バレー

特集:全日本バレー大学選手権2022

東海大学・佐藤駿一郎 代表経験のプライドと4年生の思い、最後のインカレにぶつける

まだ経験していないインカレ優勝へ、佐藤の思いは強い(撮影・田中夕子)

東海大学の佐藤駿一郎(4年、東北)が初めて「世界」を意識したのは、高校3年の時だった。

現役高校生ながら日本代表登録選手に選ばれ、U18日本代表として臨んだ世界ユース選手権では銅メダルを獲得。自分より高さやうまさで勝る相手と戦う楽しさもあったが、何より、近くで応援してくれる人たちの喜ぶ顔を見られるのがうれしかった。

「家族でバレーボールをしているのは自分だけなんです。でも、いろんな大会に出たり、メンバーに選ばれると、両親や祖母がすごく喜んでくれた。自分の家は『何事も徹底してやれ』という家族なので、期待に応えるためにも頑張ろう、と思う力になりました」

4年になってからの初タイトル

とはいえ、東海大へ入学して間もない頃は「とにかく大変だった」と苦笑いを浮かべる。厳しい練習や生活環境に音を上げそうになった。それも1度や2度ではなく、練習に寝坊して同学年に迷惑をかけたことも数えきれないほどある。その分、バレーボールで結果を残すことで恩返しをしたい、と必死に取り組んできた。だが3年時まではリーグ戦や全日本インカレで、タイトルの厚い壁を打ち破ることができず、何度も悔しさを味わった。

ようやく手にしたのは4年生になってからだった。春季リーグを全勝で制し、主将の山本龍(4年、洛南)を教育実習で欠いた状況で戦った東日本インカレも優勝。目標とする「大学四冠」に向け、上々のスタートを切った。

ブラン監督から感じる高い期待

再び日本代表に選出されたのも、同時期だ。

昨夏の東京オリンピックを終え、今年度からフィリップ・ブランが男子バレー日本代表監督に就任。2017年からコーチを務めたフランスの知将は、日本が世界と渡り合うべく、パリオリンピックへ向かう新たな日本代表の戦力として、高さを求めた。

身長205㎝の佐藤は、その象徴ともいうべき選手だ。特に高さが求められるミドルブロッカーの中で、着実に得点へつなげる攻撃力を高く評価されており、今年度の日本代表合宿がスタートした当初から、ブラン監督はことあるごとに佐藤の名を挙げ、期待の高さをうかがわせた。ただ前期は授業もあり合宿には参加できず、佐藤が日本代表合宿に合流したのは、ネーションズリーグを終えて世界選手権へ向かう時期。チームの形がほぼ出来上がっている段階だった。

205cmの身長からサーブを繰り出す(写真提供・関東大学バレーボール連盟)

チームとしてどう戦うか。明確なコンセプトに基づき、メンバーも固まりつつある中、高さを生かした攻撃力でどれだけ割って入るか。合宿中は周囲の選手とコミュニケーションを重ね、自らの技を磨いた。

限られたアピールの場で長所を発揮

その中で佐藤自身、「著しい進化を感じた」と手応えを感じたのがスパイクだ。

「山内(晶大 パナソニック、愛知学院大卒)さんや(小野寺)太志(JT広島、東海大卒)さんからスパイクの入り方をいろいろ教えてもらって、速く攻撃参加できるようになりました。今までは自分が攻撃に入る準備が優先で、ショートサーブも周りの選手に任せていたんですけど、代表ではショートサーブをミドルがレシーブして攻撃に入るのも当たり前。行けるボールは『俺が取るよ』と周りにアピールできるようになったのは、少し成長したところかな、と思います」

ネーションズリーグで長所や武器を発揮してきた周囲の選手とは異なり、佐藤のアピール機会は、合宿や直前の練習試合しかない。その短期間でいかに自分の長所を示すのかを考えると、とにかく打つしかない。高さを生かし、さまざまなコースへ打ち分ける。そんな姿を、練習中から冗談交じりに先輩選手たちから褒められた、と笑う。

「『駿一郎のスパイク、やばくね、めっちゃ高いし、お前強いわ』って(笑)。自分でも一番の武器はスパイクだと思っているので、そう言ってもらえるとうれしいし、日本では高いと言われても、海外を相手に考えたら自分の高さも特別じゃない。もっと高く、強く、と意識するようになったのは、大学に帰ってきてからも少し生かされていると感じます」

「一番の武器」というスパイクは代表でも手応えを得た(写真提供・関東大学バレーボール連盟)

「世界」が明確になったフランス戦

成長や変化はプレー面だけではなかった。世界選手権では、これまで以上に世界のトップを体感し、自らが目指す「世界」がより明確になった。象徴的だったのが、準々決勝のフランス戦だ。

昨夏の東京オリンピックで金メダルを獲得し、2年後に自国開催を迎えるパリ大会でも優勝候補の本命と目される相手であり、準々決勝の対戦が決まった時は「正直、勝てないだろうと思っていた」と佐藤は言う。フランスは現在のバレーボール界を引っ張るチームの一つであるのは間違いない。

その誰もが認める強豪に対し、真っ向勝負でフルセットに及ぶ熱戦を繰り広げ、先にマッチポイントに到達する日本は大いに世界を驚かせた。結果的にフルセットで敗れはしたが、その戦いぶりに称賛の声も寄せられ、佐藤も「大きな刺激を受けた」と振り返る。

「自分もあの舞台に立って試合をしたい、と思いました。今の力では、ヤマ(山内)さんと太志さんには及ばないし、スパイクも、ブロックもサーブもまだまだ圧倒的に足りない。世界で戦うために、自分にやらないといけないことがたくさんあると、あの試合で痛感させられました」

フランス戦を経験し、自らがめざすレベルがクリアになった(撮影・田中夕子)

「チームを安心させられるプレーを」

帰国から間もなく、目標とする「四冠」のため秋季リーグに臨んだ。だが、優勝した中央大学、準優勝の早稲田大学、3位の筑波大学に敗れ、東海大は最終成績を4位で終えた。目指した結果が得られなかったとはいえ、チームとしては、間もなく迎える全日本インカレに向け、前向きな課題を得られた。一方で、個人に目を向けると、課題が残る大会となった。

「(主将の山本)龍からも『2mのミドルで、高さを生かせる選手ってそんなにいない。駿一郎が決めないとこのチームは勝てないから、トスもどんどん持って行くから』と言われてきたのに、秋リーグはその期待に応えられなくて負けました。樋内(竜也、4年、崇徳)も頑張って打ってくれたけど、高さがない分、マークが集まると厳しいので、もっと自分が決めないと、と痛感しました。自分がミスをすればチームに不安を与えるけれど、決めれば安心するので、チームを安心させるプレーをしなきゃダメだと思いました」

過去3年間、トーナメントでは何が起こるかわからないと実感してきた。いまだ決勝の舞台に立ったことがなく、最後の全日本インカレは、日本代表として世界を経験したプライドと、4年生として臨む最後の大会としての思いをぶつける場所でもある。

「世界選手権でものすごく勉強になったことをチームに生かして、勝利に貢献したい。龍とは4年間、コンビを合わせてきて、2人のホットラインを築いてきたと思っているし、自分がチームの大黒柱だという責任、自覚をもって、どんな厳しい状況でも必ず点を取ること。秋季リーグは勝てず、四冠は達成できませんでしたが、チームのため、自分のために、最後は絶対勝ちたい。全日本インカレでは1チーム1チーム、すべてのチームに勝利して最後に日本一になりたいです」

3度目の正直ならぬ、4度目の正直。東海大のユニフォームで戦う1試合1試合を全力で戦い抜く覚悟だ。

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