バレー

特集:全日本バレー大学選手権2022

早稲田大・大塚達宣 今季は限られた大学での戦い、インカレは「大事に楽しみたい」

今季は日本代表や教育実習の影響で、早稲田のユニホームを着る機会が少なかった(撮影・井上翔太)

これほど休みがなかった1年間は初めて。大変だった、と言いながらも早稲田大学の大塚達宣(4年、洛南)の笑顔は充実感に満ちていた。

「パナソニックで3か月、試合に使い続けてもらえて自分の武器が何か、自分はどういうプレーをすればいいかというのが明確になりました。そのおかげで日本代表がスタートする時の自分の状態も、昨シーズンとは全然違った。迷いなく、自信をもって臨むことができました」

大学3年生ながら、Vリーグ最優秀新人賞

卒業後にチームへ合流する大学4年生が、内定選手として出場するケースとは異なり、当時3年生の選手がV1リーグでプレーするのは初めての挑戦だった。大塚だけでなく、筑波大学のラリー・エバデダン(4年、松本国際)とともにパナソニックへ合流。「お客さん気分になるのは嫌だったし、自分が引っ張っていくぐらいの気持ちで臨んだ」と振り返る通り、アウトサイドヒッターとして出場を重ね、リーグ終了後には最優秀新人賞も獲得した。

早稲田大で5連覇を遂げた昨年の全日本インカレから間もなく、パナソニックに合流してVリーグを終えたかと思えば、今度はすぐに日本代表シーズンがスタート。国内合宿や欧州遠征を経てネーションズリーグに出場し、ここでも着実に出場機会を増やした。

中でも転機になったのが、フィリピンラウンドでのフランス戦だ。

国際大会での経験が大塚をさらにスケールアップさせた(撮影・田中夕子)

日本代表ではオポジットも経験

直前に日本代表チーム内で新型コロナウイルスの陽性者が相次ぎ、連戦に挑む中、選手たちはそれまでと異なるポジションでの出場を余儀なくされた。大塚も例外ではなく、本来はセッターの隣のポジションでサーブレシーブもして攻撃に参加するアウトサイドヒッターだが、フランス戦はセッターの対角で攻撃の比重が高いオポジットのポジションに入った。

昨夏の東京五輪前に開催されたネーションズリーグでも、数試合オポジットの経験があるとはいえ、相手はその五輪を制したフランスだ。生半可なプレーは通用しないとわかっていた。そこで多くのトスを託されたことが、後につながる自信になった。大塚はそう振り返る。

「今季の代表で(オポジットは)ぶっつけ本番に近い状況でした。でも、かなりの本数、トスを上げてもらって、自分も攻撃的ポジションなのでとにかく思い切り打とう、と。それでダメだったとしても、他に打てる選手はいるし、とにかく自分のやるべきことをやる。少しでも点を取って、チームを活気づけたいという一心でプレーしました」

試合はストレートで敗れたが、大塚の攻撃力はチームにとって新たな収穫となった。次戦のスロベニア戦では、再びアウトサイドヒッターとして主将の石川祐希の対角に入り、存在感を発揮した。

昨年の国際親善試合でスパイクを決める大塚(右、撮影・北村玲奈)

出場すれば、着実に役割を遂行

さらなる転機となったのが、8~9月にかけてスロベニア、ポーランドの2カ国で開催された世界選手権だ。

ネーションズリーグの決勝ラウンド直前に石川が負傷し、一時は世界選手権本戦の出場も危ぶまれた。主将であるだけでなく、イタリアでの実績、チームのエースである石川の存在は、目標とするベスト8、さらにはメダル獲得に向けて不可欠。ただ大塚は大会が近づいても「いい意味で焦りはなかった」と言う。

「祐希さんは確かにすごいし、欠かせない存在です。でも、たとえ祐希さんが最初から間に合わなかったとしても、それぞれの良さを発揮すれば、日本代表としてやるべきバレーができる、という手応えがあった。誰が出ても戦える強いチームになったという実感がありました」

もちろん大塚自身の成長も大きい。日本代表として臨んだ昨夏の東京オリンピック。12人のメンバーに選出されたが、出場機会はほとんどなく、充実感や満足感よりも悔しさや課題、「もっと強くならなければダメだ」という思いのほうが強く残った。世界選手権はカタール戦、ブラジル戦でスタメン出場。キューバ戦からはリリーフでの出場となったが、どんな状況でも出場すれば、着実に役割を遂行した。

時にサーブで崩し、時にスパイクで勝負所を取り切る。予選リーグを突破し、ベスト8をかけた決勝トーナメントの初戦でフランスと再戦。フルセットの末に敗れたものの、大塚には確かな手応えが残った。

今年の世界選手権は「自分の役割を全うできた」(撮影・田中夕子)

「オリンピックの時はふがいなさやもどかしさがありましたが、世界選手権はたとえスタートで出ていなくても、自分の役割を全うできたという実感がありました。負けたのは悔しいし、個人的にももっとできた、と思うところもありますが、昨シーズンとは比べられないほどのやりがいがありました」

代表で離れている間、取り続けたコミュニケーション

充実の代表シーズンを終え、早稲田大のユニホームを着て臨む最後の全日本インカレが、いよいよ始まる。

世界選手権を終えた後、すぐに教育実習が始まり、秋季リーグは出場どころか、帯同も限られるほどしかできなかった。最終学年で、チームの副将でもある。責任も増えるが、「信頼できる同期なので心配はしていなかった」。日本代表で離れている間も常にチームの結果はもちろん、練習の動画も共有しながら、気になることがあればその都度、個人的にも伝えるなどコミュニケーションは取り続けてきた。

教育実習を終えた後、秋季リーグの最終節となった東海大学、中央大学との2戦には自らも出場。コンディションや細かなコンビネーションはまだ万全ではなかったが、「インカレにつながる戦いができた」と言うように、ここでも手応えをつかんだ。

「チームの状態もどんどんよくなっているし、直前になった今でもまだ、このチームならできることがあると思います。周りの大学は『打倒・早稲田』で来るだろうし、しんどい戦いになるとはわかっていますが、全日本インカレの時の早稲田の雰囲気って、自分がその中にいてもすごいな、って思うんです。初戦を迎えるまでに、やれることは全部やって、1試合1試合、戦いながら成長する。一つひとつチーム力を上げながら戦っていきたいです」

秋のリーグ戦では中央大に敗れたものの、インカレにつながる敗戦だった(撮影・井上翔太)

「とにかく先手必勝」

何が起こるかわからないトーナメント戦の怖さや難しさは、これまでも経験して、勝ってきたからこそ理解している。一方、周囲からは前人未到の6連覇を期待する声が多い。大塚は冷静に受け止めている。

「正直、自分たちでは連覇とかあまり考えていないんです。決勝まで行けば6連戦、体力的にも厳しい戦いになるので、とにかく先手必勝。僕の個人的な思いを言うならば、早稲田のユニホームを着て戦う機会が今シーズンはすごく少なかったので、みんなと一緒にこのユニホームでできる戦いを大事に楽しみたい。その気持ちが一番強いです」

コロナ禍の3年間、数多くの制限もあった中で、細心の注意を払って試合に臨んできた。無観客試合を余儀なくされることもあったが、今季は多くの人たちの尽力もあって初戦から決勝まで、すべての試合が有観客で開催される。

「たくさんの方に見ていただけるのはうれしいけれど、やることは変わりません。すべての試合を全力で、仲間と、楽しみながらプレーしたいです」

間もなく始まるその時を、大塚自身が心待ちにしている。

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