほんとは対角組んで試合に出たいし、『一緒にインカレで戦おうよ』と言われるとうれしいし、そうしたいと思うこともあります。でも同じぐらい同期のみんなは『藍は日本だけじゃなく、今いる場所で活躍する選手だからそっちで頑張れ』と認めて、みんなが背中を押してくれる。だから答えるために自分ももっと成長したいし、みんなが見た時に『藍はこんな選手たちと戦っているんだ』と思われるような場所で戦いたい。もっともっと上を目指して、今までいなかった選手、存在になりたいです」

イタリアでのシーズンを終えれば帰国し、また新たな戦いが始まる。成長を誓い、そして仲間たちの期待を背負って戦う。たとえどこにいようとも変わらないのは一つだけ。自分を信じて、前に進んでいくことだ。

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