バレー

特集:全日本バレー大学選手権2022

天理大学・中島健斗 今も生きる東山時代のチームメート、高橋藍に「怒られた」経験

フルセットで中央大を破り、笑顔の天理大主将の中島(すべて撮影・井上翔太)

第75回 全日本バレーボール大学男子選手権大会

12月1日@大田区総合体育館(東京)
天理大学3(22-25.26-28.28-26.25-22.15-10)2中央大学

接戦の末に2セットを連取された。しかも相手は関東秋季リーグを制した中央大学。そのまま押し切られてもおかしくない状況で、天理大学の主将・中島健斗(3年、東山)は冷静だった。第3セットが始まるまでのセット間、短い会話の中で楠本岳(2年、東山)が切り出した。

「(酒井)秀輔(2年、広島工大)にトスを集めるのが早い。もっと真ん中を使って、秀輔を楽に打たせたほうがいい」

真ん中を意識づけ、満を持してサイドへ

東日本で屈指の高さとブロック力を誇る中央大ディフェンスを警戒し、1、2セットは比較的トスを伸ばして、サイドブロッカーの外側に当てて出す攻撃を多用した。だが3セット目に入ると、伸ばすトスばかりでなく、レフトは少し中に切り込んで打つトスに切り替え、ミドルの速攻も積極的に使った。

相手に対して「真ん中の攻撃が多い」と意識づけ、満を持してサイドを使い、それまでブロックにかかり始めていた酒井の攻撃も要所で織り交ぜた。試合が動いたのは、第2セットに続いてデュースに突入した第3セット終盤、25-25の場面だ。

楠本は2年生ながら、チームの中心的な存在になっている

中央大のサーバーは、主将の佐藤篤裕(4年、市立船橋)。第1セットも天理大がリードしたところから、気迫と勝利への意志を込めた佐藤のサーブでポイントを重ね、中央大が逆転で先取した。同じ場面を再現するかのように、今度は2セットを失った状況で、再び佐藤にサーブ順が巡ってきた。狙い通り、佐藤のサーブはレシーブを崩し、そのまま返ったボールを中央大はダイレクト。だが楠本がレシーブし、中島がワンハンドでつなぐと、苦しい状況から金子穂嵩(3年、東山)が打ち切って、26-25。佐藤のサーブを1本で切り、嫌なイメージを払拭した天理大が、最後は楠本のスパイクで28-26、1、2セットに取り切れなかった接戦を制した。

ここから、大逆転劇が始まった。

「練習でやったことはない」咄嗟のプレー

セットカウント1-2。依然追う展開が続く第4セット中盤には、圧巻のプレーが飛び出した。

10-11で中央大が1点をリードし、新山輝(1年、九産大九州)のサーブから中央大の攻撃を切り返すと、ややセンターに近い位置でブロックに跳んだ楠本が、中島のトスを呼ぶ。

「B(クイック)!」

中島は多彩なトスを武器としている

本来はミドルブロッカーの選手が、セッターからやや離れた位置から仕掛ける攻撃。だが、アウトサイドヒッターが打ってはいけないというルールはない。相手コートを見て、守備が整っていないことを察知した楠本は、レフト側に戻って攻撃に入るよりも、ブロックに跳んだ位置からすぐに仕掛けられるBクイックを打つほうが効果的だと思い、咄嗟(とっさ)に攻撃準備へ入った。中島がその声と判断力に応え、相手ブロックも対応できない速さで楠本が放ったスパイクが決まり、11-11。天理大が追いついた。

鮮やかなコンビネーションだった。それは中学、高校でともに全国を制してきた2人だからなせる技。日ごろから練習を重ねているのかと思いきや、中島は苦笑いを浮かべ「練習でやったことは一度もない」と言い、楠本も「健斗とは長年やってきているから、自分が入れば雰囲気を察してトスを出してくれる」と信頼しているからのプレーだと明かす。

学年は楠本が一つ下だが、普段から互いを「岳」「健斗」と呼び合う関係で、勝負所でも臆さずスーパープレーをいくつもみせる。2人のビッグプレーで中央大に傾きかけた流れを一気に引き寄せた天理大が、第4セットを連取。第5セットも序盤から圧倒し、最後は金子のスパイクで15-10。鮮やかな逆転でベスト8進出を果たした。

ブロックの間を抜くスパイクを放った楠本

勝負勘の背景に、高橋藍の存在

攻守の立て直しを図る修正力の高さもさることながら、やはり勝利を引き寄せたのは中島のトスワークとゲームメイクだ。オポジットが止められたらミドルを使い、レフトのトスも打たせる位置やスピードも変えて、相手に的を絞らせない。序盤は止められていた酒井の攻撃も、終盤につれて面白いように決まり始めた。

「止められて、気持ち的にはダメだ、と思うこともありました。でもそこでも健斗さんはトスを上げ続けてくれた。だから『逃げちゃダメだ』と思えるんです。ラリー中も、僕が十分助走に入れるところ、トスが欲しい時に上げてくれるので信頼しきって攻撃に入ることができました」

多彩な攻撃を見せながら、勝負所はブロックが来るとわかっていてもエースに託す。セッターとして抜群の勝負勘を持つのが、中島の武器。その背景には高校の同級生でもある高橋藍(日体大3年、東山)の存在が大きい、と明かす。

「高校3年になってからの練習試合で、藍に『何であそこで俺にトスを持って来うへんねん』とめっちゃ怒られたんです。僕はセッターとして、エースの藍に負担をかけすぎないようにと考えて、あえていろんな攻撃を使ったり、勝負所も相手が藍に来ると思っているだろうから、違う攻撃を使うようにしていたんです。でも藍はエースとして『それは違うやろ』と。エースに持っていってシャットされたから、次はもっと決めやすいように、と他へ上げればエースのモヤモヤはたまり続ける。大事なところで決めたい、決めさせないといけない、そういうエースの気持ちは藍に教えてもらった。今日の試合で酒井に託せたのは、その経験があったおかげでした」

左から中島、辻本、楠本、金子。4人とも東山出身

3年生でキャプテンマークも背負う。1年時からレギュラーセッターとしてコートに立ち続けてきた中島がチームの中心であり、勝敗のカギを握る選手であるのは言うまでもない。加えて、楠本、金子だけでなく東山高出身の選手も多く、同じバレーボールを熟知していることも強さの一つ。加えて全日本インカレには、また特別な力と思いがある。4年生の存在だ。

支えてくれる4年生のためにも

レギュラーとしてコートに立ち、ユニホームを着るのはミドルブロッカーの野村裕大(4年、近江)だけ。他の4年生はスタッフとしてサポートに回るが、長い年月をともに過ごし、支えてくれたことに変わりはなく、むしろ感謝の思いは強くなった、と中島は言う。

「僕が入学してからずっとコートに立っていたのが野村さん。他のミドルに比べると確かに高さは負けているけれど、西日本インカレや関西リーグとは目の色も気合も違う。中大との試合でもいいタッチを何本も取ってくれたし、いいところで攻撃も決めてくれた。その思いに応えたい、いいところで決めてほしい、決めさせてあげたい、という気持ちはすごく強いです」

唯一の4年生としてコートに立つ野村

ベスト4進出をかけ、2日の準々決勝では昨年3回戦で敗れた日本体育大学と対戦する。「自分たちは弱いし、挑戦者であることは変わらない」と言う中島は、強者に対しどんなトスワークを展開するだろう。ミドルをどこで使い、バックアタックはどんな風に絡め、楠本とまた見たこともない攻撃を繰り出すかもしれない。やはり最後はエース勝負か、先輩に花を持たせるのか。

どんな展開になろうとも、これだけは間違いない。バレーボールって楽しい。そんな試合が見られるはずだ。

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