日体大が6年ぶりの決勝、王者・早稲田に挑戦 西村信という柱がいる日体大の強さ
第73回 全日本大学男子選手権 準決勝
12月4日
日本体育大学 3(25-17.25-19.25-16)0 日本大学
前日の熱戦も引きずることなく、それぞれが何をすべきか。頭も体も冷静だった。67回大会以来6年ぶりのインカレ決勝進出を決めた日本体育大学主将、西村信(4年、高川学園)はそう言う。
「一人ひとりの役割を理解して、前半から落ち着いてバレーができました。サイドアウトを取ればうちのチームは絶対負けないので、意識したのはそれだけ。ある意味、余裕を持って試合に臨むことができました」
勝負所を逃がさず、ただひたすらボールをつなぐ
第1セットのスタートこそ日本大学に先行されたが、高橋良(4年、清風)のサーブでブレイクを重ね、ルーキー高橋藍(東山)のバックアタックが続けて決まり、8-5。準々決勝でシード校の東海大学を下し、勢いに乗る日大だが、堅実に、重ねてきた練習の成果を発揮することに務めた日体大が終始主導権を握る。危なげなく、25-17で第1セットを先取した。
身長は175cm。抜群の跳躍力で最高到達点は330cmと決して周りに引けは取らないが、高さがあればそれだけ優位に立つバレーで、身長が低い選手は常にリスクを背負う。だが西村のプレーを見れば、小ささは決してネガティブな要素ではないと分かる。
たとえ目の前にブロックがそびえ立とうと、むしろその高さを利用してしまえ、とブロックに当ててコートサイドに出したり、力いっぱいに当てて飛ばしたり、練習さえ重ねればいくらでも繰り出せる技はある。なおかつ勝負所を逃がさず、攻めるべきは攻め、仲間の打ったボールがブロックに阻まれればどこまでだって追いかけて、ただひたすらボールをつなぐ。常に全力プレーで、コートの後方、前方、どこにいてもチームを支える柱。それがキャプテン・西村が磨き上げてきた自らの生きる道だ。
後輩のためにも「サーブレシーブとサーブ」を意識
高川学園高時代から小さな大エースとして活躍し、3年生の時には春高で3位と好成績を収めた。当時からチームの中心、かつ攻守の要として絶対的な存在。日体大でも抜群のリーダーシップを発揮しているのだが、西村の捉え方は違う。
「僕は自分が引っ張れるようないいキャプテンじゃないんです。むしろ自分がダメなところはどんどん後輩に指摘してほしい。その代わり僕もダメなところがあると思えば指摘するし、学年やキャプテンという立場は関係なく、みんなでチームをつくることができれば、と思ってやってきました」
常に心掛けてきたのは、いかに周りを思う存分プレーさせられることができるか。自身の長所を出すことよりも、むしろ一緒にコートへ入る選手が伸び伸びとプレーできるように。最上級生になってからは特に、後輩がプレーしやすい環境を整えるべく、意識して取り組んできたプレーは「サーブレシーブとサーブ」と西村は言う。
「うちのチームにはすごい選手がいっぱいいる。だからこそ、生かすためには1本目のサーブレシーブが生命線だと思うので、まずはそこでどれだけ貢献できるか。丁寧にセッターへパスを返せればそれだけいい攻撃につながる。そこにプラスしてサーブでブレイクを重ねれば勝つチャンスも広がるので、本当は常に全力でサーブを打って攻めたいけれどあえて7~8割の力で、相手を崩すサーブを打つ。それが自分の持ち味で、やるべきことだと思っています」
高橋藍、西村主将の支えで「常に安心感がある」
準決勝でもまさにそんな場面が見られた。自身がサーブを打つ時に相手の攻撃パターンを読み、どこへサーブを打てば攻撃が絞れるか。レシーブ力に長けたリベロを狙うのではなく、レシーブをしてから攻撃に入るアウトサイドヒッターを狙い、ブロックでタッチを取り、高橋良や高橋藍、高い攻撃力を持つ選手につなげ、着実に得点する。
特に準々決勝の終盤にも得点源として活躍したルーキーで、今季の日本代表候補にも選出された高橋藍を、西村は「大エースなので一緒にプレーしていて頼もしい」と称する。その高橋藍は、自身が思い切りプレーできるのも西村の支えがあるからと言う。
「高校時代からマコさんは自分が引っ張って、エースとして活躍してきた人。自分も高校ではキャプテンをやらせてもらいましたけど、大学は他の都道府県からもたくさんの選手が集まっている集団なので、マコさんが軸となり引っ張ってくれるだけで気持ちが楽になる。常に安心感があるので、自分の武器である攻撃も思いきりできている。4年生にとって最後の大会なので、ここまで支えてもらった分、自分にできることを思いきりやりきって返したいです」
有言実行とばかりに、準決勝でも次々スパイクを決めたルーキーの活躍と支える4年生たちの力。チームがひとつになったバレーを終始展開した日体大が3-0で日大を打破し、決勝進出を決めた。
チーム力で王者・早稲田に挑む
緊急事態宣言が出てからは、練習どころか仲間と顔を合わせることもできなかったが、そんな状況だからと積極的にZoomでミーティングを行い、トレーニング動画を送り合うなどコミュニケーションは深めてきた。思うように試合や練習すらできず、苦しい我慢の時間も続いた大学最後の年だが、最後の最後にようやく巡ってきた、王者・早稲田への挑戦権。気負うことなく晴れやかに。西村が言った。
「試合に出るメンバーだけじゃなく、メンバーに入っていない選手もみんなが団結している。一人ひとりの力だったら勝てないかもしれないけれど、チーム力で早稲田を上回って日本一になりたいです」
決戦は2日後の12月6日。これまで積み重ねてきたことを信じて、胸を張って、勝負の時を迎えるだけだ。